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第16話 家族会議③

ルーはしばらくうつむいていた


握った拳が、小さく震えている

……泣くかもしれない。そう思った


でも次の瞬間

ルーは顔を上げて、ぱっと笑った


「そっか! 分かった!」


……よかった、分かってくれたのか

俺が胸をなで下ろした、その次の瞬間


「私、二番でもいい!」


「え?」


思わず間の抜けた声が出た


ルーはまっすぐに俺を見て、勢いよく言う


「ソラのこと、もっともっと好きになった!」

「ミナみたいに愛されたい!」

「二番だったらいいでしょ!? 私が欲しいのはソラなんだから!」


切り替えが速い。速すぎる

俺は頭を抱えて、年長者としての正解を、必死で探した


「……君が、もっと大人になって」

「その時も、同じ気持ちでいてくれたら……また聞かせてね」


自分で言いながら、これが一番丸い答えだと思った

ルーは目をきらきらさせて、力いっぱい頷く


「うん!」


そしてルーは両親のところへ駆けていき、飛び跳ねるみたいに報告した


「やったー! 大人になったらお嫁さんにしてくれるって!」


母のニナは泣き笑いで頷く


「よかったね……たくさん食べて、早く大人になろうね」


ガイは拳を握って、なぜか誇らしげだ


「おおお、よかったな! ソラさんなら安心だ!」


……あれ?

俺が思ってるのと、違う方向に話が進んでないか?


そのまま、ガイの一家は帰り、扉が閉まった


残ったのは、俺たちだけ

食堂の空気がすっと冷える


イナクは腕を組んだまま動かない


ナルは、音も立てずに机の前へ行き、ゆっくりこちらを向く


目が合った瞬間、ナルの目が笑っていないのが分かった

静かな怒りが、そのまま出ていた


ナルが机を、指でコンコンと叩く


「二人とも、そこに座りなさい」


俺とミナは静かに、その言葉に従った……


イナクが腕を組んだまま、俺を見て言った


「ソラ、俺はお前に恩があるし、友だと思っている」

「だが、ミナを傷つけるなら、許さん」


低い声だった

言葉よりも、声の温度のほうが重い


ナルも腕を組み、静かに言った


「説明しなさい! どういうことなの」


俺とミナは顔を見合わせ、言いづらそうに短く経緯を話した


ミナが追い詰められていたこと

俺がそれを止めたこと

俺がミナを好きだと口にしたこと

返事はあとで良いということ


話が終わると、ナルは目を閉じた

息を吸って、ゆっくりと吐き出す


そして……かっと目を見開いた

同時に、ナルの指が、勢いよくミナへ突きつけられる


「ミナ! 勝手になんてことしてるのよ!」

「ソラ君が狼になってたら、どうする気だったの!?」


ミナが目を泳がせる


「え……いや……そういう関係になれば……ずっといてくれるかなぁ……みたいな」


そこにイナクが割って入る


「そんなのはだめだ。許さん」


ナルが机を叩いて追撃する


「そうよ! 絶対だめ!」

「貧乏だっていいじゃない! 私たち、それでも楽しくやってきたでしょ!?」

「いざとなったら、ギルドなんか、閉めちゃえばいいんだから!」


そう言われて、ミナが跳ねた


「そ、それはだめ!」


言った瞬間、ナルとイナクの視線が突き刺さる

それに気づいて、ミナはすぐに勢いを失った


「…ぅ……み……みたいな……」


ナルは立ち上がり、釘を刺すように言った


「反省してますか!? ミナ!!!」


「は、はい!」


ミナは背筋を伸ばして返事した


ナルは黙ったまま視線だけを、ゆっくりと横へ滑らせる

視線が止まった先は、俺だった


「それから、ソラ君! あなたにも、言いたいことがあるわ!」


矛先が俺に向いてギクっとする


「私、知ってるからね。 聞いてるからね」

「最初の依頼の帰り道で、あなた、ミナに告白したでしょ」


「あ……いや……いつか聞いてほしいって……頼んだだけで……」


「そんなの、告白と同じじゃない! いくらミナでも、分かるに決まってるでしょ!」


ナルがずいっと身を乗り出す


「あなた、なに勝手に私たちのミナにちょっかいかけてんのよ!」


イナクがまた入ってくる


「そうだ、まず家族を通せ、許可をとれ」


二人の迫力にたじろく


「す……すみません……」


……なんだか、ミナのご両親に叱られている気分になってきた


ナルは間髪入れずに続けた


「今後は、勝手にそういうのなしだからね!」

「もしも、交際したいのなら、きちんと家族会議で私たちの許可をとりなさい!」

「ミナが返事をするとしても、私たちがそれを聞いて、ソラ君に伝えます!」

「嫁入り前の大事なミナに、勝手に色目つかわないで! 全部許可制!」


俺は肩を落として答えた


「はい……すみませんでした……」


まだナルは言いたいことがあるようだ


「それから、浮気は絶対ダメだからね!」

「ソラ君が幾ら稼ごうが、二人目とか絶対に許さないから」

「そういうことしたいなら、ミナには近づかないで!」


イナクも入ってくる


「そうだ、駄目だ」

「やったら引きちぎるからな」


……なにを?


ナルはさらに念を押すように続ける


「今後は、私たちの知らないところで、コソコソやらないで!」

「私達家族でしょ。 まず、家族の意見を聞くこと!」


「う、うん」


ミナが答えた


俺が黙っていると、ナルが俺を指さして言った


「ソラ君! 返事は!? あなたも私達の家族でしょ!?」


「え!? あ…… は、 はい!!」


家族と言ってもらえて、俺は胸がうくような気持ちになった


ふいに、イナクがわざとらしく咳払いをする


「よし、じゃ、飯にするか」


そう言ってイナクは立ち上がり厨房へ向かう


「ソラ、手伝え」


歩きながらイナクが俺に言う


「お、おう」


俺も厨房に向かった


途中、イナクが何も言わずに、左拳を差し出してきた


俺は一瞬だけ戸惑ってから、右拳を出して軽く当てた


「やるな、お前」


「おう」




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