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第16話 家族会議①

俺たちは今日の仕事を終え、旧市街へ帰ってきた


ギルドの周辺には屋台が立ち並び、威勢のいい声が飛び交っている

焼いた肉や煮込み料理の匂いが、渦を巻くように漂っていた


「ラピス・ギルドの近くに行けば仕事がある」


そんな噂が回り、気づけば人が集まってきた

いまや、旧市街で一番の市場が出来上がっている


俺たちは夕方の人波をかき分けるように、ギルドへ戻った


いつもの食堂へ入ると、ミナが待っていた

帰ってきた、って感じがする


「今日もご苦労様! 報酬、配るよ」


ミナは机の上に布を敷き、そこに小袋を並べる


順番に名前を呼び、一人ひとりに手渡していく

全員に配り終わり、皆がギルドから出ていった


すると、一組の家族が残っていた

前に俺へ声をかけてきた痩せた男、ガイと、その妻のニナだ


以前より、二人とも少し肉付きがよくなっている

どこか落ち着かない様子で、俺のほうへ歩いてきた


「ソラさん、ちょっといいか?」


ガイの声が少し硬い

俺が「どうした?」と返そうとした瞬間、ガイの陰に隠れていた小さな顔がひょいっと覗いた

女の子だ

好奇心を抑えきれない、キラキラした目で俺を見ている


「その子は?」


俺が聞くと、ガイが頭をかいた


「こいつは俺たちの娘で、ルーっていうんだ」

「どうしても今日はついていくって聞かなくてな……連れてきちまった」


そう言うガイを、ルーがぐいっと押しのけるみたいに前へ出た


ずいぶんと、痩せている

顔立ちは綺麗で、目が大きい

青い瞳に、薄い青色の髪を、二つのお団子にまとめていた


「あなたが、ソラなの?」


吸い込まれそうに綺麗な瞳で俺を見てくる

俺が「そうだけど」と言いかけた瞬間……


「こら! ソラさんだろ!」


ガイが咄嗟に叱り、ルーの肩に手を置いた


「すまん、ソラさん。こいつ、礼儀ってもんを……」


「いいよ」


俺が手で制すると、ルーはガイの手を振り払うみたいにして、さらに一歩、俺に近づいた


「やっぱり! あなたがソラなのね。私、あなたにお願いがあるの」


その声に、ナルが「なになに?」という顔で椅子に座り直し、イナクは机をふく手を止めた

ミナは何も言わず、こっちを見ている


「なんだい?」


俺が聞くと、ルーは胸の前で両手をぎゅっと握った


「ソラのおかげで、私、元気になったの。たくさん食べたの。薬も飲んだ。外にも出れる」

「だから、ありがとう!」


前にガイは、子供が病気がちだと言っていた

それがルーだったなら、元気になったんだと思った


「どういたしまして。でも、頑張って働いたのは、お父さんだよ」


「ううん、パパはずっと頑張ってた。でも、ソラと会ってから変わった」

「私、まだ十才で、今は痩せてるけど、たくさん食べて、すぐ大人になる」


ルーは息を吸った


「だから私を、ソラのお嫁さんにして!」


……響いた


ルーのよく通る声が、食堂の隅々まで響き渡った


それを聞いてガイは、顎が外れそうなくらい口を開けて驚いている

ナルはにやにやしながら言った


「あらぁ~、こんな可愛い子が~。ソラ君って隅に置けない~」


イナクは口に手を当てて隠してるけど、肩が揺れてる……笑ってる


ミナはこちらをじっと見ているだけだった


俺は困ったようにルーを見る

その目は真剣だった

彼女はまだ子供だが、きっと、本気で言ってくれてるのだろう

ちゃんと向き合うべきだと思った


「ありがとう。嬉しいよ」

「でも、俺には心に決めた人がいるんだ。だからルーちゃんとは…」


俺が言いかけると、ルーが上からかぶせるように言った


「もう、恋人がいるの!?」


「え……いや、いないけど」


「じゃ、片思いってこと?」


「う……まぁ、そうだけど……」


「なら、その人がダメだったら、私と結婚して」


「……そういうことではなくて……」


「ソラがその人と結婚するなら、私は二番目でもいいよ」


「に、二番って……」


「そうなったら、その人の次に、私と結婚して」


「……ん?」


会話の階段が、変な方向に増築されていく

俺が状況を整理する前に、ルーが追い打ちをかけた


「奥さんは何人いてもいいんだから、いいでしょ?」


「いや、そんなわけには……なぁ、ガイ」


助けを求めた俺に、返ってきたのは予想外の返事だった


「ソラさんなら、俺たちも安心だ! 親の俺が言うのもなんだが、ルーは器量もいいし、気も回る。身体だって、この調子ならすぐ丈夫になる。俺からも頼むぜ、ソラさん!」


「頼むな!」


俺は心の中で突っ込みを入れた


いつの間にか、俺の横に立っていたナルが耳打ちしてくる


「稼ぎがいいと……何人も奥さんがいたりするんだよ~」

「ソラ君の稼ぎなら何人いても問題ないね~」


「まさかの一夫多妻制!?」


俺が固まっていると、ルーは不思議そうな顔をした


「……でもさ」

「ソラから好かれてるのに、結婚しない子なんて、本当にいるの?」



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