第5話:【防いでるだけじゃ終われない】
白い鎧が軋む。動くたびにわずかに歪み、存在そのものが安定していない。
「……くっそ……動きづらい……!」
ナナシは踏み込み、拳を振るう。遅い。重い。だが、それでも見えている――ゴーレムの拳の軌道は確実に。
【Reject】
弾く。その隙にさらに一歩踏み込む。
「っ……!」
拳を叩き込むが、浅い。
「……しまっ……!」
揺れただけだ。倒れない。
『ォォォオオオ!!』
即座に反撃。黒い筋が脈打ち、巨大な拳が振り下ろされる。
【Reject】
弾く――だが。
「っ……重っ……!?」
押される。完全には逸らしきれない。足が地面にめり込む。
「ガハッ……!」
血が滲む。防げる――だが、無敵じゃない。
そのとき。
「ナナシ!横だ!」
イリスの声に反射的に体を捻る。
【Reject】
横薙ぎを弾くが、体勢が崩れる。
「なにやってんだ!そのままじゃ死ぬぞ!」
「分かってるってぇ!!」
叫び返すが、どうしようもない。速く動けない。攻撃も通らない。
できるのは――“耐えること”だけ。
『ォォォオオオ!!』
ゴーレムが一直線に突っ込んでくる。
避けられない。
「っ……来い……!」
ナナシはあえて踏み込んだ。真正面から拳を引く。遅い――だが、タイミングだけは合わせる。
【Reject】
衝突の瞬間、軌道がわずかにズレる。
ドクンッ!!
「なんだ……!?」
籠手が脈打つ。心臓のように。暗紫の光が明滅する。
一度。二度。三度。
溢れる。
弾いた衝撃。受けた負荷。そのすべてが――
「……溜まってる……?」
迫る拳。もう避けられない。
歯を食いしばる。
拳を引く。
遅い――だが。
【Reject】
弾いた、その瞬間。
【Over】
ドクンッ!!
限界を超えた、と直感する。籠手の光が暴れ、内側から何かが押し出される。
「っ……!」
抑えきれない。
「……あふれる……!」
逸れた拳の隙間に、ねじ込む。
「全部――返してやる!!」
【Release】
触れた瞬間、“爆発”ではなく“逆流”した。
受けた衝撃が圧縮され、歪み、一点に収束し――そのままゴーレムへと流れ込む。
ドォンッッ!!!
空気が弾け、地面が裂ける。巨体が吹き飛ぶ。
ただの一撃じゃない。“拒絶の総量”――そのすべてが叩き込まれていた。
『ォォォォォォオオオオ!!?』
黒い筋が弾け、ゴーレムの体が歪む。そのまま地面へ叩きつけられた。
『ォ……ォォォォォオオ!!』
なおも蠢くが、立てない。
「うわあ!?爆発したぁ!?」
「よくやったナナシ。おかげで集中できた、下がってろ!」
イリスが仮面を外し、手をかざす。空間が歪み、何もない場所から赤黒い分厚い本が現れる。
【覇天ノ魔導書】
「目録展開」
【検索開始】【氷属性――該当数:多数】【上位魔法抽出】
ページが独りでに捲れ、止まる。
選ばれた。
イリスの瞳が赤く染まる。
「……くっ……!」
『ォォォオオォォォオオ……』
「まだ動けるのぉ!?」
ゴーレムが起き上がろうとする。
【算出完了】【最上位魔術:氷獄終焉】【適合率:高】
「……なりふり構ってられねぇか」
「顕現――大サービスだ、凍て死ね……“氷獄終焉”」
世界が凍る。
地面から氷が爆発的に広がり、一瞬で全てを覆い尽くす。逃げ場はない。黒い筋ごと、内部ごと。
最初の氷とは、比べ物にならない。
『ォォォ――!!』
抵抗する。だが――止まる。
完全に。
これは拘束じゃない。“完全なる死”
「フーッ……」
赤かった瞳が黒へ戻る。仮面を付け直し、振り向く。
「……終わっ――」
その言葉の途中で、ナナシが崩れ落ちた。
「っ……!?」
視界が揺れる。白い鎧が崩壊し、粒子となって消えていく。
「おい、ナナシ!」
答えられない。体が動かない。左腕だけが、重く残る。
籠手は――消えていない。
「はぁ……っ……はぁっ……!」
全身が焼けるようにだるい。
「……なんだ……これ……」
イリスが近づく。警戒は解いていない。
「……なんなんだ、その力」
「あの……身体中痛いんですけど……」
「…………」
イリスは目を細め、やがて小さく吐き捨てた。
「……まあ、案外役には立ちそうだな」
「なら……100万は……」
「それとこれとは別だろうが」
ナナシは力なく笑い、仰向けに倒れ込む。
「……意味わかんないこと……ばっかりだ……」
左腕を見る。
籠手が、静かに脈打っていた。
ドクン。
それはまるで――生きているようだった。
――物語は、動き出した。




