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第10話:【助けたのに拘束されそうなんだが?】

 さっきまでの轟音が嘘みたいに、森は静まり返っている。


 ナナシはその場に立ったまま、ゆっくりと拳を下ろした、装甲の隙間から漏れていた赤い光がわずかに弱まっていく。


「……はぁ……はぁ……」


 呼吸が荒い、戦いの熱がようやく引き始めていた。


 その時だった。


 カシャッ


 小さな音が鳴る、ナナシは反射的に左腕へと視線を落とした。


 籠手――その手首部分の装甲が、ひとりでにスライドしている。


「……え?」


 赤く染まっていた鍵が、ゆっくりと回転した。


Driveドライヴ Offオフ


 低く機械的な音声が響いた瞬間――装甲が、崩れた。


 赤い粒子となって、風に溶けていく。まるで“最初から存在していなかった”みたいに――静かだ。


 さっきまで耳を打っていた轟音が、嘘みたいに消えている。


  熱が、抜けていく。身体の奥から何かが引き剥がされるように


「うわっ……」


 思わず一歩よろける、慌てて踏みとどまりながら自分の手を見る。


 さっきまでの力が、まるで最初から無かったみたいに消えていた。


「……なんだよこれ……」


 呟く声に実感が乗らない、夢を見ていたみたいだ。


 その時。


「……終わったみてぇだな」


 後ろから声がした。


 振り向くとイリスが立っている、仮面の奥からこちらを見ているが、その視線はさっきまでより少しだけ鋭かった。


「う、うん……たぶん……」


 ナナシは曖昧に返す、自分でも何をしたのかよく分かっていない。


「……なんなんだよ、これ」


 もう一度、左腕の籠手を見る、今はただ静かにそこにあるだけだ。


「レリクスだろ」


「いや、それは聞いた!」


 思わず声が大きくなる。


「そうじゃなくてさ!急に鎧出てきて火効かなくて最後なんかよく分かんないけどぶっ飛ばしてて、普通に怖いんだけど!?」


イリスは顔をしかめると、両耳に指を突っ込んだ。


「うるせぇ、オマエがやったことだろ」


「自覚ないのが一番怖いんだって!」


 ナナシは頭を抱える、さっきの感覚を思い出そうとするがうまく掴めない、ただ確かに“分かっていた”気がする。


「……でも」


 ぽつりと呟く。


「なんか……出来る気はするんだよな」


「は?」


「やり方知らないはずなのにさ、こう……身体が勝手に動くっていうか」


 籠手の拳を握る、当然炎は出ない、ただの籠手だ。


「……なにか思い出しそうな…」


 イリスは少しだけ黙りほんの一瞬だけ考えるようにしてから、吐き捨てる。


「……気持ちわり」


「ひどくない!?」


「まあ、オマエは普通じゃねぇってことだ」


 短い一言、ナナシは少しだけ黙り、視線を落とす。


「……普通じゃない、か」


 その時だった。


 ザッ、と雪を踏みしめる音がした。


 二人同時に顔を上げる、森の奥から黒い外套の集団――監査局の連中が戻ってきていた。


「あー……」


 ナナシの顔が引きつる。


「忘れてた……」


「オマエほんとバカだな」


「いや仕方ないだろあの流れは!」


 小声で言い合う間にも、足音は止まらない。


 先頭の男が立ち止まり、周囲を一瞥したあとナナシへ視線を向ける。


「対象、確認」


 低い声。


「貴様、今何をした」


「いやえっと……」


 説明が出てこない、というか出来ない。


「メルム反応は完全に消失している、貴様の仕業と見て間違いないな」


「え、いや……まあ……」


 曖昧に答えるしかない。


 空気が一気に張り詰める。


「対象者を重要参考人として拘束する」


「いや待って!?さっき助けたよね!?」


「それとこれとは別だ」


「理不尽すぎるだろ!」


 ナナシが思わず叫ぶ、横でイリスが舌打ちした。


「……面倒だな」


 一歩前に出る、その瞬間空気がわずかに冷える。


「オイ、やる気か?」


 低い声。


 ナナシが慌てて割って入る。


「待て待て待て!ここでまた戦うのはさすがにまずいって!」


「じゃあどうすんだよ」


「それは……」


 言葉に詰まる、確かに何も考えていない。


 黒衣の男が手を上げ、周囲の者たちが一斉に構えを取る。


 その瞬間――


「ちょ〜っと待ったぁ〜〜〜!」


 場違いな声が辺りに響き全員の視線がそちらへ向く。


 雪の中、無精髭の男が片手をひらひら振りながら歩いてくる。


「いやいや、まいったねぇ、ちょっと目を離したらこれだ」


「……リガン」


 イリスが低く呟く。


「なんでここにいんだよ」


「ダンの爺さんに頼まれてねぇ、尻拭いにきたんだけどね、予想外すぎる結果だったよ」


 リガンと呼ばれた男は軽く笑いながら黒衣の男へ向き直ると、懐から一枚の書状を取り出した。


「監査局のヒトには悪いけど、はいこれ」


 差し出されたそれを受け取った男の動きが、止まる。


「……これは……王印付き特務調査令……」


「そういうこと、メルム案件はこっちの管轄、対象者二名の身柄はダン・オルグレスト預かりで頼むわ」


 軽い口調。


 だがその言葉は重い。


「……なぜ貴様がそれを持っている」


「コネがあってさ〜」


 リガンは肩をすくめる。


 沈黙が落ちる。


 やがて、男は小さく息を吐いた。


「……現場調査は継続する」


「どうぞどうぞ」


「対象者については後日報告を求める」


「勿論さ!ちゃんと送るよ〜」


 黒衣の男はナナシを一瞥する。


「……その力、監査対象だ」


 それだけ言い残し、集団は静かに撤収していった。


 足音が遠ざかる。


 やがて完全に消える。


 ナナシはぽかんとしたままリガンを見る。


「……えっと」


「ん?」


「あんた、何者?」


 リガンは少しだけ笑った。


「フッ…通りすがりのおにいさんさ」


 イリスが即座に吐き捨てる。


「胡散くせぇおっさんだろ」


「おっさん!?俺はまだ29だっつーの!」


 軽い調子にふざけた言動、戦いの余熱が残るその場でその声は妙に浮いていた。

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