第18話 魔法の扉②
「さぁ、こちらへ」
リンは奥へ歩き出す
俺たちはそれについていった
少し広い空間に出た
天井が丸く、ドーム状になっている
入ってすぐ、リンが左手を軽く上げた
すると水が集まり、椅子の形になる
「ミナさんは、そちらへおかけください」
そしてリンは部屋の中心まで歩くと、俺たちに向き直り、一礼した
「宮廷魔術師のリン・セピアです。能力検査を担当します」
「検査は、私の力を一時的に貸与して行います」
「その間に、ステータスを表示してください」
「まずはイナクさん、私の前へ来てください」
イナクは黙って前に出る
リンが片手を上げる
周りの空気が急に重くなり、少しだけイナクの表情が曇る
「頭の中でステータスと念じてください」
(ステータス)
【名前】イナク
【適正】剣豪、剛腕
リンは淡々と言った
「適正は、向いている仕事の方向です」
「イナクさんは戦士に向きますね」
「剣豪はまれで、強力な適正です」
「望めば、士官も可能でしょう」
リンが手を下ろす
イナクのステータスが消えた
きっと、これはかなり凄い適正なのだと俺は思った
さっきのノアとの戦いの迫力にも納得できる
ただ、こういう時に一番喜んでくれるナルが、今回は静かだった
少し悲しそうな顔で、イナクを見つめていた
リンが続ける
「次、ナルさん、こちらへ来てください」
「う、うん!」
ナルがリンの前へ歩み寄る
リンが片手を上げる
ナルは平然として立っている
その様子を見て、リンの表情が少しだけ動いた
「ステータスと念じてください」
(ステータス)
【名前】ナル
【適正】魔力、魔力操作
【スキル】悪食、魂抜
「これは……」
リンが驚いた声をあげる
自分の能力を見て、ナルが喜びで声を上げた
「私にも魔力がある! 適正もスキルも、二つずつ!」
「私にも?」
リンがその言葉に反応して、ミナを目だけで見た
それから説明を続ける
「ナルさんは、魔術師に向きますね」
「魔力操作を持つ者はまれです」
「あなたは、優秀な魔術師になるでしょう」
「おおぉぉぉ! 私、魔法が使えるの!?」
ナルが嬉しそうに声を上げる
ミナが、ぱっと顔を明るくして声を上げる
「おめでとう~、ナル!」
「うん!ありがとう」
ナルは笑いかけたまま、ふと視線を能力板に戻した
「でも、私の…スキルって?」
リンは淡々と続ける
「悪食は、まれに見られるスキルで、他者の魔力を食べることができます」
「ただし、食べられる魔力がないと、持ち主に苦しみを与える厄介なスキルです」
「そのため、自分以外の魔力が常に必要になります」
「え……」
ナルは自分の胸に手を置いた
「じゃ、いままで苦しかったのって……このスキルのせい?」
「そうでしょう」
ナルの顔がみるみる曇る
「えぇぇ! なにこのスキル、いらな~い」
そこで思いついたようにナルが言った
「でも、サラさんの料理や……砂糖を食べても、苦しさが収まったんだよ」
リンは一瞬だけ考えるように黙り、それから言った
「それはサラが、あなたが食べられるように自分の魔力を放出していたのでしょう」
「砂糖は、おそらく魔糖です」
「魔力によって精製された、魔力の塊ともいえる砂糖です」
イナクは視線を落として、低く言った
「食べ物は、関係なかったのか」
「そうです」
明らかにイナクはショックを受けている
ナルは納得できず、言葉を重ねた
「だって、サラさんがいなくなってからも、平気だったよ」
「イナクが、サラさんの料理を作ってくれて…」
リンは淡々と答えた
「それは、ミナさんが近くにいたからでしょう」
ミナが反応する
「どういうこと?」
「最初に会ったときのあなたは、魔力を自覚なく外へ垂れ流していました」
「ですが、今は違うようです」
リンは淡々と続ける
「今のミナさんは、魔力をある程度コントロールしています」
「そのため、ナルさんは以前のように、ミナさんの魔力を食べることができないのでしょう」
「最近また、悪食の苦しみを感じたことはありませんか?」
ナルが小さく頷いた
「……うん。最近また、少し……」
イナクが拳を強く握り、ぎしりと関節を鳴らした
リンは話を戻した
「悪食は、デメリットのあるスキルです」
「しかし対魔法戦では、強力なスキルでもあります」
「ナルさん、あなたは奇異な才能をお持ちです」
「それから、もう一つのスキル、魂抜」
「その名の通り、体から魂を抜くことができます」
ナルは意味が分からなかったみたいだ
「魂を抜く?」
「はい、やってみましょうか」
「目を閉じて、あなた自身を上から見ているイメージをしてください」
「う、うん」
ナルは目を閉じて、言われた通りにする
すると、ナルの身体から緑色の炎のようなものが抜け出し、頭上へ浮かび上がった
ミナが息をのむように言う
「これが……魂?」
「そうです」
「ナルさん、聞こえていますね」
「その姿のまま、自由に動き回ってください」
「他の方と、絶対に触れないよう、注意してください」
ナルの魂は部屋の中を飛び回り始めた
誰にも触れないよう気をつけながら、イナクの股の間をすり抜けたりして、遊んでいるみたいだった
「ナルさん、自分の身体に戻ってください」
「単に重なるだけで戻ります」
魂が自分の身体に向かい、すっと中に消えた
ナルの目が開く
「たのしかった! すごい、すごいよ」
満面の笑顔で、目がキラキラしている
よほど楽しかったのだろう
リンは淡々と釘を刺す
「ナルさん、魂抜には注意点があります。よく聞いておいてください」
「魂は、大変無防備な状態です」
「些細なことで、消えてしまうこともあります」
「不用意に、魂だけにならないでください」
「えぇ……」
ナルの顔が曇る
「それと、他人の体に入ろうとしないことです」
「相手が受け入れなければ、あなたは消滅します」
「えぇぇ、またそんなスキルなのぉ……これも、いらな~い」
確かにナルのスキルは、どちらもクセが強い……と俺は思った
二人の検査が終わると、リンはミナに向かって姿勢を正し、体を向ける
リンの視線が、ミナだけをまっすぐ捉えた
「さぁ、ミナさん、あなたの番ですよ」




