第7話:【赤く染まる鍵は運命を壊す】
ドクン
ナナシは目を覚ました瞬間―荒い呼吸が、白く空気に溶けていく。
「……なんなんだ……今の……」
ぼんやりとした意識の中、さっきまで見ていた光景が頭に残っている。
白い鍵、そして影。
意味の分からない声。
本当に夢……?いや、妙に現実味があった気がする。
胸の奥がざわついている、ナナシはゆっくりと左腕を見る。
暗紫色の籠手。
相変わらずそこにある。
「……はあ…お前なんなんだよ……」
「おい」
「うおっ!?」
顔を上げると目の前に仮面。
あまりの至近距離に思わず後ろに仰け反る。
「なになに!?心臓飛び出すかと思ったわ!」
「うるせぇ」
イリスは面倒くさそうに言い放つ。
「お客さんが来たみてぇだぞ」
「お客さん?」
その言葉の意味を理解する前に――
バンッ!!
扉が勢いよく開かれ、冷たい空気と共に、複数の人影が流れ込んでくる。
黒い外套で顔は見えない、無駄のない動きで一斉に散開するとナナシとイリスを中心に、円を描くように配置された。
(え、なにこれ…どういう状況…!?)
足がすくむ、空気が違うというか、ただ立っているだけなのに圧がある。というか全身黒ずくめが周りを取り囲んでいるんだ、圧しかない。
黒衣の一人が、一歩前に出る。
「お前達」
低い声だ、感情がほとんど乗っていない。
「ここで一体何をしている」
問いかけてくるけど声音的にそれは確認じゃない、まるで“尋問”だ。
ナナシは思わず口を開きかける。
が――
「答える義務があんのか?」
「ちょっ!?イリス!?」
横でイリスが即答していた。
(いやいやいやいや!!)
ナナシの心の中で警報が鳴り響く。
(絶対今偉そうな態度しちゃだめでしょ!?)
だがイリスは一切引かない、むしろ一歩前に出る。
だがイリスは一歩も引かない。
「……答えないならば拘束させてもらう」
男が淡々と告げる。
同時に、懐から何かを取り出した。
金属質の光。
輪のような形状が展開する。
「対象拘束用レリクス、展開」
空気が張り詰め、同時にイリスの周囲に、冷気が集まる。
(やばいってこれ……!!)
次の瞬間――
ズシン
地面が大きく揺れた。
「……っ?」
全員の動きが止まる。
もう一度。
ズシン……ズシン……
規則的な振動、森の奥からだとわかる。
そして――
『ォォォォォォォ……』
低く、重い咆哮が森全体へ響くような轟音。
「……外だ」
男が短く言う。
視線が鋭くなる。
「状況を確認する」
周囲の黒衣に指示を出しながら、ナナシたちを睨む。
「貴様らは動くな」
そう言い残し、外へ出ていく。
全員がそれに続いた。
小屋に残されたのはナナシとイリスだけ。
「……なんなんだよ今の……」
「行くぞ」
「は?」
「外だ」
「えええ!?」
だがイリスはもう動いていた、ナナシも取り敢えず慌てながらも後を追う、そして外に出た瞬間――
「……は?」
言葉を失った。なんと言ってもそこにいたのは、さっきのゴーレムだ。
だが、明らかに姿がおかしい全身が赤く、まるで内側から燃えているように発光している。
そして――氷が、完全に溶けていた。
「……ありえねぇ」
イリスが呟く。
「あの氷は半永久的に溶けねぇはずだ、まさか……誰かが……?」
その背後、木々の影の中に――“何か”が立っていた。
黒い輪郭、揺らぐ存在がただ、ただ、見ている。
誰も気づかないまま。
「総員、攻撃開始」
黒衣たちが一斉に動く、統率の取れた連携だ。
だが――
ゴーレムが腕を振るう。
一撃、それだけで数人が吹き飛ぶ。
「ぐっ……!」
残りも続けて攻撃するが、まるで通らない。唯一、先程の男だけが対抗している。
(……やばいだろ、これ)
ナナシの足がすくむ。
怖い。
逃げたい。
関わりたくない。
なのに。
「……いや」
一瞬だけ、足が止まり、すぐに顔を上げる。
「……でもさ」
拳を握る。
「見てるだけとか無理だろ!」
走る。
「おい、バカっ!!」
イリスの声を背に受けながら、
ナナシはゴーレムと倒れている黒衣たちの間に飛び込んだ。
「貴様!何のつもりだ!?死ぬ気か!?」
倒れている一人が叫ぶ。
「いや!分かんないけど見殺しは無理!!」
その瞬間。
ゴーレムの口が開く。
内部が赤く光る。
(……あ、これやば)
「いや!それは聞いてないって!!」
炎が放たれ、咄嗟に目を閉じる。
――だが。
熱くない。
「……え?」
ゆっくりと目を開ける。
目の前には、“白い鍵”が浮かんでいた。
それは炎を、受け止めている。
「……へ?」
理解が追いつかないまま、鍵が、光る。
そして――
赤く染まっていく。まるで一つの火のように…そしてナナシの手に収まる。
その瞬間、頭に流れ込む。
影が同じ籠手を持っている
影は鍵を籠手へと差し込んでいく、まるで御手本を見せるかのように
「……ああ」
口から漏れる。
「そう…か……」
理解じゃない。
思い出した。
ナナシは鍵を見る。
そして、籠手へと持っていく
「運命なんて――」
一拍。
息を吐く。
「ぶっ壊してやる」
光が、爆ぜた。




