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第18話 魔法の扉③

リンにそう言われミナが困った顔をする


そして、何か言おうとした瞬間

リンが右手を上げた


俺とイナクに、強力な重圧が降りかかる

前に砂糖を買うとき、セバスから受けたものより、ずっと強い

俺たちは、なすすべもなく床に押しつけられる


ナルが声を上げた


「な、なに!?」


俺たちと違い、ナルだけは平然としている


ナル自身にも魔力がある

だから抵抗できるのかもしれない


しかし、リンが左手をナルへ向けると、足元から水が湧き上がり、その身体を包み込んだ


ナルは息ができないらしく、水の中で苦しそうにもがいた


それを見たミナが感情を高ぶらせ、リンの前へ出る


「なにするの!!」


リンは淡々と言う


「お分かりのはずでしょう」

「あなたはもう、開けましたね」

「さきほど、確信しました」

「もはや、ステータスなど確認する必要もない」

「さぁ、見せなさい。あなたの力を」

「そうしなければ……」


リンは冷たい目を向けて、うっすらと笑みを浮かべた


「お友達を殺しますよ」


それを聞いたミナの喉から、声にならない叫びが漏れた


「――っ!」


次の瞬間、空気が熱を帯びる

ミナの周囲に、大量の光の矢が現れた


「あんた! 死んでも知らないからね!」


リンは嬉しそうに微笑み、周囲に水の刃を作り出す


次の瞬間、光の矢と水の刃が高速で激突した


石造りの床が割れ、壁が崩れ、天井の一部が落ちてきた


リンは目を見開き、声を上げる


「すばらしい、わずかな時間でここまで」


ミナはリンに向かって駆け出した

瞬きする間に、間合いが消える


彼女の手には、光の巨大な鎌が現れた

ミナは鎌を振りかぶり、一気にリンに振り落とす


リンの前に、水の盾が現れ、破裂するような衝突音が鳴った

盾が砕け、鎌も光の粒になって散る


さらにミナは飛び込み、右こぶしを内側に捻り込むように振り抜いてリンの顔面を殴りつけた

リンは後ろへ吹っ飛び、壁に叩きつけられる


ミナはすぐに光の矢をまた空中に生み出す

さっきよりも、ずっと数が多い


「これでおわりよ!」


リンはその光景に、また笑った

「クロ、出てきなさい」


リンが呼ぶと、小さな影が現れる

黒い猫だった


「合わせなさい! 全力で撃ちます」


リンが両手を広げ、猫もそれに合わせるように口を開く


すると、リンのまわりに現れた水が高速の渦潮になる

その渦に、雷のような帯電が走った


ミナは構わず、光の矢を全て撃ち込む


帯電した渦潮が激しくスパークしながら、ミナへ解き放たれた


強烈な激突が起きて、俺たちは壁に吹っ飛ばされた


砕けた石と埃があたりを包み、音がすっと消えた


少しの間、俺は意識を失っていた


「う…ミナ…」


叩きつけられた痛みで、息が詰まった

俺は歯を食いしばって立ち上がる


視界が悪い…舞う煙で何も見えない


「ミナ……ミナ!?」

「なんで……こんなことに……」


不意に、俺の肩を誰かがつかんだ

イナクだった


腕には、ナルを抱きかかえている


いつの間にか、ナルを包んでいた水は消えていた

ナルが俺に視線を移して、小さく笑った


「よかった! 二人とも無事だったんだね」


イナクが頷く

「大丈夫だ、ミナは?」


空中に舞っていた埃は、かなり落ち着いてきていた

光るものがあり、そこに目が行った


そこにはミナが立っていた


右手には光の槍を握っている

左手には、ぐったりした黒い猫をつかんでいた


足元にはリンが倒れている

ミナは右足で、その胸を踏みつけていた


その猫を、興味深そうに観察して、ミナは言った

「へぇ、面白い魔術だね…魔猫まびょうっていうんだ」


そう言うと猫を投げ捨て、左手を上に向けた

光が集まり、形を成していく…


そしてミナの髪色と同じ、茶色い猫が現れた

猫はなつくようにミナの肩に乗り、頬をよせた


それを見て、リンは幸せそうに微笑んだ

「素晴らしい……私の長年の研究を、一瞬で再現するとは」

「あなたには、魔導の真理が見えているのでしょう?」


ミナの冷たい目線が、リンへ移る

リンにとどめを刺そうと、光の槍を構えた


「まって!」


俺はミナを止めようと叫ぶ

「もうその人は動けないよ!殺しちゃだめだ!」


ミナは俺の方をゆっくりと見た

目が合った瞬間、背筋が凍った


違う

ミナじゃない

直感的にそう感じた


「ミナ?……ミナじゃないのか!?」


ミナは俺に向けて、光の矢を作り出した


「俺だよ……ソラだよ!」


容赦なく、光の矢が放たれる


避けられない


その瞬間、赤い針のようなものが俺の前へ飛び込み、光の矢を弾いた


針が飛んできた方を見る


イナクの腕から降りたナルが、俺の前に立っていた


「今のは……ナルが?」


ナルが魔法を使って守ってくれたのだ


それを見たミナは、今度はナルへ向き直る

リンの胸を踏みつけていた足が、ようやく離れた


その瞬間、リンが素早く身を起こし、右手をミナの身体へ押しつけた


バチンッ!


強力な電気のような音が鳴り、ミナは短く痙攣して倒れた

リンはふらつきながらも、背筋だけは崩さず立ち上がった


「まさか、わたくしが……ここまで、追い詰められるとは」

「ミナさんは、扉を開けてから日が浅いはず……それで、この力」

「末恐ろしい子ですね」


するとナルが、リンの前に歩み出た

「それ以上やるなら、次は私が相手になるよ!」


ナルの足元の空気が、じわりと赤く染まった

赤い針のようなものが、ナルの周りに、次々と浮かび上がる


リンはふらつきながら、その光景から目を離さない

「あなたも……開けたようですね」


リンは姿勢を正し、息を整えて言った

「わたくしには……もう、戦う力は残っていません」

「殺したければ……どうぞ」


これを聞いて、ナルの赤い針がすっと消えていく


リンは少し上を向き、噛みしめるように言った

「まさか……こんなことになるとは、思っておりませんでした」

「この子は、才能だけで、魔導の扉を大きく開けてしまいました……この私を脅かすほどに」


俺は倒れているミナの元に駆け寄って、様子を確かめる


大丈夫だ

しっかり呼吸をしてる

大きなけがもない

たぶんショックで、気を失っただけだ


ミナの顔を一匹の猫が、心配そうに舐めていた

さっきミナの手から出てきた、茶色の猫だ


するとリンが、俺に言った

「組合には、医務室があります」

「あなた方の治療を、そこで行いましょう」

「ソラさん、ミナさんを背負って、ついてきてください」


俺は頷き、ミナを背負って歩き出した


俺は混乱していた……

あまりに劇的なことが、突然起こった


ミナから俺へ放たれた、光の矢が頭をよぎる

ナルが守ってくれなかったら……俺は死んでいたかもしれない


俺は振り払うように頭を横に振る


いや……違う、あれはミナじゃなかった

ミナのはずがない


今、俺の背中にいるミナは……俺の知っているミナなんだろうか


イナクはナルを支えながら、俺について来る

俺はイナクを見て、彼の気持ちがよく分かった


さっきまで俺たちは、彼女たちを守れる……そう思っていた

うぬぼれていた


でも、そんな小さな自信は、完全に打ち壊されてしまった

俺たちは、ミナとナルのそばに、今後もいられるんだろうか?


そんなことを、考えずには、いられなかった



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