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わたし達のデリバティブ・ウォーズ  作者: 摩利支天之火
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20.ジョン・ローって、何者?

 「そうよね、千円札はあくまでも千円。日本国内で千円以内の値札が付いているものならば、なんでも買える。でもね。その千円の価値は、みんなが千円の価値があると信じているから流通しているんじゃあないかしら」


 むむっ、むむむっ。

 なんとなく、夢見先輩の言っていることの意味が分かってきたような気がした。


 「えーと、例えばその千円札を、アフリカの奥地か何かに持っていって、これでバナナ売ってくれと言っても、現地の人には単なる紙切れにしか見えないってことですよね。でも、日本人ならばその紙切れが千円という価値を持っていると知っている・・・それは単に価値を知っているかどうかの問題じゃあないんでしょうか」

 「そうね、その価値は人間が・・・千円札の場合は、特に日本人が付けて日本人だけの間で広く知られている共同幻想の世界」

 「幻想! 幻想なんですか?」


 幻想とは、真実ではないことを勝手に、盲目的に思い込んでいること。

 まやかし。

 めくらまし。

 夢見先輩は、お札が幻想だと言っているのだ。

 皆が信じているから真実になる。

 うーん・・・これは哲学的な問題なのだろうか。


 「共同幻想は人類の十八番よ。みんなが信じているから世界中には星の数ほどの神様がいる。みんなが信じているから、お金がお金としての価値を生み、それをみんなが使う」


 そう言われればそのような気がする。


 「じゃあ、今のお金は突き詰めていけば、何の価値もないっていうことなんですか? みんなが価値があると信じているだけで、本当の価値はないと」


 ゆかりが夢見先輩に聞いたが、そのゆかりの顔も納得していない表情をしている。


 「そうよ。本当に突き詰めていけばね。ところが、このお札も昔は本当に価値が裏付けされていた時代があったのよ」


 価値が裏付けされていた時代?

 えーと、どういうことだろう。

 たった今、価値がないと言われたばかりだ。

 お札は、本当の価値はなくて、ただの印刷された紙切れだと。

 では、本当の価値とはなんだろうか。

 まさか、幸せではないわよね。

 幸せはお金で買えますとか言う、そんなオチじゃあないわよね。

 そして、昔の人はそれを信じていた・・・あっ、これも共同幻想かあ。


 「あっ、わかった。(きん)、それは(きん)ですよね」


 突如ゆかりが大声を上げる。


 「そうよ。その通り。太古から人類が普遍的に価値を置いていたのは(きん)(きん)は生産量が限られ、精製するのに多大の労力を使う。でも、そうして精製された(きん)は錆びず腐らず、見た目にも綺麗で、容易に加工でき、利用価値が突出して優れているわ。これほどの金属は他には存在しない」


 そっか、(きん)か。

 そう言われれば思い当る。

 お(かね)って字、もろに金だし。


 「古今東西、そのもっとも価値のある(きん)が貨幣として使われていたの。外国では金貨、日本では大判小判などが代表格ね」


 大判小判か、歌にもあるもんね、「大判小判がざっくざっくざっくざく」って。


 「では、そのジョン・ローって賭博師が、人々が金貨の代わりに使う紙幣を発明したってことですか?」

 「そうね、それまでの歴史で、紙幣を発行した国はいくつもあった。成吉思汗が打ち立てたモンゴル帝国なども紙幣を発行しているわ。でも、カジノで使うチップのように、(きん)と引き換えることを明確に保証した紙幣で、これほどまでに大胆に実行した国はなかったの」

 「へえー、そうなんですか」


 わたしは感心した。

 だって、紙切れ一枚が金貨と同じ価値を持たせることをフランスの王族に納得させたのだ。


 「ジョン・ローの発想はそれだけではなかったわ。実現しなかったけど、フランス国家や王家の土地を担保に土地証券というものも作って売り出そうと計画したの。今の土地証券と原理は一緒ね」


 賭博師という肩書を聞くとなんだか胡散臭い人物のように思えたけれども、18世紀の昔にそれだけの先進的な政策を進めたのだ。

 天才じゃん。

 ノーベル賞ものだよ。

 だって、今の紙幣の元型を考えたんだし、土地証券も考えたんだし。


 「ジョン・ローのその発想は、オルレアン公の心を動かしたわ。彼はそこに財政破たんに向かっていた国家の財政を劇的に解決する道を見たのね」

 「えっ?紙幣の発明だけでフランス王朝の財政が解決したんですか?」


 たったそれだけのことで?

 確かに、金貨を持ち歩くよりは、紙幣のほうが軽くてかさばらなくて便利だろうと思う。

 だけど、それでフランス国家の財政破たんの解決策になるのだろうか。


 「紙幣はそれまでの人類の歴史の中で、何度か登場していたわ。だけど、摂政のオルレアン公フィリップ2世とジョン・ローは、その紙幣が確実に世の中に定着させるために、3つの強力な政策を制定したわ」


 3つ。

 3つの政策?

 なんだろう、全然想像もつかない。

 金貨に変えて紙幣を使わない者を罪に問うたのだろうか。


 「その政策の一つ目はね、国内に流通している金貨と銀貨は法で使用禁止として全部回収し、その代り新造の金貨と銀貨と交換したの」


 はい?

 新しい金貨や銀貨に交換したんですって?

 だって、金貨や銀貨の額面は一緒でしょ?

 なんでわざわざそんなめんどくさいことをしたんだろう。


 「オルレアン公は、回収した金貨と銀貨を溶かして新しいルーブル金貨と銀貨を作った。でも、その新しい金貨と銀貨は、回収した物より20%金や銀の含有量が少ないものだったの。金貨5枚が金貨6枚に増える計算よ」

 「ええっ、それって・・・」

 「そう、オルレアン公とジョン・ローが行ったのは質の悪い貨幣鋳造だった」


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