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ピアニストの浮気相手を助けるべく、妻は執刀医である私の両手を容赦なく砕いた

作者:熾星
最終エピソード掲載日:2026/08/13
 ドイツの大学病院で二年間の研究留学を終え、東京へ戻ってきたとき、妻のそばには見知らぬ男がいた。

 僕はもともと神谷直人という。東京の私立大学病院で心臓血管外科の講師を務める、心臓血管外科専門医だ。結婚するときに妻の姓である月城を選んだため、戸籍上は月城直人になったが、病院や学会では以前から使っていた「神谷」の姓をそのまま使用している。そのため、同僚も患者も今までどおり僕を「神谷先生」と呼んでいた。

 妻の玲奈は月城家の娘だ。月城ホールディングスは東京証券取引所に上場する大手企業グループで、玲奈の父は代表取締役会長を務めている。玲奈自身も取締役であり、グループが長年支援してきた月城文化財団の理事でもあった。

 僕たちの夫婦関係がおかしくなり始めたのは、一ノ瀬奏真が現れてからだった。

 一ノ瀬は二十九歳。ここ二年ほどで一気に名を上げた若手ピアニスト兼作曲家だ。メディアは彼の両手を「天才の手」ともてはやし、月城文化財団は彼の主要スポンサーになっていた。そのプロジェクトを担当していたのが玲奈だった。

 皮肉なことに、一ノ瀬の目元は若い頃の僕にどこか似ていた。
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