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第17話 雨、時々登録検査①

ときに、止まることは

進むよりことより難しい

今日は、いよいよ、皆と能力検査に行く日だ


俺は少し早く目が覚めて、朝の身支度をしていた

金貨を小袋に入れ、腰に下げて確認する


窓の外を見ると、少し強めの雨が降っていた


「よりによって、今日降らなくてもいいのに」


独りごとを言って、俺は部屋の扉を開けた


階段を下りると、ギルドはまだ静かだった

食堂にはミナが立っていた

窓から雨の降る外を眺めている


「おはよう、ミナ」


俺が声をかけると、ミナはゆっくりこちらを見る


「おはよう、今日は早起きだね」


少しだけ元気がないように見えた

俺は、わざと明るく言った


「今日は、ミナとナルとイナクが、能力検査を受ける日だから、寝てなんかいられないって!」


「うん。そうだね」


ミナは短く返して、また窓へ目を戻した


「ねぇ、ソラ」


「なに?」


「私の能力検査は……やらなくていいよ。 お金、もったいないから」


「え? どうして?」


「もう、分かってるから」


俺は、ミナが母親の検査結果を、気にしているんだと思った


「せっかくだから、受けてみようよ。もったいない、なんてことはないから」

「前の検査が、勘違いだったとか、万が一ってこともあるしさ」


ミナはまた、ゆっくりこちらを見て、困ったように笑った


「そうじゃなくて……」


その瞬間、廊下からバタバタと足音がして、勢いよくナルが現れた


「おはよー!!」

「いよいよだね! 昨日はワクワクして眠れなかったよ!」

「すっごいスキルとか、見つかったらどうしよう~」


「見つかるといいね」


ミナが相づちを打つ


それから、イナクも出てきた


「俺まで、すまんな」


俺は首を横に振る


「イナクならきっと、良い結果が出るさ」

「ギルドのためなんだから、礼なんかいらない」


ナルは窓の外を見て、食い入るように言った


「ええぇぇぇ~、雨降ってるじゃ~ん」


ナルの叫びを気にせず、イナクは厨房へ入っていく

俺はそれを追った


厨房に入るなり、イナクは言った


「今日のために、用意しておいた」


そう言って、イナクは棚から卵と、薄い燻製肉・・ベーコンを取り出した


「ベーコンエッグを作る。手伝え」


イナクはフライパンを二つ出す


「今日はお前が焼け、見ていてやる」


「お、おう」


イナクが俺にフライパンを預けてくれるのは、初めてだった

少しだけ緊張が走る


「ナルは半熟、ミナは硬め、俺はどっちでもいい」

「まず、油を引いて中火で温めろ。そこに、鳥皮から取った油がある」


俺は言われた通りに火を入れ、油をなじませた


「ベーコンを入れろ。二人ともカリっとが好みだ」


俺はベーコンを二枚ずつ、二つのフライパンに入れた

脂がじゅっと鳴り、いい匂いが立つ


「卵は、平らな所で叩いて割れ。小皿に出しておけ」


俺は卵を一つずつ割って、小皿に出す

殻が入らないように、指先に神経を使う


ベーコンの端が色づいてきた

俺はそれを裏返して、少し長めに焼く


「ベーコンを端に寄せろ、フライパンを傾けて、卵を落とす側に油を寄せるんだ」


俺はイナクの言う通り、ベーコンを端へ寄せ、フライパンを傾けた

油がすっと片側に集まる


「弱火にして、卵を入れろ。 少しだけ水を入れて、すぐ蓋をしろ」


俺は火を弱めて、卵を滑らせるように落とす

次に少しだけ水を入れて、すぐ蓋をした


「あとは待つだけだ」


イナクは淡々と言った


「ナルの方の蓋を開けろ」

「卵に塩を振れ。ベーコンにはかけるな」

「掛けたら皿に盛れ」


いつのまにか、テーブルには皿が並べてあった

レタスが彩りを添えている


俺はナルの方の蓋を開けた

白い湯気といっしょに香りがふわっと広がる

卵にだけ、塩を振り、皿へ盛り付けた


「おぉ! ベーコンエッグだ!」


自分で作っていながら、俺は少し感動した


「次はミナの分だ。そろそろちょうどいい。同じようにやれ」


俺はミナの分の蓋も開けて、卵に塩を振り、皿へ盛り付けた


そのあと、同じ手順で俺とイナクの分も焼いた


イナクはパン籠を腕に掛け、ナルと自分の分の皿を手に取った

俺はミナと俺の分を手に取り、食堂へ向かう


食堂に入ると、二人は待ちかねた顔をした


「わぁ~! ほら、やっぱりそうだよ!」


「わーい! ベーコンエッグだー!」


机に皿を並べ、俺たちは食べ始める


「いただきま~す!」


「ま~す!」


「おいしいぃ~、半熟だ~」


「おいしい! 硬めだ~」


それを聞いてイナクが言った


「今日はソラが焼いた」


二人が少し驚いた顔になる


「えええ! ソラ君すごい! 料理上手なんだ!?」


「本当! すごく美味しいよ!」


