表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/71

第24話 ナルの決断②

ナルはギルドを出て歩き出した


俺とミナは、その後ろについていく


旧市街を歩き、教会の近くまで来てナルは足を止めた


長屋が立ち並んでいる

古びた看板に軍療養所と書いてあるのが見えた


そこでナルが話し始めた


「私とイナクが、教会の孤児院にいたって……知ってたよね」


ミナが答える


「うん……ママに引き取られてギルドに来たんだよね」


ナルは少し言いにくそうにしてから続けた


「私の父親はね、実は…生きてるの」


「え?」


「ほら、あそこにまだいるよ」


ナルが指差した先に、白髪まじりで、両足のない痩せた男がいた


建物に寄りかかり、地面に座り込んでいる


生気のない表情で、呆然として見えた


その瞬間、俺は背中が冷たくなった


赤い文字が見える


残り7日……


ナルは淡々と続けた


「私さ、大切にしてた手紙があったの」

「お母さんと、あの人が……若かった頃の手紙」

「沢山あってさ、ずっと文通してたみたい」

「お互いを想い合っててね、すごく……素敵だった」

「あの人は、お母さんのために、すごく……頑張ってたよ」

「手紙の最後にはさ、必ず書いてあった」

「愛してる……って」

「その手紙が、私の宝物だった」

「この人たちの子供なんだって……嬉しかった」


ナルは一度息を吸ってから言った


「でも、メアリがね、私の16才の誕生日に……教えてくれたの」

「あの人は……生きてるって」

「優秀な軍人だったけど、足を失ってから……変わって……」

「お酒ばかり飲んで、お母さんに怒鳴るようになった」

「お母さんは、病気になって……死んじゃって」

「私は教会に引き取られて、あの人は……この療養所に入ったの」


ナルは目を伏せた


「一回だけね……私、あの人と面会したの」

「その時に言われた」

「お前のせいでこうなった……って」

「意味が分からないでしょ?」


少し間があった


ナルは遠くを見るようにして続けた


「私ってさ、プロポーズされたじゃん、イナクに」

「自分の部屋に戻って……胸が膨らむみたいにドキドキしてさ」

「私も……好きだったのかな? って思った」

「でもね……」


「わたしさ、イナクが戦うことが好きだって……昔から知ってた」

「知ってて、遠ざけようとしてた」

「凄く強くて、才能もあって、絶対、討伐の仕事で成功するんだろうなって思う」

「でもさ……」

「きっと、あの人も……そうだったんだよ」


ナルは唇を噛み、言葉を探すみたいに少し黙った


それから、絞り出すように言った


「ひょっとして……わたし」

「ママと同じような人を……好きになろうとしてないかな?……って」

「そう思っちゃってからさ……ずっと……すごく怖いの」


「イナクはそんなんじゃないって思うよ」

「でも、あの手紙の中のママも、あの人のことを……同じように言うと思う」

「血まみれになって帰ってきて、楽しそうに体を洗ってるイナクは……やだよ」

「……こわいの」


そう言うナルの手を取って、ミナが泣きそうな声で言った


「それなら、ちゃんとイナクに話せば……きっと」


それにかぶせるようにナルが言った


「きっと、やめてくれる?」


「え? う、うん」


ナルは小さく笑って、でもすぐに首を振った


「昔からイナクってさ、私がわがまま言っても、全然怒らなくてさ」

「嫌がってもくれないの」

「そのイナクがさ…私がお願いしても、聞いてくれなかったんだよ?」

「こんな話をしてさ、イナクがやりたいことを…やめろ…なんて…」

「最低じゃん…言えるわけ…ないよ」

「それに…わたし、もうイナクを異性として、好きになれないよ」

「こわいんだもん」


するとナルはふいに俺の方を見て言った


「ソラ君、胸、貸して」


そう言うとナルは、俺の胸に飛び込んできた


ふわっと甘い匂いがした


堰が切れたみたいに、ナルの目から涙がこぼれ落ちる


俺は支えるように肩に手を置いた


ミナもナルの背中をさする


俺たちは、かける言葉が見つからなかった


話せばきっと、すぐに解決すると思っていた


その考えは浅はかだった


ナルが心の中に隠していたものを思うと、それを彼女に求めるのは酷な気がした


俺は改めて、ナルの父親を見た


寿命が見えている


残りわずかだ…


このまま何も知らなければ、ナルが父親を見るのは、今日が最後になるかもしれない


でも、そのことをナルに伝えることは……俺にはできなかった


それから、泣き疲れたのか、ナルは眠ってしまった

ミナがナルを背負って帰路につく


しばらくすると、ミナの背中で眠っていたはずのナルが、小さな声で言った


「ねぇ、ミナ」


ミナが少し驚いて聞き返す


「え? なに?」


「言っておきたいことがあるの」


「うん、なに?」


「私ね、ソラ君は……怖くない」


ミナの足が止まる


「それって……」


その声に被せるみたいに、ナルはミナの背中から降りて言った


「もう大丈夫、ありがとう、ミナ」


歩いていた俺は、二人が横にいないことに気づいて振り向いた


「どうしたの? 二人とも」


するとナルは俺の方に駆け寄ってきた


そして、いつもの笑顔で言う


「心配かけてごめんね~」

「それと……」

「前に、バカって言ってごめんなさい!」


そう言って、ナルは頭を勢いよく下げた


俺は急にいつもの調子へ戻ったナルに、少し驚いた


「え? あ、いいよ、全然。それよりもう大丈夫?」


「うん、もう平気」


そしてナルが、からかうように俺を見て言った


「ソラ君ってさ、優しいよね」


「え? そうかな」


「そうだよ、全然怖くないもん」


「……弱そう、みたいな?」


「ちがうよ、安心する、みたいな?」


「それって褒めてるの?」


「もちろん。それに、私って強いから、守ってあげるよ~」


ナルが元気に話してくれるのが嬉しかった


ミナは少し離れたところで立ち止まったまま、こっちを見ている


「ミナ? どうしたの?」


呼びかけに反応して、ミナが小走りでこちらへ来る


「ううん、なんでもない」


俺たちはギルドに向けて歩き出した



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