第15話 砂糖を買うぞ大作戦③
しばらく休むと、俺はすっかり元気になった
セバスに促され、客間のような部屋へ案内される
そこで、向かい合って腰を下ろした
セバスは穏やかな声で言う
「すまなかったね。手荒なことをしてしまって」
「いえ。俺が怪しいのは……そうだったと思います」
セバスは手を組み、真剣な声になる
「君のスキル、人間の寿命も見えるのかい?」
「いや。いままでは、一度も見えたことがなかった」
「俺も、物の寿命しか見えない、と思っていた」
「そうか……私はあと一年四十七日か」
俺は少しためらいながら答える
「……おそらく……今も、そう見えています」
俺の目には、セバスの上にずっと赤い数字が見えていた
「でも、なんで急に、人の寿命まで見えるように……」
セバスは静かにうなずく
「私のせいでしょうな」
「あなたを魔力と恐怖で追い詰め、命の危機にさらしてしまった」
「それがきっかけとなり、スキルが進化したのでしょう……過去にも事例があります」
セバスは胸に手を当てる
「私は胸の病気を持っていましてな。そう長くないことは分かっていた」
そのとき、部屋の扉がノックされて開いた
さらさらと真っすぐに長い黒髪を下ろした少女が入ってくる
黒い瞳で、まだあどけなさが残る
手にはお盆と水差し、コップを二つ載せていた
テーブルに置いて、少女は小さい声で言った
「どうぞ」
「ありがとう」
そう俺が言って目線を向けると、少女はセバスの後ろに隠れてしまった
セバスが柔らかい表情になる
「この子はヤコという名前で、私の孫です。人見知りでな」
ヤコは逃げるように小走りで扉へ向かい、そのまま外へ出ていった
セバスが優しい声で言う
「あの子はまだ幼いが、魔法の才は、私よりもある」
「私の魔糖も、あの子が引き継いでくれる」
「私がいなくなった後も、魔糖が必要なら、あの子に頼みなさい」
俺はゆっくりうなずく
「分かった。ありがとう」
そして俺はセバスから、金貨十枚で二箱分の魔糖を受け取った
かなりの量だ
これなら、しばらく心配はいらないだろう
店を出ようとしたとき、セバスが声をかけてきた
「ソラ、だったかな」
「はい」
「これを持って行きなさい」
セバスは小さなペンダントを差し出してきた
俺は受け取りながら聞く
「これは?」
「当店の会員証のようなものだよ」
「その服装で、よく警備が止めなかったものだ」
え、ひょっとして、この服でも、本当は駄目だったのか?
セバスは続ける
「見てくれはいいが、異様すぎる。次は怪しまれるだろう」
「止められたら、それを見せなさい、通れるよ」
胸が躍った
「ありがとう」
セバスは少し目を伏せる
「本当に、すまなかった」
「君はきっと、人の寿命が見えることで、辛い想いをすることがあるだろう」
「許しておくれ」
俺は少し考えてから答えた
「いえ。またお会いしましょう」
そう言って、俺はエレベーターへ向かい、一階へ戻り、出口へ向かう
出口に近づけば近づくほど、胸が浮いて、足取りが軽くなる
やった! 砂糖が手に入った!
これからも手に入る!
もう心配なんか、しなくていい!
デパートを出ると、解放された気持ちになった
少し離れた建物の影に隠れるように、三人の顔が見えた
俺は駆け足で、彼らのところへ向かう
ミナは待ちきれないように、両手を握りしめて小さく振っている
「ソラ! おかえりー! 心配したよ、遅いんだもん」
ミナの目は少し潤んでいた
ナルが俺の膝を見て言う
「あれ、どうしたの? ズボン、汚れてるよ」
そう言って、手で埃を払ってくれた
「どうだった?」
イナクが少し食い気味に聞いてくる
その頬には、青いあざが浮かんでいた
あのあと、入口で何かあったのだろう
俺のためにそこまでしてくれたと思うと、胸が痛んだ
それでも俺は、満面の笑みで砂糖の包みを差し出した
「たくさん買えた! これからも買える! もう心配いらない」
そう言うと、すぐに歓喜の声が上がる
「やったー! ソラー」
「ありがとう! ソラ君」
ミナとナルが両手を広げて、俺に抱きつこうとしてくる
……と思った瞬間
先に、イナクが俺に抱きついてきた
分厚い胸板が俺の頬に当たる
「すまん。ありがとう」
イナクの気持ちが……伝わってくる
そう言われて、悪くない気分だ……
悪くない……が
正直、抱きつかれるなら……他の二人が良かった
「おまえ、何してくれてんだよ」
俺は心の中でそう突っ込んだ
なんにせよ……
俺たちの“砂糖を買うぞ大作戦”は、大成功で終わりを迎えた




