第31話 約束のそのとき【完】
二つの綺麗な魂
君に幸あれ
「メアリ!早く早く!」
ナルがメアリの手を引き、急かすように言った
「ちょっと、ナル、なんなの」
「説明は後でするから、メアリに見て欲しいの」
「なにを?」
「ミナを!」
俺はサラの研究所の入口の前で、ナルとメアリを待っていた
やがて走る彼女たちが見えてくる
俺も彼女たちの方へ駆け寄った
「あら、あなたは、ソラだったわね」
間も置かずナルが言った
「こっちだよ、メアリ」
メアリは息が続かないように言った
「ちょっと、休ませて、もう走れない」
俺はメアリの前に背中を向けてしゃがみこんだ
「乗って!」
「え?」
「はやくはやく!」
ナルに押されるようにして、メアリは俺の背中に乗る
俺はメアリを背負って、駆け足でサラの研究所へ向かった
放置されて痛んだ通路を急ぎ、すぐに明るい部屋へたどり着く
そこにはリンが待っていた
大きなカプセルが2つ並んでいる
左のカプセルには、本来のミナの体が入っている
右のカプセルには、胸に大きな穴が開いたミナが入っていた
その下にムギが丸まって寝ていた
メアリは驚いた声をあげた
「これは…」
ナルが聞いた
「メアリ、どう? 魂の色…見える?」
するとメアリは、右のカプセルの近くに歩み寄る
「ミナ?見違えたわ…こんなに大きくなって…それに…」
そこまで言うと、メアリは左のカプセルに目を移す
「この子は…?」
俺は息をのんでから、左のカプセルに手を置いて、メアリに聞いた
「魂の色は、見えますか?」
「ええ、こっちの子は綺麗な青い魂ですね」
そう言ってメアリは、右のカプセルへ目を戻した
「ミナも混ざってない、綺麗な真っ白な魂になってる」
ナルが飛び跳ねて言った
「やったーーーー」
リンが言った
「どうやら、神の祝福があったようですね」
「メアリに、綺麗な魂が見えるなら、魔法体のミナさんも、本来は悪い子ではないのでしょう」
「時間が掛かりますが、私が修復します」
ナルが胸の前で両手を握りしめて、嬉しそうに言った
「ってことは、またミナに会えるってことだよね!?」
「いつ、目を覚ますの!?」
リンが小さく首を横に振る
「そればかりは、わたしにも分かりません」
「ですが、そう時間は掛からないと思います」
俺は安心して腰が抜けるように、ひざまずいた
「よかった…本当に…」
それから俺の目から涙がこぼれ落ちる
嬉しくて、嬉しくて
出る涙もあるんだと俺は思った
* * * * * * * * *
それから…一年後
俺とナルはギルドで平穏に暮らしている
配管の仕事は順調で、旧市街の街並みもずいぶんと様変わりした
この一年、ナルと一緒に、目標にしてきたことがあった
旧市街に上水道を作ること
幸いお金は沢山入ってきた
今はお得意様になっている、ラムズ工房に協力して貰って、建築を進めてきた
そして、今日はいよいよ、その開通式だ
この水道が完成すれば、旧市街の子供たちは、水運びをしなくてよくなる
俺たちはメアリに協力して貰って、子供たちが全員通える学校も作るつもりでいる
ナルが俺を呼んだ
「ソラ君!こっちこっち」
ナルの横には、肩の広い大柄な中年の男、ラムズが立っていた
俺とミナに最初の依頼をくれた、ラムズ工房の頭取だ
相変わらず低く太い声で言った
「おう!ソラ!いよいよだな」
「ありがとう、ラムズのお陰だよ」
「そうだな、俺に見る目があったってことだ」
「前に一緒にいた女はどうした?こっちのに乗り換えたのか?」
そう言って、ナルを親指でさした
「こっち!?」
ナルが少しむっとする
「違うよ、ちょっと今は…いないんだ」
水道の開通式には、大勢の人たちが集まっていた
イナクはどうしても来られなかったが、それ以外は全員いる
遠くで手を振っているルーと、その両親の姿が見えた
メアリと子供たちもいる
するとラムズが大声で言った
「開通だ!」
水をせき止めていた板が取り外された
勢いよく綺麗な水が旧市街を走っていく
皆が歓声をあげながら、その水の流れを目で追った
すると、その先にリンが立っていた
その後ろには馬車があって、そこから待ち望んだ姿が降りてきた
「ミナ!」
ナルが大きな声でミナを呼んで、走り出した
俺は心臓の鼓動がうるさいほど高まるのを感じながら、少しずつ歩いた
地に足がついていないみたいで、うまく足が動かない
もどかしい
ナルがミナに抱きつく
「ミナ! ほんとにミナだ! 目が覚めたんだね」
「ナル、久しぶり! 心配かけてごめんね」
そしてミナとナルは、俺の方を向いた
俺は足が上手く動かず、ゆっくりとしかミナの方へ行けない
ミナがナルに言った
「ナル、わたしね、ソラが好き」
ナルが笑顔で答える
「うん、知ってた」
ミナはナルの肩を軽く叩いて言った
「ごめんね!」
そう言うとミナは俺の方に走り出す
俺は足がもつれて、倒れ込んだ
そこにミナが抱きついてきて、俺を支えてくれた
ミナと触れ合った身体が、まるで電気が走るような感覚がした
俺は、ゆっくりと立ち上がり、ミナをしっかりと抱きしめた
いい香りと、柔らかい感触…
彼女がここにいてくれるのだと、俺に教えてくれた
そして、彼女の両肩に手を置いて、少し離れて、彼女の目を見て言った
あの時の、俺が初めて見惚れた、あの眼が…そこにあった
俺は、ずっと言おうと思っていた言葉を、世界中に届かせるための声で言った
「ミナ! 結婚してくれ!」
「死ぬほど! 好きだ!!」
ミナはキラキラとした笑顔で、すぐに返事をくれた
「よろこんで!」
開通式に集まっていた皆が、大きな歓声を上げる
その日は、旧市街中がお祭り騒ぎだった
俺の転生は、幸せを生んでくれた
俺はこの世界で生きていく
大切な家族と
俺に関わる全ての人たちのために
FIN
最後までソラ、ミナ、イナク、ナル、ルーと一緒に
このお話を読んで頂いて、本当にありがとうございました
ソラを主人公としたお話はこれまでとなります
この後はナルが主人公の赤さびの魔女【ナル・ラピスクロニクル】へ続きます
良ければ、引き続きお付き合い頂ければ幸いです




