第16話 家族会議②
ミナがピクっと反応した
「ソラはこの街の稼ぎ頭だよ!? みんな喜んでる、暮らしやすくなったって」
言葉が速くなる
「私なんて、きっとソラがいなかったら、すぐ死んじゃってた。 ソラのためなら死んでもいいって人、たくさんいる。うちのパパだって」
ガイが頷いている
「みんなのヒーローだよ。かっこいいし、凄く優しそうだし。 そんなソラを、ふる子なんか、この街にいるわけないじゃない」
ミナが、またピクっとした
そうだった
これが、ミナが俺と急に深い関係を作ろうとした理由なんだ
旧市街で、俺のスキルはあまりに価値がありすぎる
俺がいることで救われる人たちが大勢いる
その影響は、俺が思っているより、ずっと大きいものなんだ
だからミナは、あんなことをするほど、追い詰められたんだろう
俺はこの少女の気持ちに、きちんと向き合おうとした
「嘘なんかついてない。本当に心に決めた人がいるんだ」
「それに俺は、好き合ってる相手同士で、結婚するべきだと思ってる。 俺がいた前の世界の夫婦って……そういうものだったから……」
「だから、心に決めた人がいるのに、ルーちゃんと結婚の約束はできないんだ」
ルーは不満そうな顔をしていた
「私、ソラのことが好き。初めて会ったけど、想像通りの人だった。私は本気」
「絶対、絶対、ソラに好きになってもらえるように頑張る」
そう言ったあと、少し間があった
「それって……だれ?」
「ソラって、最近転生したばかりだよね?」
「ソラの周りに、女の子なんて、二人しかいないじゃない」
「それって……ミナかナルのことじゃない」
ナルがまさかの矛先にとまどう
「ええぇぇ、私ぃ……」
ミナは反応せずにこちらを見ていた
その様子を見て、ルーが言った
「あなたでしょ? ミナ」
視線がミナに集まる
それを受け止めて、ミナは答えた
「そうだよ」
あっさりとミナは認めた
ルーは言った
「ミナのことを、ソラは好きなんだって」
「結婚する?」
ミナはルーの視線を受け止めながら答えた
「しないよ」
ルーは眉をひそめた
「なら、私が一番でいいよね。 あなたは断るんでしょ?」
ミナはひるまずに答えた
「それは、ソラが決めることだから」
ルーは唇をきゅっと結んだ
「そういうの、ずるくない?」
「ずるい?」
ミナが小さく聞き返す
ルーは一歩も引かない
「だって、ソラが好きって言ってるのに、断るんでしょ?」
「断るなら断るで、はっきり言わなきゃ。ソラが困るじゃない」
「……断らないよ」
ミナの声が少し硬くなる
「じゃあ何なの?」
ルーは畳みかけた
「こんなに優しくて、凄くて、それなのに、私たちのことを見てくれる人、他にいるわけないじゃない」
「なのに、なんで結婚しないなんて言うの?」
俺はこの話を止めたくて、口を開きかけた
でも、その前にミナが言った
「私、ソラに抱かれようとしたよ。でも断られたの」
「えぇぇぇ!?」
ナルが裏返った声を出す
「抱かれってぇ、なにそれ!」
ミナは気にせず続ける
「ソラがすごいとか、優しいとか……私のほうが知ってる」
「私なんかが受け入れないなんて……おかしいって思うよ」
「でもね……ソラは、私に本音を言えって言ったの」
ミナは胸のあたりを押さえる
「嘘をつこうとしても、見抜いてくる」
「だから……ソラに嘘をつけない」
ルーは一瞬、言葉を失った
でもすぐに口を尖らせる
「だったらなおさら、はっきり断りなさいよ」
「ソラが諦められないでしょ」
ミナがぴくりと反応した
その動揺を打ち消すように、ミナは言い返した
「だって……ソラは待つって言うし」
「私だって、自分が本当はどうしたいか……」
「ソラのことが好きなのか、分からないんだから、しかたないでしょ」
食堂が静まり返った
どっちも引かない……長い沈黙が落ちた
ミナとルーはその間、ずっと睨み合っている
その均衡を崩したのはルーだった
「……分かった」
そして、区切りをつけるように続ける
「じゃあ、まだ一番は決まってないってことだよね」
ルーはそのまま、あの、吸い込まれそうな眼で俺を見た
まっすぐな気持ちが、俺に伝わってくる
「ソラ。私は本気で、あなたのことが好き」
「あなたは私のヒーローなの」
「ソラのためなら、私……なんだってする。これが本当の気持ち」
俺はその目から逃げられなかった
ルーは本気でぶつかってきている
俺が前の世界から持ち込んだ価値観のほうが、この世界ではおかしいのかもしれない
ただ……この流れのまま、ミナに答えを押し付ける形になるのだけは嫌だった
俺は、はっきり言った
「俺は、ミナが好きなんだ」
「……っ」
ナルが両手で口を押さえる
イナクも目を見開いた
俺は続ける
「俺はわがままだ」
「ミナに、本当に俺のことを好きって思ってもらいたい」
「俺がヒーローじゃなくて、ただの凡人でも……好きだって言ってほしい」
「ルーの気持ちは嬉しい」
「でも、俺が欲しいのは……ミナなんだ」




