第22話 光と歌②
それから、イナクの荷物を見てミナが言った
「なに買ってきたの~?」
「今日の晩御飯の材料だよ」
俺が答えると、ナルが片手を上げて手を振るようにして言った
「お腹ならすいてるよ~」
「すぐ用意する」
そう言ってイナクは厨房に向かう
俺も後に続いた
厨房に入るなり、イナクが言う
「今日は俺が作る、教えてくれ」
俺は頷き、説明する
「基本はからあげと同じ」
「鶏肉に下味をつけて、衣をつけて揚げる」
「衣は、小麦粉、といだ卵、パン粉の順につける」
「わかった」
イナクは手際よく卵を溶き、トレイに入れる
次に小麦粉、パン粉を別々のトレイに広げた
俺はその間にキャベツを刻んで、サラダの皿を用意する
油を熱しながら、鶏肉に塩と香草を揉み込む
準備が整うと、イナクは俺が説明した手順で鶏肉に衣をつけ、油へ落とした
パチパチパチ
油の音と香ばしい匂いが一気に立ちのぼる
「なになに、からあげ?」
「えー、ソラ君が泣いちゃうじゃーん」
そういわれて俺はすぐ返した
「もう泣かないから!」
「それに、今日はチキンカツだよ」
聞きなれない料理名に二人は顔を見合わせる
「今日はイナクが作ってるの?異世界の料理」
「あ! ナルの誕生日だからだ~」
ミナがからかうように言った
「な……なによ」
ナルがちょっとむっとした顔でミナに言う
「なんでもないよ~」
するとミナが食堂の方に逃げ出した
「ちょっと!ミナ」
それを追ってナルも食堂へ引っ込んだ
なにか食堂の方でやっている
そうこうしているうちにチキンカツが揚げ終わった
横に置いた鉄串をならべたトレイにチキンカツを置く
俺は急いで皿を出してキャベツを盛りつけた
準備が整うと、イナクはチキンカツを皿に盛りつけた
イナクは両手に皿を持ち、俺も残りの皿を持つ
二人で食堂へ向かうと、ミナとナルは行儀よく座って待っていた
「おめでとう」
ミナが拍手しながらナルに言う
「ありがとう」
ナルが答える、なんとなく二人の態度に違和感がある気がした
「わー! なにこれ! でっかい!」
「おいしそ~」
皿をみて二人から歓声がある
俺が説明する
「ナイフで切って食べてね」
「いただきま~す」
二人の声が重なる
ひと口食べた瞬間、顔が変わった
「きゃー、美味しすぎ!」
「こんなの初めてだよ! イナク、ありがとう」
イナクが少しそっぽを向いて言う
「ソラに教わっただけだ」
ナルは首を振る
「ううん、作ってくれたのはイナクだもん」
「ありがとう」
イナクの耳が少し赤い気がした
その様子を横目に、俺は食べるのをためらっていた
また泣いたら、ナルの誕生日に水を差すし
何より…恥ずかしい
俺は恐る恐る小さく切り分けて口に運ぶ
「う、うまい!」
美味かった、いままで食べたことない位に
そんな俺を見てイナクが言った
「俺の味だ、泣くなよ」
「泣かないって!」
ナルがからかうように言ってくる
「残念だね~、また慰めてもらえたのに」
「ナル!」
ミナが叱るように言った、ナルは舌を出している
笑いが漏れそうになるのを、俺は飲み込んだ
食卓は温かい空気に満ちていった
暖房機の熱も、料理の湯気も、会話も
食べ終えて満腹の波が来た頃、イナクが言った
「まだある」
イナクは厨房へ戻り、すぐに皿を持って戻ってきた
「昨日から準備しておいた」
皿の上には、丸いスポンジケーキが乗っていた
「えぇー! なにこれ~」
ナルが身を乗り出す
それを聞いて、イナクが答えた
「ケーキだ」
ミナも目を丸くする
「ケーキ?」
「甘い菓子だ」
イナクはそう言いながらケーキを切り分けて配る
それからミナの横へ行き、なにか耳打ちした
「うん! わかった」
ミナが元気に返事する
「なに?」
ナルが疑問に思って声を掛ける
次の瞬間
教会で見たのと同じ、星みたいな光の粒が食堂いっぱいに舞う
そしてイナクがナルの方へ向き直り
大きく息を吸ってから歌い出した
「はーっぴばーすでーちゅーゆ~」
俺がさっき教えたやつだ
発音は変だけど、声がやたらいい
低くて通る声が食堂に響きわたった
ミナの光とイナクの歌が、食堂を満たす
「はっぴばーすでーでぃあ なーるー」
歌が終わると、光もすっと消えた
ミナとイナクが拍手を始める
「おめでとう」
「おめでとう~」
二人の声が重なる
「おめでとう」
俺も慌てて参加して拍手した
ナルは固まったまま、きょとんとしていた
それから、目の端に大粒の涙がぽろっと落ちる
「もうぉ~……そういうの、ずるいよぉ~」
「泣いちゃうじゃん~」
ミナとイナクが慌てて近づく
ナルはイナクをすいっと避けて、ミナの胸に飛び込んだ
ミナはナルの頭を包むみたいに抱きしめる
イナクは出しかけた手が、手持ち無沙汰な感じになった
……俺はその光景を見て、少しだけ複雑な気持ちになる
ミナは二日連続で、胸の中で泣かれている
昨日は俺、今日はナル……なんだそれ
しばらくするとナルは泣き止み
ケーキを食べながら元気にミナとおしゃべりを始める
いい誕生日会になった
俺はそう思った
その時、イナクがナルに声を掛けた




