表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/77

血に染まるソマリアの大地(6) ~龍を守護するということ~

「何の真似だ、甘粕!」


粕井が引きつった顔で叫んだ。


野営地の中を、偵察用バイクで切り裂くように駆け抜けてくるのは、グレイだ。

バイクにまたがったまま、二丁のコルトガバメントを引き抜く。


「それはこちらのセリフだよ、粕井」


グレイの拳銃が火を噴いた。


天幕を取り囲んだ粕井の部下たちは、全員がアサルトライフルの弾すら止めるボディ・プレートを装着していたが、グレイの放った銃弾は正確に手や足を打ち抜く。


「くそ、殺せ!」


訓練された兵士は、手や足をもがれようとも動きを止めることはない。

絶命しない限りは戦い続ける。


粕井隊の面々は素早く自動小銃を構えると、グレイに照準を定めた。


「グレイさん!」


マイミは叫んだ。これだけの小銃に狙い撃たれては、ひとたまりもない。


「くそ!あいつ……」


その時、粕井が怒りの声を上げた。

グレイの意図に気付いたからだ。


野営地を一陣の風のように突っ切ったグレイの後を追うように、ヘンティフィアが飛び込んでくる。


グレイはクリーチャーを野営地の中に呼び込んだのだ。


泡を食った粕井達が、慌ててヘンティフィアに狙いを定める。


痩せた狼のようなヘンティフィアが、充血した目でこちらを睨みつけていた。


「霧崎!早くするのよ」


牧村がマイミの手を引っ張った。


見ると、甘粕たちが兵員輸送車両に乗り込んでいる。


「ここから逃げるの!早く」


牧村に力強く手を引かれたマイミは、頭から兵員輸送車両に突っ込んだ






※※





「……は……だった。アル・シャバーブは……で、……しかない。つまり、アフゴヤもだ」


甘粕の言葉にうんうんと頷いていたマイミは、話し終わりのタイミングで大声を張り上げた。


「全然聞こえません!」


頭上の銃座で、グレイがブローニング重機関銃を撃ちまくっていたからだ。


天井に穴が開いているせいで、熱い薬莢が次々と降ってくる。


「だから、粕井の狙いの話だよ」


グレイが銃撃を止めた。弾が切れたのだろう、給弾ベルトを交換している。


「我々はリーパーが上空から偵察した画像を解析した」


甘粕はノートパソコンの画面を見せた。それを見たマイミはあんぐりと口を開ける。

渓谷の周辺には、何も写っていなかったからだ。


「見たか?アル・シャバーブの姿なんかどこにも無いんだ」


「でも、粕井さんたちが威力偵察に出て、陣地を確認していたんじゃ……」


「それが粕井の陰謀だよ」


マイミはゆっくりと頷いた。


「そうか、アル・シャバーブはこの地域からとっくに撤退していた。だけどそのことが公になれば、自分たちがこの場所に存続する理由が無くなってしまう……」


「それを悟られないため、我々を欺いたんだ。君がアル・シャバーブが龍を守っていると言った時、それに気付いた。龍を守っていたのは粕井たちの方だったんだ」


「もしかして……アフゴヤも?」


「間違いない。あの残虐な見せしめも粕井の自作自演だ。アル・シャバーブの脅威があると周囲に思い込ませるためにな。奴らはアフリカで戦争を続けるためだけに、無辜の住民たちを殺しまくったんだ」


言葉を失い、そしてマイミは思い出した。


粕井は言った。恐ろしいのは銃弾ではなく、人間の心だと。


あの言葉は、一体何に向けて発されたのだろうか。


「どうするつもりですか、甘粕さん」


マイミは兵員輸送車両の後ろに目をやった。

後方から、粕井の車両部隊が追いかけてくる。


カンパニーに残された最強の戦力である、粕井の部隊。この暗黒大陸で最も頼りになるはずの味方が、一転して敵となった。


「このまま、渓谷まで向かう」


甘粕は言った。


「龍を倒す。それこそが唯一にして最大の、我々の課題だからな」


「前門の虎、後門の狼とはよく言ったもんですね。まぁ、こちらは前門に龍、後門には……」


マイミは顔をしかめ、後ろを見た。


「悪魔ですかね」




※※



マイミたちを乗せた兵員輸送車両はなだらかな丘を抜け、やがて渓谷を見下ろすエリアに到達した。


ガタガタと揺れる車内から渓谷を見やったマイミは、以前に粕井から見せられた、粒子の荒いモノクロ画像を思い出す。それを見た限り、龍はおそらく谷底に潜んでいるはずだ。

だが、しかし。


「谷まで降りていく手段が必要です。この辺りに車両を止めてもたもたしていれば、すぐに粕井さんたちに追い付かれてしまいます」


マイミの言葉に、甘粕はかぶりを振った。


「すでにルートは見つけてある。ぐるりと回って、谷底へと到達する道があるんだ。我々はまっすぐ龍の所へ赴く」


「それは……つまり……」


「そうだ、粕井たちを龍にぶつけるんだ」


それしか方法は無い。そのことはマイミにも理解ができた。粕井たちは完全武装の精鋭部隊であり、まともに戦えば勝ち目は無い。


「でも……そんなにうまくいきますかね」


「困難であることは分かっている。谷底の龍に関して、我々は何の情報も持っていない。まともに戦って勝ち目があるかどうかも怪しい状態で、粕井の部隊もまとめて片付けようとしているんだからな」


ガタン、と兵員輸送車輌が大きく揺れた。

なだらかに谷底へと向かう下り坂に差し掛かったのだ。


「くそっ、銃身が焼けてきやがった」


グレイが独り言を言った。

頭上での射撃音が途切れがちになる。


「銃身が焼けたら……どうなるんですか?」


マイミの問いに、甘粕は肩をすくめただけだった。政治家に火器のことは良くわからない。


「熱膨張を起こすんだ」


頭上からグレイの声が降ってきた。


「弾道を安定させるため、銃身の内側のライフリングという溝で弾丸を回転させるんだが、それが効かなくなって命中精度が落ちる。それに弾を押し出すエネルギーも膨らんだ隙間から漏れ出てしまう」


マイミはかぶりを振った。

「結局なんなのか、よく分かりません」


「弾が当たらなくなるってことさ」


ビシッという音がした。音の方に目をやると、車体の後部に弾痕が見える。

粕井たちが迫っている気配がした。


車内では甘粕が火器を探している。銃座に取り付けられた機関銃の他に、武器といえるのはグレイが持っている拳銃くらいだった。


マイミはガタガタと揺れる車内で、振り落とされないにとシートを掴む。


待ち受ける龍と戦うにも、追いすがる悪魔を制するにも、まるで備えが足りていなかった。




つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