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わたし達のデリバティブ・ウォーズ  作者: 摩利支天之火
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30.登おじさんに相談

 「チェリー、で、どうなったの? チェリーのママとは、結局仲直りできたわけなの?」


 登校すると、既に先に来ていたゆかりが駆け寄ってきた。

 うん、ありがと、ゆかり。

 流石は親友よね、真っ先に心配して駆け寄ってきてくれる。


 「ううん、まだ仲直りしていない。だって、ママは朝早いから、あれから顔合わせていないもん」

 「そっかあ。でも、母一人子一人の家庭だから、それで不仲になっちゃまずいよぉ。あたしゃ心配でゆうべはおちおち寝ていられなかったんだから」

 「あ、ありがとう。やっぱ、持つべきものは友達だよ」


 なんだか、ちびまる子ちゃんみたいな会話をしながら、わたし達は席に座った。


 「おう、今日は何だかしけた面してんなぁ」


 席につくなり、謂越(いいこし)君が失礼千万な挨拶をしてくる。


 「失礼ね。女の子に向かってしけた面とはなによ」


 早速、ゆかりの反撃が始まった。

 二人の言い合いをぼんやりと聞きながら、わたしは今日の放課後のことを考えていた。

 やっぱり、夢見先輩にママとのことを言うのは止めよう。

 これは、わたしとママとの問題なのだ。

 強いて言えば、ママの誤解が最大の問題なのだ。

 だから、その誤解が解けるまでは、夢見先輩に言うべきではない。

 わたしは、そう思った。


 「ねえ、ゆかり、わたし今日は早く帰る。夢見先輩には、今日お休みって言っといて」

 「えーっ、まさか、チェリー、あんた・・・」

 「違うわ。違うの。今日登おじさんと合うことになっているから」


 登おじさんとはゆかりも会ったことがある。

 中学生の時に、一緒に川越祭りを見に行った時に、登おじさんの家族も一緒に来たのだ。

 だが、ゆかりはその言葉で理解したようだった。


 「あっ、それ、いい考えかもしんないね。あのおじさん、しっかりしていそうだったもの」

 「うん、それでちょっと相談するの。なんでママがあの言葉に激しい拒否反応をしているのかとか、分かるかもしれない」

 「ふーむ、なるほど。まずは原因から調査し、真の原因を探すということよね。真の原因が分かれば、解決策も見えてくる。それでPDCAをするのよ」


 ゆかりの口から、まっとうな・・・というか、訳の分からない言葉が飛び出し、わたしはびっくりしてゆかりの顔をまじまじと見つめてしまった。

 どうしちゃったの、ゆかり。

 何か悪い物でも食べたの?


 「なんだ、お前、ISO齧ってんのかよ」


 謂越(いいこし)君も変な横文字を口にする。

 なに?

 ISOってなに?

 お願いだから、日本語で言って。


 「チェリー、ごめん。うちのおとうさんがさあ、今度ISOっていう国際標準の品質管理の規格を取るとか言って、あたしにも教え込もうとしているのよ。そこで出て来る言葉」


 ゆかりはそう言って舌をペロッと出した。


 「それはISO9001っていう品質規格のことだろう」

 「な、なんであんたが知ってんのよ」

 「何でって言われても・・・そのくらい常識だぜ。もともとはこの品質管理の規格はヨーロッパのNATO軍の武器弾薬の管理する技術を転用した物だからな。審査基準を定めて、定期的に再審査を受け続けなければISO9001って規格の認証が取り消しになっちまう。その金は本部のあるイギリスに吸い上げられ、永続的にイギリスが収入を得るっていう集金システムなんだぜ」

 「えーっ、そうだったの」


 ゆかりが意外そうな顔をした。


 「もっとも、もともと軍の品質管理の応用だから、こうすれば品質は保たれるというノウハウ集みたいなものさ。何十年か前にサッチャー首相が金を継続的に世界中から集めるために考えたって言われている、ま、嘘か本当かは分からんけどな」


 この謂越(いいこし)君、何だか変な所で知識が豊富にある。

 昨日も金融関係の知識、豊富だったみたいだし、何だろう、いったいどういう精神構造しているんだろう。

 わたしは、少しだけこの謂越(いいこし)君に興味が沸くのを感じた。



 放課後、わたしは電車に乗って川越まで出た。

 登おじさんに会うためである。

 本当は、おじさんの会社は板橋にあるのだけど、今日は早めに仕事を上げて会ってくれるそうだ。

 板橋から川越までは、東武東上線で一本で来ることが出来る。

 待ち合わせは駅ビルのエキア川越の中の喫茶店だった。

 川越の改札の雑踏を抜けて、わたしは一直線に指定された喫茶店に入った。

 すると、奥の座席に登おじさんが居て、わたしに向かって手を振っているのが分かった。


 「登おじさん、ごめんなさい」


 わたしは登おじさんの向かいに腰かけた。

 登おじさんは普段は見かけないスーツ姿。

 こうしてみると、大人って感じで、すごく頼りがいがありそうに見えた。


 「いやあ、さくらとこうして会うのも何か月ぶりかな。相談したいことがあるって、頼ってくれて本当に嬉しかったよ」

 「でも、お仕事時間中だったんでしょ、本当に大丈夫なんですか」

 「大丈夫、だいじょうぶ。僕はフレックスだから」


 登おじさんは、なんのことはないと言わんばかりに手を顔の前で左右に振った。

 フレックスというのは前に聞いたことがある。

 月に決められた時間を働くのであれば、何時に出社して何時に退社してもいい制度だって。

 夜型とか朝方の人には、そして通勤ラッシュ時間帯を避けたい人には非常にいい勤務制度らしい。


 「で、さくら、相談事と言うのはなんだい?恋愛相談なら僕はお手の物だよ」


 登おじさんは結構なイケメンである。

 今は家庭を持って落ち着いているが、ママが言うには、若い頃はそれこそ女の子からのラブレターが毎日のように届いていたらしい。


 「いえ、今日はそんなんじゃありません」

 「なんだ、違うのか。でもさくらはもてるだろう?」


 登おじさんは、何が何でも恋愛相談に話を持っていきたいようだった。

 だけど、わたしはそれを無視して話を切りだした。


 「登おじさん、金融派生商品(デリバティブ)って知っています?」


 とたんに、おじさんの顔に陰がチラッっと走ったようだった。


 「金融派生商品(デリバティブ)っだって? そりゃあ、言葉くらいは知っているけど・・・それがどうかしたのかい?」


 そこでわたしは学校のデリ研のことを話しだした。

 夢見先輩のこと、渦巻先輩のこと、デリ研の創設目的のこと。

 そして、それをママが猛反対していることを話した。

 理路整然と反しているつもりだったが、何だか、話しているうちに涙が溢れてきた。

 ママがちっとも理解してくれない。

 話も聞いてくれなくて、頭ごなしに辞めろと言って来る。

 最後は愚痴みたいになってしまったが、とにかくわたしは胸の内に溜まってい るモヤモヤも含めて、洗いざらい登おじさんに話した。


 「ふ、ふーん、そ、そうか」


 最後におじさんはそう呟いた。

 だけど、それはどういう訳か、少し動揺しているような様子だった。


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