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わたし達のデリバティブ・ウォーズ  作者: 摩利支天之火
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76.高速道路での襲撃

 「駄目だ、どのチャンネルも交信が入ってこない」


 高杯警部は、無線機の前面パネルのボタンを幾つも押した。

 しかし、たまにガガガガガという雑音が聞こえる者の、声らしいものは一切入ってこない。


 「故障・・・ですかね」

 「馬鹿野郎、こんなタイミングで故障する訳ないだろうが」


 高杯警部は身を捩り、周囲を走る車の様子を観察する。

 でも、走っている車は、ごく普通の乗用車やトラックだった。


 「何だか、様子がおかしい。気を付け・・・・」


 高杯警部がそう言い終わるか終らないうちだった。

 不意に、右隣を走る青い乗用車が寄ってきたのだ。


 「こいつ、どこの機関だ」


 とっさに西蔵警部が、車を避けようと左にハンドルを切った。


 「あっ、危ない」


 わたしは思わず叫んだ。

 前を走る車が、急ブレーキを踏んだのだ。

 ブレーキランプの赤い色が、急速に接近する。


 「後ろだ、後ろにもぴったりと付けられている」


 高杯警部の言葉に振り向くと、後続車両が、追突せんとするばかりに目の前にあった。

 その運転手と眼が合った。

 黒いサングラスをしたその運転手が、私の顔を見てニヤリと笑ったのが分かった。

 そして、その助手席に座る男が、これ見よがしに銃のような物をかざして見せつける。

 交通トラブルではない。

 明らかに、この車両を狙ったものだった。

 西蔵警部補の運転する車は、一番左側の走行車線にいる。

 前後と右側を押さえられた格好なのだ。


 「なにくそ」


 西蔵警部補が一番左の路肩のスペースを使いすり抜けようとした。

 しかし、前方を走る車両がそれを許さなかった。

 ツツツッーとこちらの車の進路をブロックするように左に寄って来る。

 見事な腕前だった。


 「くそっ、こいつら、やっぱりプロだ」


 高杯警部がののしり声を上げる。


 「あいつら、銃を、機関短銃(サブマシンガン)を持っている」


 登おじさんも相手の車の助手席に座る男が持っている中に気づいていた。


 「分かっている」


 登おじさんに短く答える高杯警部。


 「こっちも銃は持っていないのか」

 「持っている訳ないだろう、刑事ドラマじゃああるまいし」


 こんな時は、「あぶない刑事(デカ)」ならば、拳銃を取り出し、パパーンと発砲するところだ。

 だが、「あぶない刑事(デカ)」より、もっとあぶない刑事(デカ)であるこの二人は拳銃など持っていないという。


 その時、警察無線がいきなり大きな音を立てた。


 『品川ナンバーの白い警察車両に告ぐ。こちらは武装している。車を路肩に止めろ。指示に従わない場合は発砲する』


 明らかに、警察無線の周波数を乗っ取っての交信だった。

 だが、その声のアクセントは少しおかしかった。

 到底、日本人の発音ではない。


 「止めろと言われて、止める馬鹿はいねえよ」


 助手席で高杯警部が悪態をつく。

 だが、こちらの車を取り囲んでいる何者かの3台の車は、どんどんと減速してくる。


 「止めますか?」


 車がぶつからない様に運転していた西蔵警部補が高杯警部に聞いた。


 「馬鹿野郎、ぶつけてでも突っ切れ」

 「へいへい、揺れますよ」


 その言葉と共に、西蔵警部補は右に急ハンドルを切った。


 ガシャン。


 思った以上の衝撃が車を襲った。

 だが、それと同時に僅かに空いた隙間に西蔵は自分の車をねじ込んだ。


 ガガガガガッ。


 金属が擦れ、ひしゃげる嫌な音が鳴り響く。

 だが、相手の運転手も負けてはいなかった。

 3台の車のフォーメーションの中に、なんとかこちらの車両を閉じ込めようとする。


 「しっかり掴まって!」


 西蔵警部補の叫びと共に、エンジンが物凄い唸りを上げた。


 ギャギャギャギャーキーン。


 耳を塞ぎたくなるような金属同士の擦過音が又もや響く。

 次の瞬間、西蔵の運転する車は、3代の車の包囲網から一歩前に出る。


 グォォォォーン。


 エンジンが割れるのではと思うくらいの物凄い音だった。

 西蔵警部補の車はぐんぐんと加速していく。

 怖い。

 正直言って、怖い。

 車はこんなスピードが出るんだと思うくらいの速度だった。

 後ろを振りむくと、3代の車の内、一台がバランスを崩し、横転するのが見えた。

 それも単なる横転ではない。

 空中に跳ね上がった車が、コマのようにクルクルっと回転したかと思うと、もう一台の車に空中から突っ込んだのだ。

 紅蓮の炎が瞬時に上がった。


 「はは、どうやらぶつけた衝撃でタイヤがパンクしたらしいな」


 高杯警部の勝ち誇ったような声がした。


 「西蔵、油断するな。もう一台残っているぞ」


 その言葉通り、黄色い車が事故を起こし他車の間をうまくすり抜け、急加速してくる。

 助手席から男がその身体を車外に突きだしていた。

 物凄い風圧で服がバタバタとはためき、その顔が風の影響で歪んでいる。


 「まずい、撃ってきます」


 バックミラーでその様子を見た西蔵が警告を発した。

 その瞬間、助手席から身を乗り出した男の手がチカチカチカと光る。


 「伏せろ!」


 その声とともに、おじさんがわたしの体の上にのしかかってきた。

 ううっ、お、重い。


 カンカンカンカン。


 車の後部トランク辺りから弾丸が命中する不気味な音が聞こえてきた。


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