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悪意の底に残されたもの(13) ~覚醒した力~

「あたしの姿を撮影してください!」


言うが早いか、マイミは上空のフライング・ヒューマノイドを銃撃し始めた。


牧村は慌ててタブレットを構えると、その様子を撮影し始める。

「いったい、何だってのよ霧崎!」


呪いの銃弾がフライング・ヒューマノイドを引き裂いた。クリーチャーは苦悶の叫びをあげて、二つに引き裂かれて落下する。


マイミはタブレットの方を振り返って言った。


「こちらはカリフォルニア、ロサンゼルス。霧崎マイミです。クリーチャーの親玉と戦っています」


振り向き様に、ゾンビの一群に銃弾を叩き込む。

右に、左に、両手に握ったコルトガバメントを華麗に操り、舞を舞うように銃撃を続ける。


「牧村さん、この映像をA-ネットにアップしてください」


「A-ネットにアップって……何を言い出すのよ、あんた」


ぼやきながらも、牧村はタブレットを操作して動画をアップロードする。

エンジニアの佐倉たちが開発したA-ネットのAI(人工知能)が、その動画を解析し、素早く種別を分類してタグ付けした。


“健闘”、“不屈”そして“勝利”。


人類の側から立ち上った、数少ない反撃の狼煙だ。


様々なSNSやネットBBSを通じて、世界各地にマイミの雄姿が配信される。


「何よ……これ」


牧村が素っ頓狂な声を上げた。

A-ネットのトップ画面に、新着の告知を知らせるバッヂアイコンが表示され、その中の数が瞬く間に増えていく。マイミの勇姿を見た世界各地の人々が、共感を示すLikeボタンやシェアボタンをクリックし、瞬く間に拡散しているのだ。


A-ネットの世界地図で明滅する光点の数が、じわりと増えた。


「霧崎マイミの雄姿が、人類に希望を与えている……」

「霧崎マイミの雄姿が、人類に希望を与えている……」


ホーリーとモーリーが、何が起きているのかを口にした。


「凄まじい勢いで、動画が拡散されています」

「凄まじい勢いで、動画が拡散されています」


マイミはアレクサンドルの方角を眺めながら口を開く。


「牧村さんも、動画を広めるのに協力してください。そのタブレットのfacebookでシェアするとか……」


「だけどこれ、あんたのタブレットよ。あんた、Facebookの友達なんかどうせゼロでしょ?」


「だったら自分のアカウントに切り替えるなり、何か考えてください!」


再びフライング・ヒューマノイドが襲来する。マイミは素早く撃ち落とすと、瓦礫を乗り越えて前進を始めた。

口の中で小さく呟く。

「決着をつけるわ、アレクサンドルと」


その一方、牧村はネット掲示板につなぎ、動画を拡散させようとした。

だがわざわざ書き込むまでも無く、ネット上はすでにロサンゼルスで戦う謎の戦士の噂で持ち切りだった。


<ロサンゼルスでクリーチャーと戦ってる奴がいるってよ!>

<まじか、ゾンビを一発でなぎ倒してるぞ>

<どこの国の軍隊が戦ってるんだ? 米軍なのか?>

<おい、ちゃんと見ろよ。これ女じゃないか>


驚きとともに、世界中に拡散しているものがあった。


希望だ。


霧崎マイミの勇姿が、クリーチャーに追い詰められ、閉じ込められた人類に希望を与えていた。

そして人々の希望が、マイミの中にある波動を活性化させる。


人類の希望を背負い、クリーチャーを蹴散らしながら前進するマイミ。

その向かう先には、同じくこちらに歩を進めるアレクサンドル。


突然、マイミの胸に虚ろな声が響いた。


<マイミ、不思議な技を使うようになったじゃないか>


アレクサンドルの声だった。


<そうね、言ったじゃない。あなたを倒すって>


<まいったな、予想外の反撃だ。こちらもそれなりの手を使わないといけないようだ>


<無駄よ、アレクサンドル。あたしたち人類はつながったの。世界中の人たちが、あなたを倒す力を与えてくれる>


<そうか。だけど呪いの銃弾で、これを防ぐことはできるかな?>


その言葉を受けて、マイミは視線を上げた。


アレクサンドルの頭上に、フライング・ヒューマノイドが姿を現す。その小さな影は、ふらふらと揺れていて、よく見ると何か重い物を持ち上げているようだった。


その姿を見た瞬間、マイミは直観した。


あれはSDAM。ドニーたちが運び込んだ戦術核兵器だった。





※※





<悪魔の発明品。これを使うつもりはなかったのだが、仕方がない>


アレクサンドルの嘲るような声が胸の中に響く。


マイミは青ざめた顔で、前方を見た。フライング・ヒューマノイドがSDAMを抱いて、上空をふらふらと飛んでいる。こちらに飛来して投下してしまえば、逃げる暇はない。一瞬で勝負をつけられるだろう。


