第27話 違和感
白い魂
生まれて初めて
檻を失う
ルーを見送ったあと、俺は思い出したように言った
「洗濯は…全部俺がやるよ」
ナルがからかうように言う
「ソラ君なら、私の下着も洗っていいよ~」
「そ、それは自分でやってよ!」
俺の反応を見てナルは嬉しそうに舌を出した
「冗談じゃん!ね、ミナ」
ミナは反応せず、ぼーっとしていた
「ミナ?どうしたの?」
ナルがミナの肩に触れる
そこでミナは気づいたみたいに答えた
「私、ちょっと疲れたみたい」
「そうなの?大丈夫?」
「うん」
それからミナは急に口数が減った
俺は何度か横顔を盗み見たが、声は掛けられないまま
しばらくして、洗濯を終えて、俺たちは帰路についた
帰り道、ナルが意気込んで言う
「帰ったら、洗濯物を干すのは、私たちがやるからね!」
「うん、ありがとう」
そう答えながら、俺はなんとなく不安になる
メモには書いてなかったが…本当に任せて大丈夫だろうか
「夕ご飯も、わたしが作るからね!」
そこで俺ははっとした
そうだ、そんな話があった
ナルに作らせてはいけない
「い、いいよ、俺が作るよ」
「作りたかった料理があるんだ」
「え~、そうなのぉ」
ナルは残念そうに言う
「ちなみに、どんなの作るの?」
言葉に詰まる
考えていなかった
「そ、それは…お楽しみで!」
「ん~、それなら仕方ないかなぁ…楽しみにしてるね!」
するとふいにミナが言った
「ねぇ、ナル」
「え?」
「ちょっとだけ、魔法の練習していかない?」
少し困惑したようにナルが言う
「え…ミナ、体調悪そうじゃん、早く帰ろうよ」
「ナルの魔法をあまり見たことないから、見てみたいと思ってたの」
そう言ってミナは両手を合わせた
「おねが~い、だめ?」
少し迷う顔をしてからナルは言った
「ちょっとだけだよ」
「やったー」
ミナは草原の方へ駆けて行った
俺とナルは顔を見合わせてから後を追った
「ナルの魔法って…赤さびの魔法なんだっけ」
「うん、なんか嫌なんだよね…もっとかっこいいのがよかった」
「えー、そんなことないよ。どんな魔法なの?見せて」
ナルが右手を上げると、周りに赤い針が現れた
「こんな感じだよ」
「それを飛ばして攻撃するの?」
「うん」
次の瞬間、赤い針が岩に刺さり、刺さった場所から赤い筋が走った
乾いた音がして、岩はぼろりと砕け散った
すごい威力だ…
思い返せば、あの時のミナやリンの魔法もそうだった
「へー、他にもあるでしょ?」
「え?そりゃあるけど」
「見せてよ」
ナルの表情が少し曇る
「ミナ、ちょっと疲れてるんじゃない?もう帰ろうよ」
「うん、そうだね…疲れてるみたい」
「楽しかった、ありがとう」
「う、うん」
旧市街の手前に差し掛かった頃、俺は言った
「俺は夕ご飯の材料を買ってから帰るね」
「え~、ソラ君と一緒にいくよ~」
「ね、ミナ」
「そうだね」
「いや、なにを作るかバレちゃうからさ。先に帰ってて」
なにを作るのか、決めていないからとも言えない…
ミナは俺を見ないまま言った
「だってさ、先に帰ろうよ、ナル」
「え?う、うん」
二人と別れて、俺は市場を物色する
すると、目新しい屋台に見慣れたものが売っていた
「パスタだ!」
俺が声に出すと屋台の男が声をかけてきた
「ソラさん、いらっしゃい!」
「見てください、新市街で食べられるパスタ!」
「ちょっと値が張るけど、ソラさんなら安くするよ!」
羽みたいな形や、マカロニ形、そして見慣れた棒状のパスタが並んでいた
「うん!いいね!」
俺は棒状のパスタを買い込み、足取り軽くギルドへ向かう
ギルドに戻ると、ミナとナルがギルドで雇っている人たちに給金を渡していた
「あ、ソラ君、おかえり~」
「ただいま」
俺はすぐに厨房に入って、夕食の準備を始めた
作るのはズバリ、ペペロンチーノだ
この世界にもニンニクはある
形が少し違うけど唐辛子みたいなものもあった
俺は大きな鍋を出して水を入れ、火にかける
フライパンを取り出し、鶏油を少し多めに入れる
つぶしたニンニクを入れ、唐辛子を丸ごと落として弱火にかけた
ニンニクがきつね色になったら刻んだ香草を加える
湧いたお湯にパスタを入れる
少し茹でたら、ゆで汁をフライパンに加えて混ぜた
ゆで上がったパスタの水を切り、フライパンに入れて絡める
塩で味を調え、皿に盛りつけて食堂へ運ぶ
食堂では二人とも椅子に座り、ミナは猫を撫でていた
ナルは少し心配そうにミナを見ていた
「おまたせ、どうぞ、ペペロンチーノだよ」
「わ!なにこれ!?」
「この麺はパスタっていうんだ」
「旧市街でも最近売られるようになったみたい」
「え~、すごい!はじめて食べるよ~」
「フォークでこうやって丸めて食べてね」
俺はフォークでパスタを絡めて見せた
「いただきま~す」
ナルがフォークで巻いたパスタを口に入れる
「なにこれ!美味しい!私これ大好き!」
「よかった!辛いけど平気?」
「うん、全然平気」
ミナもフォークでパスタを巻いて口に入れた
すると、フォークを置いて立ち上がる
「辛いのだめみたい、体調が悪いの」
「あ、ごめん、大丈夫?」
「もう、寝るね」
そう言ってミナは、ムギを連れて部屋に戻って行った
ナルが心配そうに言った
「ちょっと…ミナの様子が変なの。体調が悪いみたいなんだけど」
「うん…心配だね」
するとナルはミナの皿を自分の前に引き寄せた
「ミナの分も私が食べるよ」
「え?無理しなくていいよ」
ナルが胸を張って言った
「ふふ~ん、ソラ君お忘れですか~」
「私は悪食のナルよ~」
「食べようと思えば、いくらでも食べれちゃうんだから!」
そういうスキルだっけ?と思った
でも、ナルが気を使ってくれてるのが伝わって嬉しかった
そういえばイナクのメモに
「たまに元気がない時がある、そういう時はそっとしておけ」
と書いてあったな
きっとミナもすぐに元気になるさ
俺はそう考えることにした




