13.ファーストリテイリング作戦
「頭いい!!」
ゆかりが感嘆の声を上げた。
それは私も同感だ。
流石は日本のエリート集団、やることが一般庶民とは違う。
「と、いうことは、わたしたちでも個人向け国債を購入すれば、マイナス金利が拡大した時に儲けることができるんじゃあ」
何だか、ゆかりの目がキラキラしている。
あれっ、又もやブラックゆかり出現。
「うーん、個人向け国債を売却するような市場は存在していないし、入札制度もない固定金利3年と5年、それに変動金利10年ものしか扱っていないからどうかしらね。固定金利は一度決めた金利のままだし、変動金利はその時々の金利が適用されるけど、最低保証金利が0.05%というのがあって、マイナス金利を適用するって話は聞いたことないわね。その線は難しいと思うわ」
「なあんだ、駄目なんですか?」
ゆかりががっかりしたそぶりを見せる。
「そうだよ、ゆかり、個人向けのマイナス金利の国債なんて、誰も買わないわよ」
「そっかあ、そうだよね」
すると、夢見先輩が言葉を続ける。
「もし、個人向け国債を買うとしても、変動金利10年ものはお勧めできないわね。多分マイナス金利は暫く続きそうな情勢なので、多分最低保証金利の0.05%のままだと思うわ。もっとも固定3年と5年物の金利も最低保証金利が0.05%なので、どの国債を購入しても0.05%に限りなく近いものになるでしょうけど」
0.05%かあ。
100万円預けて、つく利子が500円かあ。
なんか、安すぎる気もする。
でも、今のゆうちょの利子が0.001%なので、それよりはだいぶましなのかなあ。
わたしは、そう考えた。
「結局、先輩。わたし達庶民は金融商品では儲ける・・・じゃなかった。自分の資産を増やすことなど難しいってことでしょうか。何か、こう、有利な商品ってないんでしょうか。よく言うじゃあないですか、ローリスク・ハイリターンって」
ゆかりがなおも食い下がる。
ええっ?
もしかして、ゆかりは財テクか何か考えているの?
「ローリスク・ハイリターンね。それは詐欺と同じ意味だから気を付けた方がいいわね」
「詐欺、詐欺なんですか」
うん、ゆかり、わたしもそれは詐欺だと思うよ。
お年寄りに近づいて、ローリスク・ハイリターンの債権を勧める詐欺って、時々ニュースで耳にする。
最近では、特定銘柄の株か何かを勧めた後に、別の会社を名乗る人物から電話がかかってきて、○○という株式を高く買いますみたいな話につられてしまう手口とか、とにかく詐欺の手口がどんどん複雑巧妙化していると聞くよ。
「金融の世界では、ローリスク・ハイリターンの商品が存在しないことは鉄則よ。一時期サブプライム・ローンがローリスク・ハイリターンの証券としてもてはやされ、世界中に売れまくったこともあったけど、それも結局淡い幻想にしか過ぎなかった。日本でそのサブプライム・ローンを購入し、頭取自身が周り中に勧めまくった銀行があったけど、2008年にアメリカのサブプライム・ローン破たんで、1兆円を超える損失を出したと言われているわ。でも、本当の損失額はいまだに不明のまま。数兆円とも言われているの」
サブプライム・ローンか、言葉だけはニュースで聞いて知っている。
「なあんだ。やっぱり濡れ手で粟で儲かるものなんか、世の中に存在しないってことですよね」
そうだよ、ゆかり、人間は地道にコツコツと働いてお金を貯めなきゃ。
一攫千金なんて狙っちゃ駄目だよ。
「でもね、金融派生商品ではなく、古典的な金融関連の投資で大きなお金を手に入れる可能性はあるのよ」
夢川先輩のその言葉に、またもやゆかりは食いついた。
もう、ゆかりったら。
親友である私の方が恥ずいよ。
「な、何なんですか、それは。いったいどういう商品なんですか」
目が・・・ゆかりの目がこれまでに見たこともないくらい真剣だ。
その迫力にも夢川先輩も渦巻先輩もたじたじになっている。
「え、ええ、それはね、将来有望な会社の株式を購入すること」
その言葉を聞いて、ゆかりの顔ががっかりしたような表情になる。
うん、その言葉はお金持ちになるためにはお金を貯めることと言っているのと同じだよね。
そんな有望な会社が、そうそう見つかる筈もない。
「でもね、それは結構有効な方法なのよ」
ゆかりのがっかりした顔を見ながら、夢見先輩はニコニコしながら言った。
「たとえば、ユニクロを展開しているファーストリテイリング、この会社が最初に株式を広島証券取引所に上場した時は、株数が720万株で1株当たり1万円くらいだったわ」
「1株1万円で720万株ということは、単純計算で・・・720億円?」
「そう、その時ファーストリテイリングは会社の資本として700億円近いお金を集めたの。その20年後は1億株の発行で株が4万円台になっているわね」
えーと、それってどういうことだろう。
理解が追いつかない。
わたしとゆかりはお互いの顔を見た。
うん、ゆかりも分かっていない。
「その意味はね、もしあなたたちが1994年の広島証券所上場時に、1株一万円のファーストリテイリング株を10株購入したとしたら分かりやすいわ」
えーと、10株ということは10万円ね。
すると、ゆかりが大声を上げた。
「あっ、分かりました。10万円で購入した株は20年後には1株4万円になっているから、40万円になっているってことですね。差し引き30万円の利益」
ゆかりの表情は、どうだと言わんばかりである。
「ブブーッ、ちょとどころか、だいぶ違うわね」
夢見先輩がニコニコしながらゆかりに告げた。
「ええっ、違うんですかぁ?そうか、4倍になるなんて、そんなに甘いわけないですよね」
だが、次に夢見先輩が言ったのはもっと驚くべはことだったのである。
「ファーストリテイリングは株式を上場してから10年後に株式分割を行っているわ。その比率は、もともとあった1株を約10株分にしたの」
「一株が10株!・・・ということは、わたしの持っている株が10株だから、えーと、100株を持っているということになりますよね」
「そうよ。そしてその100株をそのまま今日まで持ち続けていたとしたら?」
「100×4万円・・・ええっ、400万円!?」
ゆかりが目を白黒させた。
わたしだって同じだ。
「じゅ・・十万円が・・・400万円!! あたし、大金持ちじゃん!」
ゆかりは、持ってもいないファーストリテイリング株のあまりもの資産価値に顔を紅潮させている。
「そう、その将来有望な会社、は全国260万社の中に必ずあるわ。そしてそれを見分ける方法も、すでにあなたたちの中にあるのよ」
「ええっ、わたし達の中に?」
またも夢見先輩が言ったのは、意外な言葉だった。