「イナクに教えてもらったんだよ」


俺は謙遜するように答えた


ナルはミナを見て、からかうように言った


「え~、ミナ~。もったいなくな~い?」


ミナはムっとする


「ナルこそ……ずっと妹でいいの?」


ナルの笑顔が一瞬固まった

なんだか、やりとりに小さな緊張が混ざった気がした


俺はベーコンと卵を、一緒に口に入れる

肉のうまみと、卵が混ざり合う


「うまい……」


心からそう思った


食事を終え、俺たちは立ち上がった

いよいよ組合へ向かい、登録検査を受ける


俺が扉を開けた瞬間


ザーーーーっ


雨の音が食堂に流れ込んだ

ミナが小さく言う


「……どしゃぶりだね……」


俺も返す


「うん……すごい雨……」


ナルが顔をしかめる


「ど……どうしよう……」


ミナが、少しだけ期待するみたいに言った


「こ、こんどにしようか!? 天気がいい日に、改めて……みたいな……」


するとイナクが言った


「雨具ならある」


そう言って、棚からマントとフードを取り出す


「着ろ」


ミナの表情が、ほんの少しだけ曇ったように見えた


俺たちはマントを羽織り、フードをかぶって大雨の中へ出た


あいにくの天気だったが、俺の胸は高鳴っていた

どんな結果になるのか

誰かが、すごいスキルを持っているかもしれない


一番後ろを歩くミナが、ずっとうつむいていることに

俺は気づけなかった


しばらく歩くと、組合の白い建物が見えてきた

さっきまで、滝のように降っていた雨は、嘘のように上がり、晴れ間が覗いている


俺たちは、受付窓口が並ぶ、組合前まで来た


すかさず、ミナが言った


「私、受付してくるね! ソラ、お金預かってもいい?」


そう言って、手のひらを上に向けて、両手を差し出してくる


「あ、うん、おねがい」


俺は金貨が入った小袋を腰から外し、ミナに渡す


「任せて! 三人はここで待っててね! はぐれちゃうから」


そこにナルが声をかけた


「あ、ミナ、私も一緒いくよ」


「い、いいって! ほら、沢山人が並んでるし、私一人で行くから」

「ナルは、二人と待っていて」


そう言って、ミナは逃げるように、受付の列に並んだ


しばらくして、ミナが戻ってくる

ニコニコと笑いながら、俺にお金を返し、二人に木札を渡す


「はい、これイナクの! で、これがナルの!」

「さ、中に入ろ!」


ミナが入口に向かって歩き出そうとすると、ナルが待ったをかけた


「まちなさい、ミナ」


ミナの体が、ビクっとした


「ミナのも、見せてくれる?」


「え……? 私のも、あるよ。 早くいかないと、順番、きちゃうよ」


ナルは呆れた様子で、俺に言ってきた


「ソラ君、お金、いくら減ってる?」


そう言われて、俺は小袋の中を見る


中には金貨が四枚入っていた

俺は今日、金貨を十枚持ってきたはずだった


料金はたしか、金貨三枚

計算が合わない


「あれ?六枚しか減ってない」


ナルは声を上げる


「やっぱり!」

「どういうつもり? ミナ」


「その……私はやらなくていいかなぁ……みたいな…」


「みたいな、じゃない!」

「皆で受けるって言ったでしょ! なんでこんなことするの!?」


ナルは頬を膨らませながら言った


「ソラ君! ミナの分も買ってきて!」


「お、おう」


俺は受付の列に並び、ミナの分の木札も貰って戻った

そしてミナに手渡す


「はい、ミナ」


ミナは観念したように受け取った


中に入ると、厳格な空気と、紙の音が俺たちを迎える

登録検査の列を探して並ぼうとすると、横から声が掛かった


「ラピス・ギルドの皆様、こちらでございます」


その声の主に、見覚えがあった

砂糖をくれたあの女性だった


俺たちが近づくと、彼女は軽く頭を下げる


「ご案内させていただきます。私についてきてください」


そう言って振り返り、歩き出した

石造りの廊下を進む


ミナはずっと、落ち着かない様子で、戸惑っていた

俺は少し心配になって、声をかけた


「大丈夫?どうしたの?」


「あの……あのね……先に皆に、言った方がいいかなぁ……みたいな話があってね」


「え? なに?」


そのやり取りを聞いて、ナルが入ってくる


「さっきからどうしたのよ、ミナ。 なんか変だよ」


「その、じつはね……わたし……」


すると女性の足音が止まり、扉を開けて俺たちを促した


「どうぞ、こちらへ」


中にいる兵士が、低い声で言う


「審査官の前へ!」


それを聞いてイナクが先に、中に歩き出す

それにつられて、ナルと俺たちも中へ入る


ナルはミナに、小さく言った


「ごめん、ミナ、あとで聞くから」


そのまま、俺たちは検査室の中へ入った


ミナは最後まで、何かを言いたそうにしていた



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