第29話 ミナとナル①
次の日の朝、冷え込む食堂に降りた俺は、暖房機をつけようとしてやめた
どうも、魔力を使う気にはなれなかった
ずいぶん冬らしくなってきた
息は白く、手はかじかむ
朝食の準備をしていると、ナルが厨房に入ってきた
「おはよ~、ソラ君」
いつも変わらない、明るい声だった
「おはよう、ナル」
俺は卵焼きを焼きながら言った
「まだ眠そうだね」
「冬は布団から出るのがつらいよ~、手伝うね」
そう言ってナルは食器を出してくれた
「昨日はごめんね、ソラ君のこと守る~とか言ってたのにさ」
「ううん、長く我慢させることになってごめん」
「あの場所は辛かったけど、良いこともあったかも」
「どういうこと?」
「こっちの話だよ」
「でもわたし、ソラ君に頼ってばかりの女の子じゃないからね」
「わたし修行して強くなるから」
「ん? なんのこと?」
「昨日夜中にさ、ミナが私の部屋に来てね、修行しよう!ってことになったの」
「修行?なんの?」
すると入口の方向からミナの声がした
「魔法の」
振り向くとミナが立っていた
足元にはムギもいる
「おはよ~、二人とも」
「おはよう、ミナ、体調は大丈夫?」
「おかげさまで、全然平気~」
「魔法の修行って、なに?」
「今はイナクが留守でしょ?」
「だから、なにかの時は、私たちが守らなきゃ!ってね」
「そう! 私たちが、ソラ君を守ってあげないとね」
「そう言われると、少し複雑なんだけど……」
二人は真剣な顔で言った
「ソラになにかあったら、わたしたち生きていけないもん」
「うん、ソラ君がいないと、三日ももたないよ」
そう言われて俺はちょっと嬉しくなる
「え、そ、そうかな」
「うん、食事も洗濯も、私たちだけじゃ絶対むり」
「ミナの料理じゃ、死んじゃうよ……ソラ君が唯一の希望なの」
「ナルの料理だって、ほぼ毒じゃん」
俺は少し肩透かしを食らったみたいな気分になった
「そんなことだろうと思ったよ」
俺はそう言った
イナクが留守にしてから短い時間で、メモの意味が良く分かってきた
この二人だけでは、生活が成り立たない
彼女たちも自覚したようだった
とにかく、俺は二人が元気に会話しているのが嬉しかった
「だから、ソラ君はわたしたちが死守します」
「なにかあったら、わたしたちの後ろに隠れてね、ソラ」
やはり、なにか複雑な気分になる
ミナが胸を張りながら言った
「だから、今日は草原まで行って、訓練するの!」
ナルが俺に拝み倒してくる
「ソラ君~、おねが~い、お弁当つくって~」
「分かった、お弁当作るよ」
ただ、昨日のことを思い出して
俺は二人を、近くで見守っていたいと思った
「俺もついて行っていい?」
すぐにナルが答えた
「うん、いいよ~、ソラ君も一緒に行こ」
しかしミナは違う反応だった
「ソラはお仕事あるでしょ?」
ナルが割って入る
「えー、大丈夫だよ、ソラ君がチェック済みの依頼が沢山あるもん」
「修理作業の方が全然間に合ってないんだから」
「んー、でもさー」
そこで俺が言った
「ついでにさ、ピクニックしようよ」
「ピクニック?ってなに?」
「自然豊かな場所で散歩したり、お弁当食べたりするんだ」
「いいね~、ピクニックした~い」
俺たちがそんな話をしている間
ミナは小さく笑いながら、俺たちを見ているだけだった
朝食を食べたあと、俺たちは三人と一匹でギルドを出た
俺の手には、弁当を入れたバスケットがあった
俺たちは厚めに着込んで寒さをしのいだ
「あ! そういえばさ」
「どうしたの?」
「ミナの魔法って暖房代わりにはならないの?」
するとミナは、右手の人差し指を立てて、光の玉を作り出した
「暖かくはないんだよね、光るだけで」
「そっか~、暖かかったら便利だったのにね」
そう言うとムギが、俺の頭の上に飛び乗って口を少し開けた
火の玉が空中に浮く
「わ! あったか~い、一家に一匹、ムギちゃんだね~」
火の玉が浮いているので、道行く人に驚かれたが、ムギのおかげで道中暖かかった
俺たちは町の外に向かって歩いていく
途中何度も、大きな桶を持った子供たちとすれ違った
「こんにちは、ソラさん」
そのうちの一人の子が俺に挨拶してきた
「こんにちは、お手伝い?」
「うん、これが仕事なんだ」
「じゃあね、ソラさん」
「うん、気を付けてね」
俺は少しその子の背中を見ていた
するとナルが声を掛けてきた
「どうしたの? ソラ君」
「あの子、近所の子だよね?」
「うん、よく見かける子だね」
「どこまで水を汲みに行ってるの?」
ナルが遠くに見える川を指さした
「あそこに見える川だよ」
「かなりの距離だね」
「そういえば、ギルドの水って、誰が汲んでくれてるの?」
「ずっとミナが取りに行ってくれてるよ」
「え? そうだったの? ごめん気づかなくて」
するとミナが俺に言った
「いいよ、全然」
「いや、俺も手伝うよ」
「ソラは手伝ってくれなくていいから、私がやるね」
「そ、そう?」
ナルが俺に聞いてきた
「それより、あの水を運んでる子が気になったの?」
「うん、俺のいた世界では、子供は働かないからさ」
「この町でも、普通はそうだよ」
「でも旧市街は、水道がないからね」
「水道?この世界にもあるの?」
「あるよ。水路をつないで町まで引いて、みんなで使ってるの」
「そっか……旧市街にはないんだ」
「うん」
そうこうするうちに目的地の草原についた
すぐ横に綺麗な川が流れている
俺は平らで、草が綺麗に生えている場所を選んで、大きめの布を地面に敷いておもりを乗せて固定した
そこにお弁当を置いて、水筒を置いて、腰を下ろした
「二人も……」
「二人も座りなよ」と言おうとした俺が彼女たちを見ると
少し離れた所で、二人で向かい合っていた
代わりにムギが、俺の前にちょこんと座りあくびをした
「本気でやるからね、ミナ」




