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わたし達のデリバティブ・ウォーズ  作者: 摩利支天之火
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47.何故パパは日本に・・・

 「そうか、盗聴器と盗撮器が家に・・・・」


 お弁当を食べ、渦巻先輩の入れてくれた美味しいおいしいコーヒーを飲みながら、わたしは昨日の一件をみんなに報告した。

 高杯警部と西蔵警部補の仕掛けた盗聴器のくだりでは、全員がはっと息を呑んだぐらいだった。


 「ゆ、許せない。盗聴器だけではなく、女の子の部屋に盗撮器まで仕掛けるなんて。ぜったいに許せない」


 ゆかりが義憤に駆られている。


 「警察よ、警察は一体、何をしているのよ。警視庁の捜査二課だっけ?そこの課長だか部長だかに通報して、逮捕してもらうべきよ」


 それは、昨夜も登おじさんと話し合った。

 だが、こちらが相談した相手もグルではない保証はない。

 それが登おじさんの結論だった。


 「そうね、でもこの場合、高杯警部たちは上層部の意向で動いている可能性が高いわね」


 そう言ったのは、夢見先輩だった。


 「えーっ、そうなんですか? そんな、警視庁がグルだなんて、杉下右京の出て来る推理ドラマじゃああるまいし」


 ゆかりが納得がいかない表情だ。


 「いや、麗華のいうこともあながち間違いとはいいきれないよ」


 そう言ったのは渦巻先輩だった。


 「この場合、国家的規模の何かが起きている気がする。国家全体の利益の前には個人の人権なんか無視するのが、当たり前だからね。政府が極秘裏に何かをしようとしていれば、平気で殺人だって犯すさ」

 「そうか、そんなもんなんですね。でもひどいですよね」


 ゆかりは渦巻先輩の言葉に素直に頷いた。

 うん、ゆかり。

 恋する乙女っぽくなってきているよ。


 「なあ、やっぱ、パナマ文書が関わっているんじゃあねえのかな」


 焼きそばパンを食べ終わり、渦巻先輩の淹れてくれたコーヒーをおいしそうに飲みながら、謂越いいこし君が言った。

 味のギャップ、すごいと思うんだけど、謂越いいこし君は平気なんだろうか。

 パナマ文書。

 それも昨夜、登おじさんと話し合い、教えられたことの一つだった。

 全世界を揺るがせているパナマ文書。

 世界中の政治家や富豪たちの心胆を寒からしめているリーク文書。

 租税回避地に会社を作ることは違法でもなんでもない。

 ただ、それがペーパー・カンパニーと言われる実体のない幽霊会社で、脱税や違法なお金をマネー・ロンダリングと言って、出所が分からない様にする目的で作られると、話は別だ。

