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第25話 イナクの決断②

翌朝…


「そんなのだめに決まってるでしょ!」


ナルの大きな声が、ギルドの食堂に響きわたった


「軍なんて絶対だめ! どうなっちゃうか分からないよ」


すぐにミナも声を重ねた


「討伐依頼は上手く行ってるんでしょ? なんでそれじゃだめなの?」


食堂は朝から騒然としていた


朝早くから、家族会議が開かれている


イナクは軍に入ることをミナとナルに話し、案の定、二人は猛反対だった


「もう、決めたことだ」


そう言ったイナクに、ナルが即座に言い返す


「勝手に決めないで!」


すぐさまミナも続く


「そうだよ、急に相談もなしに決めるなんてだめだよ」

「イナクだって、家族に話を通せって言ってたじゃない」


二人の反応は当然だと思った


しかも昨日の今日で、軍に入ると言い出したのだ


なおさら受け入れられるはずがない


「すまん、頼む」


イナクが頭を下げる


「だめだめ、絶対だめ、ねえミナ!?」


「そうだよ、絶対だめ、やめて!」


ナルは俺の方を向き、すがるような目で言った


「ソラ君もそう思うでしょ?」


俺はその目を見返して、静かに口を開いた


「二人とも……まずは落ち着いて」

「そんな風に頭ごなしに反対されたら、イナクだって困るだろ」


ナルはこらえるように息を呑み、自分を落ち着けるように座り直した


それから改めて俺に聞く


「ソラ君は、どう思ってるの?」


「俺は、イナクを応援してやりたい」


その言葉を聞いた瞬間、ナルの目に涙が浮かんだ


「その言葉……二回目だね……」


「俺は、戦うことがイナクにとって大事なことだと思っている」

「今のままならイナクは必ず後悔する、そんな気がする、だから、イナクを縛り付けたくない」

「それに、ギルドで討伐を続けるより、軍で訓練を受けて、仲間と行動した方が、イナクにとっても安全なんじゃないかと思ってる」

「魔法を使う敵がいることもあるだろうからね」


するとミナが言った


「それなら、私たちも一緒に行けば」


俺はミナの目を静かに見つめた


「ミナは血まみれのイナクを見ていなかったね?」

「魔物とはいえ、生き物と殺し合うってそういうことだし、綺麗なものではない」

「ナルとミナが一緒に討伐に行って、生き物を魔法で殺すなんてことを、俺はしてほしくない」

「それはイナクだって、俺と同じ気持ちだと思う」

「イナクの安全のためにも、戦うなら、戦う人たちと一緒にいた方がいい」


ナルが涙をぽろぽろこぼしながら、震える声で言った


「ソラ君……イナクの両足がなくなっちゃってもいいの?」


その言葉で、ナルが父親のことを言っているのだとすぐに分かった


イナクも同じ目に遭うかもしれない


その恐怖を、ナルはずっと抱えていたのだ


「その時は、全て俺の責任だ、俺を恨んでくれ」


ナルとミナは下を向いたまま黙り込んでしまった


絶対に賛成はしない


でも、これ以上は何も言えない


そう言われた気がした


その日のうちに、イナクは身支度を整えてギルドを出ていくことになった


それを見たミナとナルは、食堂に座ったまま泣き出してしまった


俺はギルドの外へ出て、イナクを見送る


イナクは立ち止まり、俺に向き直った


「恩に着る」


俺は頷いて言う


「イナク、一つだけ、俺に誓え」


イナクがまっすぐ俺を見た


「ナルとミナを、これ以上悲しませるな」


イナクは胸に手を当てた


「誓う、俺の誇りにかけて」


それから俺は、わざと軽く言った


「それと、シチューの作り方、まだ教わってないぞ」


イナクも少し笑う


「こんど教えてやる」


俺は右手を差し出した


「いってらっしゃい」


イナクはその手をしっかり握り返す


「いってきます」


その時、握った手の中に別の感触があった


見ると、メモがそっと押し込まれている


「これは?」


そう聞くと、イナクは短く答えた


「読んでおけ」


その時だった

ギルドの中からミナとナルがドタバタと飛び出してくる


「わたしたちに挨拶しないで行く気なの!?」


「そんなのありえないでしょ!」


ミナが大きく両手を広げた


すると、光の粒が旧市街一面を覆うように現れる


続いてナルが右手を掲げると、赤い花火が空中で炸裂するように花開いた


「いってらっしゃい!」


二人の声が重なる


その声を聞いた瞬間、イナクの目から涙が零れ落ちた


「いってきます」


そう言い残し、イナクは光の粒と赤い花火に祝福されながら


自分の道を歩んで行った……



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