第4話:【叛逆ノ籠手】
【――叛逆ノ籠手――】
声が、直接脳に響いた。
耳じゃない。頭の内側を、叩くように。
「……リベリオン……ガントレット……?」
言葉が、勝手に理解できる。
意味は分からない。なのに、“知っている”という感覚だけが先にあった。
ぞわり、と背筋が粟立つ。
その瞬間――ゴーレムが踏み込んだ。
ドゴッ、と地面が砕け、雪が弾け飛ぶ。巨大な拳が、イリスの頭上へと振り下ろされる。
「っ……!」
風圧だけで呼吸が詰まる。
避けられない。そう判断した瞬間、ナナシの体は、考えるより先に動いていた。
イリスの肩を引き寄せ、そのまま自分が前に出る。
「ナナシ!?」
(あ、これ――)
一瞬、世界が引き延ばされたように感じた。
迫る拳、避けられない距離、ナナシは瞬時に理解する。
(終わったあ……!)
死ぬ。
そう思った、その“直前”。
左腕が――“勝手に動いた”。
【Reject】
――ドォン!!
衝撃が、空間を叩いた。だがナナシの体は吹き飛ばない。
「……へ?」
目の前で、ゴーレムの拳が止まっている。
いや――違う。
“逸らされている”。
見えない何かに弾かれたように、拳の軌道が歪み、ナナシの肩をかすめて地面に叩きつけられた。
轟音。破片と雪が舞い上がる。
「な、にが……」
理解が追いつかない。
だが、一つだけ分かる。
(これ……自分じゃない)
自分の意思じゃない。
この籠手が――勝手に。
『ォォォオオオ!!』
ゴーレムが唸る。
今度は連続で拳が降り注ぐ。右、左、叩きつけ、踏み込み。
空気が裂ける音が連続する。
だが――
【Reject】
【Reject】
【Reject】
すべてが逸れる。
触れる前に、弾かれる。
拳は届かない。否――
“拒絶されている”。
空間そのものに、触れることを拒まれているかのように。
「……なんだよこれ……!」
怖い。
明らかに、自分の力じゃない。
なのに、使えている。
いや――使わされている。
「……防いでる……?いや、違う……」
イリスが呟く。
その視線は鋭く、完全に警戒していた。
「当たる前にズラしてんのか……?」
その言葉と同時に、ゴーレムが大きく振りかぶる。
黒い筋が激しく脈打ち、まるで内部で何かが暴れているようだった。
「っ、来るぞ!」
イリスが叫ぶ。
だが――
その瞬間、籠手が“変形”した。
カシャ、と乾いた音。
甲の装甲がスライドし、内部の機構が露出する。
現れる――鍵穴。
「……は?」
同時に、ナナシの手の中に“それ”があった。
白い鍵。
さっきまでポケットにあったはずのもの。
だが今は、“最初からそこにあった”かのように、指の間に馴染んでいる。
重さすら、しっくりくる。
「なんで、これが……」
思考が追いつかないはずなのに、体だけが理解していた。
【standby――ready】
無機質な声が響く。
冷たい。だが、逆らえない。
ナナシの手が、ゆっくりと動く。
「手が……勝手に!?」
止まらない。
その瞬間――
白い鍵を差し込む“誰か”の幻覚が、脳裏をよぎる。
ガチャリ。
鍵が、差し込まれた。
【Key of Undefined】
音が、世界に走る。
次の瞬間――
光が、溢れた。
「っ……!」
白い光。
熱はない。冷たくもない。
ただ――
“存在を書き換える光”。
腕から、広がる。
肩へ。胸へ。全身へ。
「ぐっ……!」
輪郭が、崩れる。
自分が、自分でなくなる。
“形が、決まらない”。
境界が曖昧になる。
光が収束する。
そして――
そこに立っていたのは、
真っ白な鎧の存在だった。
装飾はない。ただの白。
だが、その表面は揺らいでいる。
ノイズのように歪み、存在が安定していない。
「……なんだ、これ」
声が低く響く。
自分の声なのに、どこか遠い。
体を動かす。
「っ……おもっ……!」
ぎこちない。
まるで自分の体じゃない。
だが――
分かる。
空気の流れ。
振動。
敵の動き。
すべてが“見えている”。
『ォォォオオオ!!』
ゴーレムが突っ込んでくる。
雪を蹴散らし、拳が振り下ろされる。
ナナシは咄嗟に腕を上げた。
【reject】
弾く。
衝撃が、消える。
全身で、受けたはずの圧が――無かったことになる。
「……体全部で、弾いた……?」
違う。
これは――
“拒絶している”。
ナナシは、一歩踏み出す。
ぎこちなく、それでも前へ。
拳を握る。
力はある。
だが、重い。
(怖い……!)
不安がよぎる。
だが――目の前には怪物。
逃げ場はない。
ナナシは歯を食いしばる。
「……来い……!」
白い鎧を軋ませながら、
前へ踏み込んだ。
Undefinedというのは未定義って意味です。
まだこの姿はまだ定まった姿ではない
未完成とかそういう意味で理解して貰えば大丈夫かなと思います。




