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わたし達のデリバティブ・ウォーズ  作者: 摩利支天之火
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29.なんとかしてママを説得しなくちゃ

 LINEの返信は直ぐに来た。


 『えーっ、なんで、なんで。なんでチェリーのママがそんなに猛反対しているの?』


 わたしにもママがあんなに過激な反応をする理由が思い当らない。


 『家族で、デリバティブで大損した人いた?』


 ゆかりからのLINEで、わたしはお爺ちゃんお婆ちゃんのことや、ママの兄弟のことを考えてみた。

 お爺ちゃん達は長野に住んでいる。

 小さなお蕎麦屋さんをやっていて、デリバティブにはまったく無縁だと思う。

 お蕎麦かあ。

 お爺ちゃんの打つ手打ち蕎麦は絶品で、わたしの大好物だ。

 蕎麦打ち一筋で人生を送ってきた人だ。

 蕎麦に関しては、研究熱心で色々な側に関する本や資料がいっぱいある。

 でも、金融派生商品(デリバティブ)に関する本など、お爺ちゃんの家では見たことがない。


 ぐうーーっ。


 お爺ちゃんのお蕎麦のことを考えているとお腹がなってきた。

 し、しまった。

 サイボクのハンバーグ全部食べてから、自分の部屋に駆け込むんだった。

 何と言っても、わたしは育ち盛りの乙女。

 一食を抜かすことなど、考えらんない。

 でも・・・・・。

 でも、わたしはママに対して怒っていた。

 わたしの人生の中で、最高に最大級に怒っていた。


 「こ、こうなれば、ハンガーストライキよ」


 わたしはセバスチャンに向かってはっきりと宣言した。


 みゃーああ。


 本当?とでも言うかのようにセバちゃんはわたしの顔を見て鳴き声を上げる。


 「本当に本当よ。乙女の言葉に、二言はないのよ」



 結局、それから2時間後に、わたしはそろそろと居間に降りて行った。

 ママはもう寝室に行っていると見えて、居間は小さな明かりが一つ点いているだけだった。


 ぐうーーっ。


 情けないことに、わたしのお腹が思った以上の大きな音を立てる。


 「しいっー、静かにして」


 わたしは自分のお腹に命令した。

 幸いと言うか、食卓の上には私が食べかけた料理だけがそのままラップを掛けて置いてある。

 ごはんも、おみそ汁もすっかり冷めてしまっていたけど、空腹には勝てなかった。


 「んーっ、美味しい。冷めても美味しい」


 わたしはそっと食卓に座ると、残したハンバーグとごはんを食べ始めた。

 そして、食べながらも思う。

 なんでママはあんな過剰とも言える反対をしたのだろうと。

 わたしはデリ研を辞めるつもりはなかった。

 あの、綺麗でおしとやかで、上品で頭のいい夢見先輩と、もっともっとお近づきになりたかった。

 わたしが子供のころから欲しくって、思い描いていた理想のお姉さま。

 夢見先輩は、わたしの憧れだった。

 僅か数日の短い時間で、わたしは夢見先輩にすっかり夢中になってしまったのだ。

 その憧れの先輩と別れるなんて嫌。

 ぜえったいに、嫌。

 わたしはそう硬く決意していた。


 「ごちそうさまでした」


 わたしは小声でそう言って食器を台所に片付けた。

 そして、食器を洗いながらも考えてみる。

 ママの親族にはデリバティブに関係する人はいない。

 ママの弟と妹が居るけど、二人とも東京で製造機メーカーとアパレルメーカーに勤めている。

 二人ともに結婚していて、幸せな家庭を築いている・・・と思う。


 「やっぱり、パパの関係かあ」


 お皿を洗いながら私わたしはそう呟いた。



 翌日、わたしはママと顔を合わせないまま起床した。

 ママの出勤は朝が早い。

 もう会社に出かけてしまっている。

 お弁当はしっかりと作ってくれていたが、お弁当の横にあるメモには『さくらへ デリバティブ研究会は辞めなさいね』と書いてあった。


 「ぜえーったいに、辞めないもん」


 わたしはメモを見るなりそう呟いた。

 そして、セバスチャンに朝食をあげながらこれからどうしようかと考えてみる。

 ことの原因は、ママの勘違いにある。

 デリ研が、お金儲けを目指すための集団と、頭ごなしに決めつけている。

 金融派生商品(デリバティブ)を使って、利益を上げるための集団だと思い込んでいる。

 でも本当は、デリ研の目的は金融派生商品(デリバティブ)の実体を理解し、投機ではない、本当に人々の為に役立つ投資とは何かを研究する、まっとうな研究会なんだから。

 これは夢見先輩が言っていたから間違いない。

 それを話す時の夢見先輩の顔は、堅い決意に満ち溢れていた。

 嘘なんて言っていない顔。

 そして、金融派生商品(デリバティブ)を世界の破滅に導く道具と見ている顔だった。

 これはどうにかしてママの誤解を解かなくてはならない。


 「ねえ、セバちゃん、どうしたらいいと思う?」


 みゃーぁぁ。


 セバスチャンは、ご飯を食べるのを一度止め、私の顔を見上げて鳴いた。


 「そうか、そうよね。相談するのが一番よね」


 みゃゃゃん、みゃゃん。


 わたしは困った時はよくセバスチャンを相手に愚痴を言ったり、問いかけをしたりする。

 セバスチャンは、合いの手を入れるのが上手で、必ずわたしの質問に応えてくれる。

 ネコ語が分からないから、セバちゃんが何を言っているのか分からないけれど、その返事で、私は自分の頭の中の考えが整理されることが良くあった。

 今回もそうだった。

 誰に相談しようか。

 ゆかりは勿論、その第一候補だ・・というより、昨日もうLINEで相談している。

 今日も学校で顔を合わせれば、その話題になるのは必定だった。

 次に頭に浮かんだのは夢見先輩。

 でも、私は夢見先輩の美しい顔を頭から振り払った。

 だって、デリ研を辞めるなんて相談、先輩に出来る訳がない。

 先輩はきっと困り、悲しむだろう。

 デリ研のせいで、母子仲が悪化すると思ったら、先輩は絶対にデリ研を辞めるように言うに決まっている。

 うーん。

 やっぱり、ゆかりしかいないのか。

 でも、ゆかりはああ見えて結構喧嘩っ早いところがある。

 下手したら、ママに直談判などしに来る可能性が高い。

 きゃ、止めて。

 ぜったいにこじれる。


 「あーあ、いざとなったら、相談できそうな人・・・・」


 そう呟いてから、わたしはある人物に思い当った。

 都内の製造機械のメーカーに勤めているわたしのおじさん。

 そして、ママの弟。

 (のぼる)おじさん。

 そうだ、(のぼる)おじさんがいた。

 わたしがちっちゃい頃からよく遊んでくれたおじさん。

 わたしは、この登おじさんに、絶対的な信頼を置いていた。

 登おじさんなら、ママの凍てついた雪の女王のような心を溶かしてくれるかもしれない。

 わたしは、携帯を鞄から取り出した。


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