「どうしたの、霧崎」


マイミの様子に気付いた牧村が訪ねた。


「奴らはSDAM、戦術核兵器を使うつもりです。フライング・ヒューマノイドに持たせて、こっちを爆撃しようとしている」


「えっ……」


牧村が愕然として空を見上げた。


「デルタ・フォースが運用していたSADMは、W54核弾頭を搭載していて、破壊力は1キロトン……」

「デルタ・フォースが運用していたSADMは、W54核弾頭を搭載していて、破壊力は1キロトン……」

ホーリーとモーリーが言った。

「広島に投下されたリトルボーイが15キロトンで、被害半径は2.45キロだった。威力と被害半径の関係は三乗根で求められるから……」

「広島に投下されたリトルボーイが15キロトンで、被害半径は2.45キロだった。威力と被害半径の関係は三乗根で求められるから……」


先に計算を終えたのは、マイミだった。

「十五分の一の三乗根ということは、概ね0.4ね。2.45かける0.4は0.98。あの戦術核爆弾の被害半径は概ね一キロってところだわ」


全員が息を呑んだ。

街ひとつ吹き飛ばすには役不足かも知れないが、マイミたちを抹殺するには十分過ぎる威力だ。

半径一キロもの円周から、走って逃げるのは不可能だった。


「ど……どうすれば……」


牧村の言葉を聞き流しながら、マイミは辺りを見渡した。

「鉄筋コンクリートの建物に逃げ込めば、核爆発に耐えられるないかしら」


「無駄だろうな」

多古忍が冷たく言い放った。

「例え鉄骨が焼け残ったとしても、中にいる我々は丸焦げだ」


「……じゃあ、地下ならどうなのよ?」


牧村の提案に、今度はマイミがかぶりを振った。

「下水路に続く最寄の入り口はここから二ブロック先です。それに、例え逃げ込めたとしてもその先は厳しい。アレクサンドルはこちらの動きを読み、必ず待ち伏せを仕掛けるでしょう」


「じゃあ……どうすればいいのよ!」


苦し紛れに牧村が叫ぶ。


「ふむ……」

皆が黙り込む中、多古忍が目を眇めて上空を見上げた。

「そうだな……爆撃を避ける方法が無いなら、あいつを撃墜すればいい」


「……どうやってよ!」


憤る牧村を無視して、多古忍は東の方角を指さした。

「あれだ。友軍機だ」


多古忍が示す方向を見上げると、高高度を旋回する航空機の機影が目に入った。

距離が離れているせいで細部までは見えないが、三角の主翼を持ったそれは、明らかにジェット戦闘機だ。


「……ちら……。応答せよ」


多古忍は、手にした無線機から流れてくる音声を、マイミに聞かせた。

「上空の戦闘機からだ。この声に、聞き覚えはないか?」


言われてマイミは、無線機から聞こえる割れた音声に耳を傾けた。


「……らはカンパニー……だ」


確かに聞き覚えがあった。

それはマイミにとって特別な意味をもつ人物と同じ声だった。


いかなる時も臆さず、危機に立ち向かうリーダー。

マイミの父、アラタの親友にして、かつて日本の官房長官だった男。


「……らはヒーローズカンパニー。甘粕…幸四郎だ」


戦闘機はキャノピーが吹っ飛んでいるせいで、通話には風切り音が紛れ込んでいた。

だが奇跡的に、甘粕の名前が聞き取れた。


「ボス!」

マイミは無線機に向かって叫んだ。


「……崎か?」


「ボス!」

他に言うべき言葉を思いつかず、マイミは無線機に向かって叫んでいた。


空を旋回していた戦闘機が、急激なターンを決めてこちらに転回した。

見覚えのある機体。


北太平洋沖で消息を絶った、ハリアーだった。




つづく

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