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わたし達のデリバティブ・ウォーズ  作者: 摩利支天之火
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39.警察の目的は・・・?

 「やっぱりって、その名刺で何か分かったんですか?」


 わたしが言う前にゆかりが夢見先輩に聞いた。

 興味津々の顔だ。


 「この刑事さん、捜査二課なのね」


 捜査二課と言われても何のことだかわたしには分からない。

 自分の人生の中で、警察にはまったく接点がなかった。

 小学校からのクラスメートにも、父親が警察官という子供は皆無だった。


 「そうか、捜査二課だったのかよ」


 ずるい。

 謂越いいこし君と夢見先輩の間だけで意思疎通が進んでいる。

 二人の間に、目に見えないWiFiが飛び交っているみたいだ。


 「捜査二課は経済事件を担当する部署だぜ」


 謂越いいこし君がわたしの顔を見ながら言った。


 「経済事件? それはどんな事件なのよ」


 ゆかりが謂越いいこし君に詰め寄る。


 「んなもん、知るかよ。でも、J・J・ブロッサムが最後に居た会社は・・・」

 「シティグループのソロモン・スミス・バーニー社よ。確か」

 「ふーん、そうだったか。そこって、悪名高きソロモン・ブラザーズの流れをくむ会社だよな。と、なると脱税とか、その線かな?」

 「うーん、どうかしら。確かにソロモン・ブラザーズは米国国債の不正入札事件は始め色々な事件を起こしたりしているけど・・・・今更って感じよね」


 今更?

 今更ってことは、スキャンダルとしてはもう枯れてしまって、命を狙われるだけの価値もないし、日本の警察が動く価値もないってことなんだろうか。


 「それよりも、気になることがあるなぁ」


 そう発言したのは、渦巻先輩だった。

 わたし達の前には湯気を立てている紅茶が渦巻先輩の手によって置かれた。

 お皿の上には、小ぶりだけどピンク色のマカロンも載っている。

 やっぱり、渦巻先輩は、将来執事になるべきだよ。うん。


 「わたる、気になることって、なあに?」

 「うん、刑事がさくらさんに会いに、直接学校に来たってことさ。普通ならまず母親の所に行くはずだし、本来ならばさくらさんが学校での変な噂が立つことを考慮して、自宅を尋ねるべきだろう? それなのに、わざわざ目立つ学校に来た。これってどういうことだろう」


 わたしを含めて、みんなが「あっ」という顔をした。

 そうだ。

 渦巻先輩の言う通りだった。


 「そうだよ、警察が来たというだけで、チェリーは犯罪者扱いされちゃうじゃん。それって、警察の落ち度だよ。人権無視だよ。ひどいよ。断固抗議しなきゃ」


 ゆかりが憤然としている。


 「さくらさん、警察はお母さんからも話を聞いたと言っていた?」

 「い、いえ、それは何も言っていませんでした」


 そう答えながらも、わたしは疑問が心の中に湧き上がるのを感じた。

 そうだよね。

 普通ならば、ママの所に行くよね。

 何と言っても、パパが連絡をするとしたら、真っ先にママの所なんだろうから。

 それとも、もうママの所に行ったのかなあ。

 それからわたしの所に来た?

 でも、警察が学校にわたしを尋ねてくるなんて、あのママが許す訳はないし・・・。


 「どうも、警察のやり方がおかしすぎるな。何か焦っているのか・・・それともさくらさんに関連する何か別のことがあるのか・・・」

 「わたる、そんなこと言ったら、さくらさん、不安になっちゃうじゃないの」


 夢見先輩があわてて渦巻先輩の言葉を遮った。

 不安?

 わたし、何かしたのだろうか。

 あるいは、私が気が付かないうちに、パパから連絡が入っていたのだろうか。

 どう考えても、一介の女子高生が金融派生商品デリバティブの世界でターゲットになることなどあり得ない。


 「あっ、う、渦巻先輩・・・まさか・・・」


 ゆかりが不意に大声を上げた。


 「ああ、そのまさかさ」

 「そんな・・・そんなことって」


 渦巻先輩がゆかりの言葉に頷いた。

 ええっ? 何のことだか分からないのは、ひょっとして、私だけ?


 「じゃあ、警察はわざとチェリーを囮に使おうとしているっていうんですか?」


 ゆかりが怒っている。

 これまでに見たこともないくらい怒っている。

 えっ?

 囮?

 その言葉で、ようやくわたしも気づいた。

 ・・・でも、そんなことって・・・。

 パパをおびき出すために、わたしを利用しようというの?


 「さくらさん、あの死んだ古橋っていうジャーナリスト以外に、不審な車や人を見なかった?」


 夢見先輩が毅然とした面持ちでわたしに問いかける。

 他の不審な人物・・・・。

 わたしは、少し考えてから首を横に振った。

 あまり思い当らない。

 登おじさんに会いに川越まで行った時は、電車の中や喫茶店の中でジロジロと色んな人に見られた。

 でも、それはいつものこと。

 わたしの、この目立つ金髪のせいだ。

 誰だって、埼玉の片田舎の電車に、高校の制服を着た金髪の女の子が乗っていたら、思わず二度見てしまうだろう。

 その中に、不審な人が居たとしても、大勢の好奇の目線の中では、気づくはずもなかった。


 「そう言えば、俺は見たぜ」


 そう言ったのは、謂越いいこし君だった。


 「それはどんな人かしら」

 「昨日だったか、おとといだったか、2時間目が始まってしばらくして、帽子を目深に被ったおっさんが、自転車置き場でゴソゴソと何かやっていた。ブルーのつなぎを着ていたんで、その時は自転車置き場の修理にきた業者かなと思ったけど、何だか自転車を一生懸命いじっていた。あまり人目につきたくない様子がありありとしていたんで、おかしいとは思ったけどな」

 「ちょっとお、何であんたが授業中にそんな人を目撃できるのよ」


 ゆかりが謂越いいこし君を問い詰める。


 「うっせえなあ、そん時は風邪で熱があって、病院に行ってから学校に来たんだよ。ま、インフルエンザじゃなかったけどな」


 自転車!

 この前、自転車に乗った時に違和感を感じた。

 前照灯のダイナモに、見たことのない配線がしてあったのだ。

 まさか・・・まさかね。


 「ふーん、他に不審な人や出来事に気づいた人いるかしら」


 その言葉に、ゆかりがポンと手を打った。


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