 たとえば、政治家が高額な1億円という賄賂を貰ったとする。

 でも、1億円をそのまま銀行に入金したりすると、アシが付く。

 検察や国税は金融機関の記録を調査できるからだ。

 その1億円を、事務所に置いておいても危険だし、警察のガサ入れで発見される可能性があるからだ。

 では、証拠を残さないためにどうするのか。

 それは、自分とは一見無関係の自分の会社に送金させること。

 送金の名目は何でもいい。

 だって、そのタックス・ヘイブンに作られたペーパー・カンパニーと自分を結び付ける証拠は、国内にはないからだ。

 タックス・ヘイブンの多くは、秘密保護を貫いている。

 外国から調査要求が来ても回答する義務はない。

 かくして、ペーパー・カンパニーには1億円が入金され、その会社のオーナーや役員である政治家は株式配当と言う形でその利益を手にする。

 見かけ上は、まっとうな配当による利益だ。

 かくして、マネー・ロンダリング完了。

 ウッホッホのホっていう訳。

 それが、複数の会社にまたがって送金や入金を繰り返すと、もう訳が分からなくなる。

 だから、タックス・ヘイブンにペーパー・カンパニーがあると聞くと、それはほぼ100%の確率で何かあると思った方がいい。

 登おじさんは、そうわたしに説明してくれた。


 「そうね、命を狙われているんですから、バナマ文書かそれに匹敵するような大きな機密情報が絡んでいるのは間違いなさそうね」

 「だけど、今の僕たちにはどうすることも出来ない。例えその秘密を知ったとしてもね」


 そう言ったのは渦巻先輩だった。


 「スノーデン事件を見ても、ウィキリークスの事件を見ても、逮捕されているのは情報をリークしたとされる人物だけだからね。世の中には内部告発者を保護する法律はあっても、為政者側にその法が及ぶことはまずない。ウィキリークスの創始者のアサンジ氏は逮捕され、保釈中にイギリスのエクアドル大使館に亡命するため駆けこんだが、そこからエクアドルに出国することは出来ず、未だに大使館に留まり続けているはずだ」


 ゆかりが渦巻き先輩に向かって手を上げた。


 「はい、はーい。先輩」

 「ん? 何かな、江戸さん」

 「スノーデン事件って確かアメリカの諜報機関が集めた情報をスノーデンって人がリークしたんでしたよね」

 「うん、そうだよ。その通り。彼は元CIAとNSA・・・アメリカ国家安全保障局の職員でね、膨大な機密情報を持ち出し公開した人だよ」

 「うん、それは聞いたことがあります。でも、ウィキリークスって何でしょうか」


 ゆかりの質問に、わたしも頷いた。

 わたしもスノーデンという名前は聞いたことがあるけど、ウィキリークスとアサンジという名前は聞いた記憶がない。


 「ああ、そうか。もうそうなってしまったか」


 渦巻先輩は大きくため息をついた。

 何だか、おじいちゃんが大正の昔を懐かしむみたいな溜息だった。


 「そうだよね、スノーデン事件は2012年のことだけど、ウィキリークスは2006年のことだから、もう10年も前、ひと昔って訳だよね」


 う、ううっ、こ、子ども扱い・・・わたし達と渦巻先輩は1コしか歳が離れていないのに・・・。


 「アサンジ氏はアメリカの外交機密文書を入手して公開した。一番有名なのはイラク戦争の時の民間人殺傷の動画公開かな。米軍のヘリコプターが、ロイター記者を含む丸腰の民間人十数人を銃撃し殺害した。銃撃されて倒れている人を市民が助けようとしたけど、その人たちも銃撃されて死亡した。ウィキリークスには、そのような民間人虐殺報告が多く掲載されている」


 へえー、そうなんだ。

 わたしの知らない陰謀の世界がそこにはあった。


 「このスノーデン事件も、ウィキリークスも、全世界に報道はされた。多くの人がその行為に顔をしかめたけど、それで政権が転覆することはなかったし、民間人を虐殺したとされる兵士に捜査の手が及ぶことはなかった。操作の手が及んだのはリークし公表した人々だけ、スノーデンはロシアに逃げているし、アサンジはさっきも言ったように、イギリスのエクアドル大使館で雪隠詰めになっている」


 渦巻先輩はそこで一旦、言葉を区切った。


 「そこでだ、僕が不思議でしょうがないのは、何故J・Jが日本に潜伏しているかということ。日本はアメリカの同盟国であり、アメリカの意のままに動くので有名な国だ。ふつう、逃亡するならアメリカに敵対する国か距離を置く国、この場合、ロシアやノルウェーといった国に行くと思うんだけど、何故日本なのだろうか。身体を拘束されるという危険を冒してまで、日本に来なければならなかった理由が何かあるんだろうか」


 渦巻先輩はわたしの顔をまじまじと見た。

 えっ? わたし?

 わたしなの?


 「それは違うとおもうわ」


 そう発言したのは夢見先輩だった。

 その言葉に、わたしはほっとして先輩の方を見た。


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