40.ママからのメール
「そういえば、何だか町に県外ナンバーの車が増えて来たような・・・」
「県外ナンバー? それって、ある特定の県のナンバーが多いとか、そう言うことかしら」
「いいえ、名古屋ナンバーや大阪ナンバー、見たこともないどこの県のナンバーだか分からないのもあります」
県外のナンバーが多くなっているのはわたしも気づいていた。
でも、それって2~3年前からだったような気がする。
「いや、それは関係ないと思うよ」
そう言ったのは、渦巻先輩だった。
「ええっー、どうしてですか?」
「県外ナンバーが増えたのは2013年頃から。あの瀬戸大也選手が世界選手権で優勝したころからだよ。彼はJSS毛呂山というスイミングクラブの所属だから、全国から視察や練習試合の申し込みが相次いだ。金メダリストの育成方法を参考にしたいスイミングクラブは日本全国すべてにあるだろうからね」
「なーんだ。そうだったんですか」
そうか、毛呂山町には世界に誇る瀬戸選手がいたんだっけ。
わたしと同じ毛呂中の出身。
萩野公介選手のライバル。
ちなみに、アニメのfreeは、この瀬戸選手と荻野選手をモデルにしているのではと、わたしは密かに思っている。
違うかもしれないけど・・・。
「ちょっと、話を整理しましょう」
話題が横道にそれたのを感じたのか、夢見先輩がそう言った。
「まず、J・J・ブロッサム氏・・・つまり、さくらさんのパパが現在行方不明になっている・・・これは捜査二課の高杯警部からの情報。でも、これって確かなの」
「ああ、それは本当らしい」
その声に謂越君を見ると、スマホを覗きこみながら操作をしていた。
そしてネットの画面をわたし達に見えるように前にかざす。
『世界的に有名な金融トレーダーであり、クォンツでもあるJ・J・ブロッサム氏行方不明か』
そこにはそう出ていた。
「これによると、今から10日ほど前に、ニューヨークの自宅が荒らされているのが発見され、ブロッサム氏の姿が見えなくなっていた。犯罪に巻き込まれた可能性があると出ているな。ロイターが配信している」
ロイターは、世界的な通信社だ。
ロイターが報道しているのならば、確かなのだろう。
「分かったわ。ブロッサム氏が行方不明なのは事実。でも日本に潜入しているというのは、これも高杯警部からの情報」
「ああ、それは事実がどうかは確かめようがねえな」
「もし、その情報が真実なら、ニューヨークで襲われたというブロッサム氏は無事で、自らの意思で日本に来ているとしか思えない」
夢見先輩のその言葉に、わたしは少しほっとした。
ほとんど記憶になくても、一応はわたしの肉親だ。
「そうだな、日本に入るには飛行機だろう。ということは、本人の意思に反して日本に入国するのは難しいだろうから、ブロッサム氏本人の意思で入国したとしか思えないな。問題は、何故日本なのかということだ。日本は世界的な金融派生商品から見れば外れている。主流じゃあない地域だ。まさか、昔住んでいた日本を懐かしがってやってきたわけでもないだろう」
「そうね、やはりここは、何かから逃げるために、土地勘のある日本にやってきたということかしら」
夢見先輩は小首を傾げた。
ピピピピッ、ピピピピッ。
その時、いきなり部屋に電子音が鳴り響いた。
全員がぎょっとする。
「す、すみません。今のわたし、わたしのメール」
丁度いいタイミングで映画の効果音のように鳴り響いたものだから、全員がびっくりしたのだ。
もう、誰よ。
携帯を鞄から取り出してみると、ママからのメールだった。
びっくりさせないで、ママ。
「ごめんなさい。ママからだった」
わたしはそう言って携帯を鞄にしまおうとした。
「さくらさん、構わないわ。メール読んでみて。何か警察かブロッサム氏に関することなのかもしれない」
そっか、そうだよね。
警察がわたしのところに来たということは、ママの所にも当然行っているはずだよね。
その警察のことなのかしら。
わたしは一度鞄にしまいかけた携帯を取り出して、メールを起動させた。
「・・・・・・・・・・」
わたしは、ママからのそのメールの文面を読んで固まってしまった。
な、なに、これって・・・。
「チェリー、どうしたの? 何がかいてあるの」
わたしの表情を見て、ゆかりがわたしの顔を覗き込んだ。
「こ、これ・・・・」
わたしはメールの文面をゆかりに見せた。
「ええっ、なに、これ」
ママからのメールを読み、ゆかりが大声を上げる。
「どうしたの、メールに、何が書いてあるの」
わたしたちのただならぬ様子に、夢見先輩たちも心配気に尋ねてくる。
ママからのメール。
そこには『仕事が忙しく、出張で当分帰れそうもありません。登に連絡を』とのみ書かれていた。
「さくらさん、今までお母さんが仕事や出張で突然家に帰れなかったことって、あった?」
夢見先輩がその文面を読み、わたしに尋ねた。
「い、いえ、一度もありません。仕事が忙しくても、どんなに遅くなってもママは必ず帰って来ていましたし、出張などもありませんでした」
全員が顔を見合わせた。
何かおかしい。
何か変なことが進行している。
全員がそう思った。
「さくらさん、お母さんに電話してみて」
「はい」
わたしはママの携帯に電話をした。
2~3回の呼び出し音の後に、電話が繋がった。
「もしもし、ママ?」




