42.登おじさん、パパの事件について知る
なにがやっぱりなんだろう。
わたしは、おじさんの肩越しにコンセントの中を覗きこんでみる。
すると、外された蓋の中に、小さな乾電池くらいの大きさの部品が見えた。
配線が電源のケーブルに接続されている。
「セバスチャン、偉い、偉いぞ、よく教えてくれた」
おじさんは隣に居るセバスチャンの頭を軽く撫でた。
みゃーー。
セバスチャンは、満足げな・・・というより、どんなもんだいとでも言いたげに得意そうな顔をしている。
「おじさん、何ですか、それは」
そう聞きながらも、わたしはその部品のおおよその見当がついていた。
だから、おじさんが言った言葉にも驚かなかった。
「盗聴器さ。前に会社の講習で何度か教えられた」
わたしの疑問そうな顔に、登おじさんが続けた。
「そういえば、さくらちゃんには言っていなかったな。僕の会社は自衛隊の兵器のある部分を作っていてね。セキュリティ教育が、結構頻繁に行われている」
そう言いながら、おじさんはグイッとその盗聴器を引っ張って外した。
コードが、プチッと音を立てて電力ケーブルから外れる。
「電源をこのコンセントから取り入れるタイプで、室内の会話を電波でどこかに飛ばしている。それからっと・・・」
登おじさんは、今度は固定電話機の裏ぶたを外しにかかった。
「ほら、ここに小さなこじ開けた跡があるだろう」
おじさんは、そういいながら電話機の裏ぶたを外すと、さっきの盗聴器によく似た部品を引きちぎった。
「部屋の中と電話の会話を盗聴されていた。他にないか調べる必要があるな」
「いえ、他にはないと思います」
おじさんにわたしはそう告げた。
「ないって、何故そう思う?」
「だって、セバちゃんがこの場所だけを指し示していたから。他にもあれば、セバちゃんが教えてくれるはずです」
おじさんは、わたしの言葉にセバスチャンの顔を見た。
セバちゃんは、自分の役目は終わったとばかりに、前足を舌でなめ、その前足で顔を一生懸命掃除している。
「たぶん、盗聴器が仕掛けられたのは今日の昼間、わたしが学校に行っている間だと思います。もっと前に仕掛けられていたら、セバちゃんはもっと前に教えてくれていたでしょうから」
「成程、一理あるな。しかし、セバスチャンは、前々から思っていたけど、とんでもなく頭のいい猫だな」
恐らく、今日の昼間に何者かが侵入して、コンセントと電話機に盗聴器を仕掛けて行った。
セバちゃんはソファの陰からその様子をじっと見ていたのだろう。
そして、わたしが帰って来るなり、それをわたしに教えようとした。
「だが、いったい誰が仕掛けたんだろう。この盗聴器はメーカー名も書かれていない。市販品ならば、メーカー名が書かれていていい筈なんだが・・・・さくらちゃん、何か心当たりは何かないか?」
心当たりはある。
それは、パパに関すること以外にはあり得なかった。
「女性だけが暮らしている住宅だ。変質者が狙っている可能性がある。警察に通報する必要があるな」
警察。
わたしは、放課後に訪ねてきた高杯警部と西蔵警部補の顔を思い浮かべた。
この盗聴器を仕掛けた犯人は、パパの行方を追っている。
パパの居場所を掴むために、違法なことでも、何でもやる連中。
あのジャーナリストの古橋っていう人も、パパを追っている連中に殺された可能性が高かった。
そんな連中から身を守ってもらうのには、警察に頼らざるを得ない。
問題は、その警察が信用できるかということだった。
「おじさん、実は・・・」
今日二回目のパパに関する、同じような説明をわたしは行った。
でも、デリ研の時とは違って、あの時の夢見成敗や渦巻先輩のお陰もあり、わたしはだいぶ理路整然と、この間に起きたことを説明することができた。
「むむむ、そ、そうか・・・J・Jが日本に・・」
わたしが説明し終えると、登おじさんは深くため息をついた。
その口調から、登おじさんは結構パパと仲が良かったんだと思った。
「と、なると、その盗聴器はどこかのヘッジ・ファンドが仕掛けた可能性が高いな・・・いや、もしかすると、あれか・・・いや、そんなことは、あれはアノニマスに所属するグループの仕業のはず」
おじさんが深く考え込む。
アノニマス?
その言葉は聞いたことがある。
髭を生やした尖った顎を持つ、メフィスト・フェレスのような仮面を付けた一団。
YouTubか何かで見た記憶がある。
確か、ハッカーの集団。
NHKのニュースでは、そんな解説をしていたっけ。
わたしが見たニュースでは、「違法ダウンロード刑事罰化」に反対し、自民党だったか、民主党だったかのウェッブサイトを攻撃したと言っていた。
「普通は組織からの人材の引き抜きくらいではこんなことはしない。可能性のあるのは、J・Jが非常に大きな極秘情報を握っていて、それをどうしても欲しい連中がいるということだ。その連中が、J・Jの身柄を確保しようとしているとしか思えない」
おじさんのその結論は、デリ研でも指摘されたものだった。
「パパの握っている情報って・・・一体なんだろう」
「J・Jはデリバティブ業界に長くいた。色々な不正な取引や不正蓄財の動きを知っているだろう。以前にソロモン・ブラザーズがやったような、国債や投資案件の不正入札の情報と証拠を握っているのかもしれない。なんと言っても、ヘッジ・ファンドの多くは脱税の温床であり、すべからく叩けば埃が必ず舞うからね」
おじさんは、そこで言葉を切って、深くため息をついた。
「もし、僕が想像しているようなことならば、相手は国家単位になる可能性がある。これはかなり面倒なことになるかもしれない」
国家単位?
そんなことは想像もしていなかった。
だって、国家だよ、国家。
「さくらちゃんは、パナマ文書を知っているかな」
「パナマ文書って、今、ニュースで時々出ているタックス・ヘイブンに造った会社の情報が漏れ出たという・・・」
パナマ文書。
それは日本では比較的大きく取り上げられては居ないものの、全世界ではハチの巣をつついたような騒ぎになっているとYahooニュースには出ていた。
まさか、おじさんは、パパがそのパナマ文書に関係しているとでも言うつもりなのだろうか。




