第20話 恋人と母親①
俺たちは組合からギルドに帰ってきた
ミナとナルは、終始テンションが高かった
「ねえねえ、ソラ君! どんな料理を作るの?」
ナルが足取りを弾ませながら、ウキウキした声で聞いてきた
「そ、それは……お楽しみだよ」
口ではそう言ったが、正直……何を作るか全く思いついていない
その横からミナが言った
「えー、知りたーい。ソラってちょっといじわる」
ふくれたふりをして、ミナは俺の顔を覗き込む
ミナが楽しみにしているのが伝わってくる
「何が必要だ?」
イナクがいつもの落ち着いた声で、料理に必要なものを聞いてきた
「必要なものは、ギルドの周りの市場で買ってくるよ」
いろいろ見ながら……決めるしかない
ミナがすぐに手を上げた
「私も一緒にいくよ」
「いや、俺だけで行ってくるよ。今日はミナのお祝いでもあるから」
そう言って、俺はギルドを出て、近くの市場に向かった
「気を付けてね~」
「いってらっしゃい~」
ミナとナルに見送られながら、俺の気は重い
そもそも……俺のいた世界の料理って、なんだ?
この世界にどんな料理があるのかも、まだよく知らない
イナクが作ってくれる料理は、俺の世界にもあった、見覚えのあるものばかりだ
少し歩くと、屋台が立ち並ぶ活気のある市場にたどり着いた
「ソラさん! 珍しいな、買い物かい?」
「ソラさん、いい魚が入ってるよ! 持って行ってもいいぜ」
あちこちから、声を掛けられる
俺は旧市街で、ずいぶん顔が売れていた
いろいろと見て回ったが、何を作るか、全く定まらない
俺は道の脇に置いてある木箱に腰かけて、ゆっくり考えていた
すると、誰かが俺の肩をトントンと叩いた
俺が振り返ると、透き通るような青い瞳と目が合った
今日は長い髪をまとめず、さらさらとなびかせている
「こんにちは! ソラ!」
そこには、ガイの娘、ルーが満面の笑みで立っていた
「君は……ルーちゃん、だったね」
「うん! 私の名前、覚えていてくれて嬉しい」
相変わらず、吸い込まれそうな青く大きな瞳で、真っすぐ俺を見てくる
ルーはひょいっと俺の横に座り、足をパタパタさせながら言った
「なにしてるの?」
「夕ご飯の材料を買いに来たんだけど、何を作るか決まらなくてさ」
それを聞いて、ルーは身を乗り出し、俺の顔を下から覗き込むみたいに聞いた
「ひょっとして、ソラがごはんを作るの?」
「うん、そうだよ」
ルーの眉が跳ねて、声がぱっと弾んだ
「ええーーー、ソラが作るの!?」
「今日はさ、ギルドの皆が、組合に登録できたお祝いなんだ」
ルーは嬉しそうに頷いた
「すごい! ソラって、やっぱり優しいんだね!」
「でも、何を作るか、決まらなくてさ」
「俺がいた世界の料理を食べたいってリクエストなんだ」
ルーは、少し考えるみたいに首をかしげた
「ソラがいた世界って、どんなものを食べてたの?」
「うーん……それがさ、ハッキリとは思い出せないんだよ」
「前の世界で知ってたものを見ると、断片的に思い出すんだけど」
「どんなものを食べてたとか、全然思い出せないんだ」
俺は腕を組んで、なんとか思い出そうとした
ルーは少しだけ黙って、それから明るく言った
「それなら、ソラが食べたい! って思うものでいいんじゃない?」
「俺が食べたい?」
「うん! ソラって今、何が食べたい?」
俺が食べたいもの?……そう考えて
ぽんと単語が出てきた
「からあげ」
「からあげ?」
「うん、からあげ」
「それ、どんな食べ物なの?」
「鶏肉とかを油で揚げたもの……かな」
「油で揚げる? ってどういうこと? 焼かないの?」
「たくさんの油を熱して、それに入れて調理するんだよ」
ルーの目がさらに大きくなる
「ええ! たくさんの油を使うの!?」
「うん」
「油を売ってる所なら、私、分かるけど……」
「油ってすごく高いよ? あ、でも、ソラなら……へっちゃら?」
「多分、へっちゃら」
ルーは嬉しそうに頷いて、すぐに声を弾ませた
「さすが! 案内してあげる」




