第9話:【灼ける火は運命を焼き尽くす】
黒いそれが消えた、速い…だが――
ナナシは動いた、振り向きざま、拳を振るう。
ゴォッ!!
炎が弾け、空間を薙ぐ。
黒い影が弾き飛ばされ、地面を削りながら形を崩す。
だが――消えない。
崩れたはずのそれは、ぬめるように形を戻す。ナナシは一歩踏み込み拳を叩き込んだ。
ドォン!!
確かな手応え、炎が内部へと流れ込み、黒いそれを歪ませる。
だが――戻る、すぐに元の形へと
「……しつこいな」
短く吐き捨てる、黒いそれが揺らぎ次の瞬間、形を変えた。
腕が伸び、刃のように尖り振り下ろされる。
ナナシが横へ躱すと地面が抉れ、雪が吹き飛ぶ。
そのまま踏み込み、炎を纏った拳を叩き込む。
ゴッ!!
だが浅い、黒いそれが“避けた”。
ナナシは距離を取り炎が揺れる。
相手も揺らぐ、互いに間合いを測るように……黒いそれが、ゆっくりと形を整える。
人に近い形、だが歪んでいる。
それでも確かに――こちらを見ている。
ドクン
籠手が脈打つ。
強く。
警告するように、黒いそれが一歩踏み出す。
空気が歪み次の瞬間、消えた。
ナナシの視界から――背後振り向き拳をぶつける。
ゴォン!!
衝突し赤と黒がぶつかり、空気が爆ぜる。
押し合う。
数秒の拮抗。
それが弾けるとともに互いに距離を取る。
ナナシは息を吐き装甲がわずかに軋む。
だが黒いそれは、崩れながらも形を保つ。
完全には壊れない。
「……終わらせる」
小さく呟き雪が降り始める。
ナナシは視線を落とす視線は左腕、否――籠手へ
そこに――違和感。
(……ここ、か)
無意識に、手首へと触れる。
指が、装甲の継ぎ目をなぞる。
カシャッ
音と共に、手首の装甲がスライドし内部の機構が露出する。
赤い光が、一斉にそこへと吸い込まれていく。
「……っ」
脈打つ。
収束する。
炎が、すべて一点へと集まっていく。
ドクン
ドクン
鼓動が、強くなり熱が圧縮され空気が歪む。
雪が、近づくだけで溶ける。
黒いそれが動き迫ってくる形を崩しながら、こちらへ伸びる。
ナナシは拳を引く。
そしてそのまま――
ガチン
装甲を閉じた。
収束した力が内側に固定される、逃げ場はない。
あとは――
「……終わりだ」
一歩踏み込み距離が消える。
拳を振りかぶる。
【Break the Fate―Ignis】
低く、機械的な音声とともに振り抜く。
ゴォォォォォォォッ!!
炎が、爆ぜた。
一直線に――逃げ場を与えない。
黒いそれを、呑み込み焼く。
叩き込む。
貫く。
『――――』
声にならない何かが歪む。
逃げようとする。
形を変える。
だが――
「逃がすかよ」
低く、吐き捨てる。
炎が、内側から焼き尽くす。
黒いそれの“存在”そのものを。
「―――!!!!」
「なっ!?」
ナナシは驚きの声をあげた、何故ならばメルムに瞳が現れそれが睨むようにこちらを見ていたからである
ドォン!!
爆発とともに地面が抉れ、衝撃が森を揺れると雪が舞い上がり、視界が白く染まる。
やがて――静寂が訪れる。
炎が、ゆっくりと収まっていく。
スライドしていた装甲が、静かに元の位置へと戻る。
そこにはもう、何もなかった。
黒いそれは、完全に消えていた。
再生もしない。
動きもしない。
ただ――
消えた。
ナナシは拳を下ろす。
装甲の熱が、少しずつ引いていく。
「……はぁ………はぁ…おわっ…た?」
短く息を吐く。
雪だけが、何事もなかったように降り続けていた。




