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第30話 ミナの決断②

カプセルは水で満たされ、その中に女の子が浮かんでいた


長い茶色の髪が、水の中をただよっている


「この子は? 誰なの」


「ですから、ミナさんです」


「確かにミナに似てるけど……」

「あんた、わたしたちのことからかってるの?」


「あなた方と今まで一緒にいたミナさんは、サラが作った魔法体に、ミナさんの魂を移した存在です」


「な……なによ、それ」


「サラは強力な能力を、魔法体に与える研究をしていました」

「それは、能力を持つ者の体の一部を、材料にすることで行われたようです」

「ミナさんの魔法体には、複数の魔術師の体の一部が、材料として使われている、おそらくわたしも」

「だから、私の魔法をすぐに真似られたのでしょう」

「ミナさんと魔法体の容姿が似ているのは、魂が馴染みやすいように、ベースをミナさんにしたのでしょうね」


ナルが戸惑ったように聞いた


「でも、だったらなんで、そんなことしたの?こっちがミナの本当の体なんでしょ」


「時を待っていたのです」


「え?」


「ミナさんの体は、魔法的な治療を、長期間受けてきた痕跡があります」

「おそらく、生まれたときから、不治の病を患っていたのでしょう」

「治療が完了するまでの間の、繋ぎとして、魔法体に魂を移したのだと思います」

「そして、その治療は、2年前まで続けられ……終わっているようです」


「2年前? だってサラさんは……」


「いいえ、サラは死んでなどいませんでした……ずっとここにいた」

「延命的な治療を繰り返し、ミナさんの体が、大きくなるのを待っていた」

「そして、自分の全てを……娘に与えた」


「全てを与えた?」


「私がここを見つけた時、すぐそこにサラは倒れていました」

「その体の殆どを……ミナさんに与えて、絶命したのでしょう」


「それって……」


ナルはそれ以上言わなかったが、何が行われたのかは理解したようだった


サラが、自分の身体の大部分をミナに移植したのだと


「サラらしい……愚かです……」


そう言って…リンの目から一筋の涙が落ちた


「ただ、想定外の問題があります」

「わたしたちは、今まで魔法体には魂がないと信じていました」

「ですが、それは違ったのです」

「その魂は弱く、すぐに消えてしまっていただけだったのです」

「ミナさんの魂を入れたことで、魔法体の魂は生き延び、ゆっくりと……成長してしまった」

「そしていま、その魂はミナさんの魂を飲み込み、魔法体を支配している」

「これが、真相です」


ナルがかすれた声で言った


「そ……そんな……」


俺は一歩前に出てリンに言った


「ミナの魂を助ける方法は?」


「簡単です。本来の体に戻してあげること」

「あの魔法体を破壊すれば、そこに閉じ込められているミナさんの魂は、自然とあるべき場所へ戻るでしょう」


ナルが小さく聞いた


「破壊する?」


「そうです」


「殺すってこと?」


「はい」


「それって、ミナの魂だって、危ないんじゃないの?」


「正直に言いましょう、その通りです、これは一つの賭けになります」

「ですが、他の方法はありません」

「魔法体の魂に支配される前であれば、話は違いましたが」

「今の彼女を取り押さえるのは不可能です、あまりに強すぎます」


「それしか…ないってことか…」


「残念ながら」


「わたしを含め、この国で最も優れた魔術師を集めます」

「それでも、勝てる保証はありません」


「ナルさん、あなたの力も必要です」

「あなたは、ミナさんの魔法体を破壊出来ますか?」


ナルは視線を落として、しばらく考えてから言った


「少し……考えさせて……」


「わかりました、わたしは先に組合に戻ります」

「あなた方は馬車に乗って、帰ってきてください」


そう言ってリンは、部屋を出て行った


ナルは、ミナの体の入ったカプセルの前の床に、座り込んだ


俺もナルの隣に座る


するとナルは、俺の肩に頭を乗せるように寄り添ってきた


長い沈黙のあと、ナルがぽつりと言った


「どうしよ……意味……わかんないよ」


「うん」


「昨日まで、ミナと普通に生活してたのに……」


「うん」


「本当のミナの体……痩せてるね……」


「うん」


「わたしが……助けてあげないとね……」


「……うん」


ナルの覚悟が伝わってきた


何もできない自分が、歯がゆかった……


それから俺たちは、外で待っていた馬車に乗り、組合に向かう


その間、俺とナルはずっと手をつないでいた


お互いを支え合うように


やがて組合に着いた頃には、空は茜色に染まっていた


入口の前で、リンが俺たちを迎える


「覚悟はできましたか?」


ナルは静かに答えた


「うん」




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