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わたし達のデリバティブ・ウォーズ  作者: 摩利支天之火
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72.謎のスーツケース

 おじさんと、朝ごはんを食べていると、テレビの画面にピロピローンと、緊急速報が流れた。

 また熊本で地震だろうか。

 何度も何度も揺れて、熊本や大分の人たち、大変。

 そう思って画面の上部に流れるテロップを読んだ。


 「ええっ!」


 わたしは、思わず声を出してしまった。

 それは、想像すらしていなかった内容だった。


 「おじさん、あれ」


 わたしは、テレビの画面を指さした。

 その速報にはこのようなテロップが流れていた。


 『埼玉県坂戸市の西入間警察署で爆発。負傷者が多数いる模様』


 「おじさん・・・」

 「西入間警察署? どこだろう。自爆テロか何かなのかな?」


 その一言で、おじさんがこの近くの地理にあまり詳しくないのが分かった。


 「おじさん、西入間署って、この近くだよ。ほら、坂戸の407号線沿いにある」

 「ああ、あそこか。前を通ったことがある」

 「さっきのお巡りさんたち、この西入間署から来ている」

 「えっ、そうなのか?」

 「うん、鑑識の人が持っていたバッグに西入間署って書いていたよ」

 「・・・・・・」


 おじさんは、考え込んでしまった。

 さっき、会ったばかりのお巡りさんたち、無事なんだろうか。

 爆発だなんて。

 あの、黒いスーツケースみたいな鞄と関係があるんだろうか。


 「さくらちゃん、今日は学校休むんだ。いや、休むのは暫くかな」


 不意におじさんが言った。


 「えっ? でも・・・」

 「状況が悪い。思ったより悪すぎる。西入間署で爆発した爆弾、あれは恐らくここの部屋にあったものだ」


 おじさんも、わたしと同じ結論に達したようだった。


 「どういう訳か分からないが、相手は何が何でもJ・Jを抹殺するつもりのようだ。そのために、関係のない人々が犠牲になってもいいと考えている。思っていたよりもタチが悪い」

 「でも、学校を休んでどこへ」

 「そうだな。長野の親父の所は・・・いや、だめだ、そこも恐らく監視されているだろう・・・あそこは・・・いや、むしろ、どうやって連中をまくかだな。それが問題だ」

 登おじさんは、独り言のようにぶつぶつと呟き始めたのだった。




 「痛てぇ、痛てぇよ」

 「もう少しの辛抱よ。そんなに痛かったら、モルヒネ打とうか?」

 「い、いや、あれは精神の働きを悪くする。まだ大丈夫だ」


 薄暗い大型ワゴン車の室内で、顔中に包帯を巻いて唸っているのはボブだった。

 八重山家で、猫のセバスチャンに思いっきり顔を引っかかれ、逃げ出したボブは、パトカーの追跡をほうほうの体で躱し、NSAの作戦車に収容されたのだった。

 普通、猫の引っかき傷などたかが知れている。

 猫は腕力がないからだ。

 だが、八重山家のセバスチャンの攻撃は普通の猫の常識を超えた物だった。

 空中に飛び上がったセバスチャンは、自分の体重を使って、ボブの顔面に深い傷を負わせたのだ。

 もし、これが昼日中であれば、ボブは目の前に躍り出た猫に対し、とっさに身をかわし、こんなに深い傷を負うことはなかったに違いない。

 しかし、八重山家の居間は雨戸も閉められ、真っ暗な状態だったのだ。

 そのため、ボブはセバスチャンに引っかかれるまで、まったく気が付かなかったのだ。


 「片方の目が切り裂かれている。早く病院に搬送しないと、失明の恐れがあるわ。それに顔面の傷が思ったより深くて、縫合も必要ね。それにしても、あの家はなに? 猛獣でも飼っているの?」


 その傷は、まさしく虎や豹にやられたとしか言えないようなものだった。

 エレンが言う通り、早くもボブの顔面に巻かれた包帯にはどんどん血が滲みでてきている。

 ジョージの運転する作戦車に拾われるまでの間、ボブは相当量の血を失っている。

 そのため、その顔色は真っ青になりかかっていた。


 「本部に、連絡した。搬送用の車をこちらに回すそうだ」


 そう答えたのは沖場(おきば)三佐だった。

 本来は救急車を要請するところである。

 だが、へたに救急車を呼べば、八重山家侵入の件で警察に情報が行ってしまう。

 現在の所、ボブを搬送できるのは、唯一アメリカ軍の横田基地だけだったのである。

 この毛呂山から横田基地までは、下手すると3時間ぐらいかかってしまう。

 しかし、それはどうすることも出来ない話であった。


 「んっ、ボブ、スーツケースはどうした。ちゃんと仕掛けてきたのか?」


 その時、沖場(おきば)はボブが手ぶらだったことに気づいた。

 あのスーツケース、あれは特殊な物だ。

 NSA工作員御用達の品。

 そこいらへんに置いてきていいものではない。


 「ああ、すまん、家に置いてきた」


 いかな経験豊富の工作員ボブであっても、真っ暗闇で正体不明の動物に顔面を切り裂かれてはたまったものではなかった。

 しかも、セバスチャンは二回目の攻撃でボブの顔面に貼りついたのだ。

 本能的かつ根源的な恐怖がボブを襲った。

 真っ暗闇で幽霊か怪物に襲われたようなものである。

 我を忘れて、ボブが逃げ出したとしても不思議はなかった。

 だが、その結果としてボブが持っていったスーツケースは八重山家の居間にそのまま置き去りにされている。

 更にまずいことに、八重山家には大勢の警官が集まってしまっている。

 何故、あんなに早く警察が来られたのかは不明だが、そのせいでボブが置いてきたスーツケースの回収も不可能になってしまった。


 「まずいな、非常にまずい」


 沖場(おきば)は呟いた。

 今回の作戦は人々の耳目を集中させるためのものだった。

 それも、隣近所レベルではなく、もっと広範囲に渡って知らしめるためのものだった。

 スーツケースの中身、それには数々の破壊工作用のアイテムが収納されている。

 爆弾はもとより、家に火災を起こさせるための発火装置などである。

 ボブの役目は、八重山家に侵入し、家自体を全焼させること。

 そのための時限装置の設置である。

 勿論、八重山さくらや八重山登の殺害が目的ではない。

 それはJ・Jに対する罠だった。

 自分の娘に危害が加えられるかも知れない。

 そう思わせるためのものだった。

 娘である八重山さくらの住む家が火事で全焼したら、J・Jは・・・いや、母親である八重山紅葉は娘を保護しようと、何らかの行動に出るであろう。

その尻尾を掴むのだ。

 八重山紅葉の身柄を確保することが出来れば、J・J・ブロッサムの居場所について、口を割らせることができる。

 いざとなれば、自白剤を使うこともできる。

 そう踏んでの作戦だった。

 だが、その作戦は八重山家の飼い猫、セバスチャンによって頓挫してしまったのだ。


 「沖場(おきば)三佐、作戦本部から通信です」


 エレンが沖場(おきば)の名を呼んだ。

 事態は、更にまずい方向へと急展開をとげつつあった。


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