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わたし達のデリバティブ・ウォーズ  作者: 摩利支天之火
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81.さくらの逃避行

確かに、高杯警部も西蔵警部補も生きていた。

生きてはいたが、重傷であることは一目で分かった。

高杯警部は、襲撃車の放った機関短銃の弾丸により、胸を射抜かれていた。

そして、西蔵警部補はヘリコプターの爆発の衝撃で、車が横転した時に腕を折っていた。

それも、単純骨折ではない。

折れた腕の尺骨か、皮膚を突き破り外に飛び出ていたのだ。

わたしとおじさんは、苦労して高杯警部と西蔵警部補を車の外に出した。

そして、なんとか炎の影響のない路肩部分まで二人を運んだ。

だが、そこで登おじさんが力尽きたようにへたりこんだ。


「お、おじさん、大丈夫?」


心配して覗き込むわたしの目に、蒼白を通り越して、真っ青なおじさんの顔が映った。


「さ、さくら、どうやら肋骨が何本か折れているようだ。ちょっと動けそうにない」


そう言っておじさんは高速道路の端に大の字になって横たわった。


すぐ側には、NSAの兵士の一人が血だまりの中に横たわっている。

ピクリとも動かないところを見ると、ヘリの墜落の爆発で死んでしまっているようだ。


おじさんも、高杯警部も西蔵警部補も、もはや満足に動ける状況ではなかった。

3人とも大怪我を負っているのだ。

早くお医者さんに診せなければ・・・救急車を呼ばなければ・・・。

普通、これだけの大事故があれば、あちらこちらから救急車やパトカー利のサイレンが聞こえてくる筈だ。

だが、サイレンの音は一切聞こえてこなかった。

まるで、わたし達がいる部分だけ、現実という世界から切り離されてしまったかのようだった。


「今、救急車を呼びます」


わたしは携帯を取り出した。

そして119番に電話をする。

しかし、無情にもまったく繋がらない。

呼び出し音すらも鳴らない。

バリを見ると、アンテナがまったく立っていなかった。

まだ、通信妨害が続いているのだ。

と、いうことは、警察も消防も、どこで何が起きているのか一切分からない状態になっているに違いなかった。

救急のサイレンが聞こえないということは、そう言うことなのだ。

わたしは、そう結論付けた。


「おじさん、高杯さん、西蔵さん、携帯が繋がらないの。待っていて。今、救急車読んでくる」


わたしは道路に横たわっている3人に声をかけた。

わたしが自力で助けを呼びに行くしかない。


「嬢ちゃん・・・八重山さくら・・・」


高杯警部が苦しい息の下でわたしの名を呼んだ。

一言喋る度に、荒くぜいぜいと息をしている。

血をだいぶ失って、酸素が不足しているのだ。

早く、早くお医者さんに診せなければ・・・・。


「嬢ちゃん、逃げろ・・・・あいつらが追って来る」


高杯警部の視線は、わたしの後ろを見ていた。

その視線の先を振り返ると、数人の男達が上を交差する圏央道の高架からロープを垂らし、降りようとしているところだった。

この男達、先ほど対空ミサイルを発射して、NSAのヘリを屠った連中に間違いないようだった。


「あいつらに捕まるな・・・俺たちは置いて、逃げ延びるんだ・・・ゴホ、ゴホッ」


咳と一緒に、高杯警部の口から鮮血が出てきた。

肺を・・・肺を傷付けられている。


「しっかりして」


わたしは、ハンカチを高杯警部の口に当て、鮮血をぬぐった。


「嬢ちゃん、お前はえらかったな。こんな状況でも泣き叫ばず、しっかりと振舞っている。なら、分かる筈だ」

「でも・・・」

「い、いいから逃げろ・・・やつらの目的は・・・嬢ちゃんだ。嬢ちゃんさえ逃げ延びてくれれば、奴らは、価値のない俺たちを無視する。だから・・・早く・・」

「で、でも、みんな大怪我しているのに」

「大丈夫、こんな怪我など・・・・ゴホッ、ゴホッ・・・怪我のうちに入らねえ。早く、早く行くんだ。嬢ちゃんが捕まると、俺たちの苦労は、水の泡だ」


わたしは、登おじさんの顔を見た。

おじさんも、高杯警部の言葉に賛成だと云うように、弱々しくではあったが、しっかりと頷き返す。

もはや、わたしの選択肢は一つしかなかった。

このままここにいては、わたしは確実に捕まってしまう。

そして、恐らく、おじさん達もここで殺されてしまうだろう。

わたしはそう確信した。


「わかりました。おじさん、高杯さん、西蔵さん、必ず逃げて、救急車呼びます。それまでどうか・・・・」

「は、早く、ゴホッ、ゴホッ、早く行くんだ」


高杯警部は、わたしがわたしたハンカチで口から出た血をぬぐった。


「はい、おいで、セバちゃん」


わたしは高架とは逆の方向に駆けだした。

3人を残していくのは、後ろ髪を引かれる思いだった。

だが、おじさんや高杯警部の命を助けるにはこれしか方法がなかったのだ。




「行ったか、しっかりした嬢ちゃんだ」


遠ざかる足音を聞き、高杯警部が呟いた。


「ゴホッ、ゴホッ」


尚も席と共に鮮血が高杯警部の口から流れ出る。


「に、西蔵、気絶しているフリ、するんじゃあねえ」

「は、ははは、バレていましたか」

「この中で、いくらかでも動けそうなのはお前だけだ。さっさとあの銃を持って来い」


高杯警部が言ったのは、直ぐ近くで死んでいるNSAの隊員の持っている銃のことだった。


「やっぱり、そうきましたか・・・だから気絶したふりをしていたんですがね」


そう言いながらも、西蔵警部補は這いながらも死んだ兵士の元へと行く。

どうやら腕だけではなく、足にも大きな怪我を負っているようだった。


「おっ、イングラムM11じゃあないですか。ラッキー、こいつは片手でも使えそうだ」


イングラムM11は軽量小型のサブマシンガンである。

もっとも、近距離の戦闘用に造られているため、中・長距離の戦闘には向いていない。

西蔵警部補は、僅かに自由になる片手を使い、安全装置を外す。

そして、思い立ったのか、兵士のベルトから弾丸マガジンを幾つか外して側に並べた。


「気を付けろ、奴らが高架から降り立ったぞ」


高杯達の位置から彼らまでは200メートルばかり離れていた。

この距離でイングラムを撃っても、届かない有効射程はおろか、最大射程すらも超えている距離である。

イングラムの最大の武器は、短時間に大量の弾丸を面に向かって一気にばら撒くことにある。

そのため、西蔵警部補はNSAの兵士の死体の陰に隠れ、彼らの接近を待った。


謎の襲撃者は全部で5人。

それぞれが銃を構え、八重山さくらが走り去った方角に向けて駆け足で走り始める。


パパパパン!


その時、突如銃声が鳴り響いた。


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