第28話 ライフライン②
俺たちが馬車に乗ると、すぐに動き出した
組合の砂糖をくれたあの人は、その場に残されている
俺たちを、信用させるためだけに、連れてこられたみたいだ
きっとナルは、俺を守るためなら、レアルと戦うつもりでいた
そんなことにだけはならないように、俺が気を付けないと……
俺は、自分を律するように気持ちを固めた
「ナル、お願いがあるんだ」
「なに?」
「あのレアルという男、それからこれから会う人」
「全部、俺が話す、口を出さないでくれ」
「え?」
「ナルが俺を守ろうとしてくれたのは嬉しい」
「でも、俺もナルを守りたいんだ」
「だから、俺を信じて」
「うん、ソラ君を信じるよ」
そう言って、繋いだままだった手を、ナルは強く握る
それからいつもの、からかうような口調で俺に言った
「なにかあったら、一緒に死のうね~」
「いや……怖いこと言い出さないで」
「え~、わたしとじゃ、嫌ってこと?」
「そうじゃないよ、そういう話じゃなくない?」
「冗談だよ~、ソラ君って可愛い」
俺の緊張をほぐそうとしてくれてるのかな、俺はそう思った
しばらくすると馬車が止まって、扉が開いた
俺たちは馬車の階段を降りて、外を見上げる
目の前にあったのは、巨大な城の門だった
水が溜まった堀があって、その架け橋の上に俺たちはいた
「城?」
「我が国の王城だよ」
声がした方を見ると、レアルが立っていた
「ここで俺に何をしろと?」
「いつもと同じさ、配管をチェックしてくれればいい、修理はこちらでやる」
本当にそれだけ?
俺は内心そう思った
俺たちはレアルに連れられ城に入った
そしてすぐにエレベーターに案内された
デパートで見たのと同じものだ
レアルはエレベーターの中に入り、俺たちも続いた
すぐにレアルはレバーを下げ、エレベーターは下に向かって動き出した
ナルがまた手を繋いできた。彼女の不安が伝わってくる
俺は強く、ナルの手を握り返した
俺がしっかりしないと、イナクにだって顔向けできない
レアルが話し出した
「君は、魔力管の魔力がどこから来るか……知っているか?」
「いや、知らない」
「そうだろうな、それは国家機密なのだよ」
「これから君たちを、その提供元に連れて行く」
「もうお判りだろう、他言すれば、ただではすまない」
「秘密厳守、最初に聞いたよ、誰にも言わない」
「結構、君は話が分かりそうだね」
するとエレベーターが止まって、扉が開いた
むせかえるような匂いがした、生臭い、腐敗したような匂いだった
レアルはかまわず降りて歩いていく
俺たちもそれに続いた
「君には、ここにある全ての設備の寿命をチェックしてもらいたい」
そう言われて俺が目を向けると、そこは上が吹き抜けになった広いホールで、光が射し込んでいた
そしてそこにいるものに、俺の目は奪われる
大きなドラゴンが何十頭も拘束されていた
「これは!?」
「これが、魔力の元だよ」
「魔力と強い生命力を持つドラゴンを捕らえ、彼らから魔力を抜いて提供しているのさ」
巨大な足かせで身動きを封じられたドラゴンが沢山いた
体に膜のようなものを貼り付けられている
すると、ナルが目を見開いて言った
「こんな……酷い……むりやり、盗られてる……魔力を……」
ナルの目が、色んなものを追って定まっていない
魔力があるナルには、俺と違う光景が見えているように感じた
するとナルの呼吸が急に早くなり、息ができなさそうに苦しみだした
「ナル!」
俺はナルの視界を塞ぎ、背中をゆっくりとさする
「ゆっくり息を吐いて、大丈夫、ゆっくりと……息を吐くんだ」
それを、レアルは横目で見た
「我が国は北国だ、森林地帯が少なく、資源も乏しい、あるのは魔法技術だけ」
「町のどこにいても、無料で魔力を使えるから、冬の犠牲者を出さずに済んでいる」
「私たちは酷いことをしている、だが……それを恥じたことは一度もない」
「それを恥だと思う奴は、我々の敵だ」
まずい……レアルはナルに警告をしている
だが今のナルは、その声が聞こえていないように見えた
俺はすぐにレアルに言った
「ナルは優しい女の子なだけなんです、小さな生き物の痛みにだって、悲しむような子だから」
「あまり、深く考えないでください」
レアルは目だけで俺を見た
「なるほど、わたしにも娘がいる、君の言うことも分かるよ」
「ただ、ナルさんが私の娘だったなら……こう、助言するだろうね」
「A級魔術師である、あなたの言動は、過剰に受け止められると」
「我が国に、A級魔術師は10名しかいないのだから」
「うち2名がラピスギルドにいる、リンのあなたたちへの方針を、良く思っていない者も多いのだ」
「私も含めてね」
次々と知らない話が出てくる……
俺は自分の喉が鳴るのを感じた
「あまり警戒しないでくれ、私は敵ではないよ」
「私はただ、この町の生活を支える、この場所の設備寿命を確認し、厳しい冬に備えたいだけだ」
「誰も死なない……冬のためにね」
「来るなと言ったのに、ついてきた優しい女の子をなだめなさい」
「その子のためだよ」
ナルの呼吸は少し落ち着きを取り戻していた
俺はナルの手を握り、彼女の視界の前に立った
「ナル、俺が誰か分かる?」
「ソラ……君」
「そう、俺のことだけ見て、他は見ないで、分かったね」
「うん……」
俺はナルの視界を塞ぐように手を回した
「どこから始めればいい?」
「この施設は円形になっている」
「外側からぐるりと回れば、全てチェックできるだろう」
「ナル、記録を付けるのを手伝ってくれる? 絶対に俺から目をそらさないで」
「うん……分かった……」
俺たちはぐるりと、この場所の設備を確認して回った
途中、体の一部が腐り悪臭を放ちながらも、魔力を盗られているドラゴンを見かけた
ここは……酷い場所だ……
でも、ここの魔力が無ければ、料理を作る火すら、この町には、無かった
そういえば、この世界に来てから、俺は木を見ていない、一本も……
ここの魔力が、この町の生命線なんだと、俺にも理解はできた
「こんなの……酷いよ……」
少し目を離したすきに、ナルが体の崩れたドラゴンを見て言った
俺はナルの肩に手を置いた。そして、抱き寄せて視界を塞ぎ、念を押すように言った
「ナル、ここでは俺だけを見て、俺が喋る、絶対に……ナルは喋らないで」
ナルの目から、ぽろぽろと涙が落ちた
俺はナルを静かに抱きしめた
「お願いだ、ナル……」
「ナルが言いたいことは、後で、俺が、全部聞いてあげる」
「だから……ギルドに無事に帰るまで、ナルの声は……俺に預けて……」
「約束だよ」
ナルは小さく返事した
「うん……」




