呪いを帯びた銃弾を探せ! 北米死闘篇(16) ~五芒星の思惑~
「ちょっと、あなたたち……」
マイミは銃を構えるホーリーとモーリーを見やった。
「銃を下ろしてちょうだい。ジャージーデビルは死んだのよ」
だが、双子たちは悲しげな眼をしたままかぶりを振った。
「あなたたちに、銃弾を渡すわけにはいかない」
「あなたたちに、銃弾を渡すわけにはいかない」
マイミはグレイと顔を見合わせた。
「もしかして、銃弾をアメリカ合衆国が独占するためにあたしたちを始末しようってわけ?」
双子は同時にうなずいた。
「これは、大統領命令なのよ」
「これは、大統領命令なのよ」
「それ、本当……?」
マイミは驚きを隠せなかった。日本政府が霧崎マイミ一人しかいない国家危機調査室というポンコツタスクフォースに調査を押し付けている間、アメリカはそこまで腹をくくって動いていたということか。
「霧崎さん、あなたも気付いたはず。ジャージーデビルは自然発生し、我々を襲ってきたわけじゃない」
ホーリーの言葉に、マイミは頷いた。
「それは気付いたわ。本来ニュージャージー州のクリプティッドであるジャージーデビルがなぜアリゾナに現れたのか。ひとつには、ヴィンセントがニュージャージー州の出身だったから」
「そうね。そしてもう一つ……」
「そうね。そしてもう一つ……」
マイミはもう一度頷く。
「ヒントはヤパパイ族の歴史にある」
「どういう意味だ、霧崎さん」
口を挟んできたグレイの方に向き直ると、マイミは予習してきた知識を披露した。
「ヤパパイ族はもともと、ニュージャージー州を拠点としたインディアンだったの。でも十九世紀に白人たちが施行した“インディアン移住法”によって土地を追われ、アリゾナに移り住むことになった」
「インディアン移住法?そんな無茶苦茶な法律が成立するのか?」
「成立したからこそ、その後のニュージャージー州にはインディアンが存在しないことになってるのよ。実際にはその土地に残った部族も、集落もあるのにね。ただ、連邦政府が存在を認めていない」
マイミは双子たちの方に向き直る。
「ジャージーデビルは十八世紀、白人たちの中の伝承として生まれたクリプティッド。ヤパパイ族にとっては、自分たちを放逐した白人たちの象徴。ニュージャージー州から追われて逃げてきヴィンセントを匿ったヤパパイ族は、無意識的にイメージを増幅させた……」
「おい霧崎さん、またあの自説か。人の思念がクリーチャーを生むとかいう」
だがマイミは答えなかった。双子が鋭い目でその話を聞いていたからだ。
「グレイさん、合衆国政府も私と同じことを考えているのではないかしら」
「霧崎さん、あなたの仮説は我々が検証を開始している」
口を開いたのはモーリーだった。
「我々はその現象を超共感性思念体(Super Pneumatronics Material)と名付けた」
それを聞いたグレイが眉を潜める。
「スーパー・ニューマトロニクス・マテリアル?」
マイミが相棒の方をチラリと見る。
「グレイさん、音読してくれてありがとう。でもどうせアメリカ人は略してSPMとか呼んでると思うけど」
「その通りよ」
「その通りよ」
「そして呪いの銃弾には、そのSPMを分解する力がある」
その場にいた全員が、伝説のガンスミスの方を振り返る。
暗い目をしたヴィンセントが、墜落したヘリの脇で話を聞いていた。
マイミは会話を続けながら、この話の帰着点を考えていた。双子たちの任務が何に主眼を置かれているのかは不明だが、銃を向けている以上こちらを殺傷する覚悟があるのは明白だった。
そしてその指示を下したのは、合衆国大統領。
ちょっとやそっと理屈をこねたぐらいでは、彼女たちの意思を覆すことができないだろう。
「ねぇ、ホーリー、モーリー」
マイミは賭けに出た。
「さっき、大統領命令と言ったわね。だとしたら、あたしにもチャンスをくれないかしら」
「どういう意味?」
「どういう意味?」
「あたしはこの件に関して、日本政府からろの特命を受けて活動しているいわば全権大使よ。そして日本はアメリカの同盟国なんだから、この件に関しても利害を調整する必要がある」
ホーリーが悲しげにかぶりを振った。
「取引がお望みのようだけど、残念ながらあなたが一介の国家公務員でしかなく、何の権限も持たないという事実をあたしたちはつかんでるわ」
「……あら、そう」
「あなたは東大卒の優秀な人材だけど、思っていることがすぐ口にでる性格が災いしてあちこちの組織をたらい回しにされた。そしてどこからも引き取り手がないまま、日本政府が新たに作った組織の、たった一人の職員に任命された。あなたに後ろ盾は無いし、友達もいない。FacebookもTwitterのアカウントも調べたけど、本当に一人もいなかったわ」
「……悪かったわね」
グレイが霧崎に身を寄せてささやいた。
「そう嘆くな霧崎さん。俺でよければ友達申請しておくよ」
「……殺すわよ」
グレイにそう吐き捨てると、マイミは毅然とした表情を双子たちに向けた。
「あたしは一介の公務員だけど、その上の同意が取り付けられればどうかしら」
その言葉に双子が眉をひそめた。
考えがあった。
ホーリーとモーリーが大統領からの命令で動いているのだとしたら、その考えを覆すにはやはり国家元首レベルの要請で、合衆国大統領に働きかけるしかない。
「国家危機調査室はあたし一人しかいない組織だけど、監査役として見ている審議官がひとりいて、その上には官房長官、日本のナンバーツーがいる。その名も甘粕幸四郎」
携帯電話を取り出す。
「今から官房長官に電話を入れるわ」
双子たちが口を閉ざしたまま、マイミの動静を伺っている
マイミは携帯電話を操作し、電話をかけ始めた。
グレイが再び身を寄せてくる。
「霧崎さん、官房長官に電話をするなんて……」
「静かにしてて」
マイミは引きつった声で言った。
「もちろん、芝居よ。でもそうでもしないとこの場は乗りきれないわ。調子を合わせて」
そしてマイミは、つながっていない電話に向かってしゃべりかけた。
「あ、官房長官お元気ですか。どーもどーも、霧崎は元気です。元気でやってますよ!えっ?アリゾナはどうだって?いやーさすがにアリゾナは砂漠ですな、暑くてかなわない。東京はどうですか、そうですかそちらもカンカン照りですか」
双子たちは鋭い目つきでマイミを睨んでいる。
「……はい、はい。そうですね。わたしもそうだと思います。おっしゃる通り、さすがは甘粕官房長官。慧眼ですねー。はい、こちらにペンタゴンの人間がいますから私の方から伝えておきます。はい、はい、はい。えっ?何ですって?アリゾナ土産は蛇革のブーツをご所望?いやーまいりましたねワシントン条約にひっかかりますよーあっはっはー。ではでは、また後日」
言うとマイミは電話を切った。
「官房長官が総理に働きかけて、今すぐ大統領に知らせると言ってくれたわ」
「嘘よ」
「嘘よ」
双子が即答した。
「へっ?」
「時差があるから、日本は今は真夜中よ。カンカン照りではないし、こんな時間に電話してアリゾナ土産の話ができるわけがない。それにあなた、英語で通話してたわよ」
「しまった」
マイミは口元を覆った。
「そんな手しか使えないようじゃ、実際問題あなたたちに切り札はなさそうね」
そう言うと、ホーリーは銃口を向ける。
「ちょっ、ちょっと待ってよ」
マイミは新たな言い訳について考える。
何かを言わなければ。
頭上から聞こえる飛行機のジェット音で、考えが乱れる。
くそ、ようやくクリーチャーを倒したのに、まさか人間の手にかかって倒れるわけにはいかない。
「どうしたの、霧崎さん。言いたいことがなければ、ここで終わりにしましょう」
その時、頭上のジェット音がどんどん近づいてくることに気付いた。
大きな影が、一同を覆い隠す。
マイミは空を見上げた。アリゾナの上空に突如として飛来したジェット機。
見れば、双子たちがあんぐりと空を見上げている。
その口が、ぽかんと開き、ややあって空に浮かんだものの名を呼んだ。
「エ……エアフォース・ワン!」
「エ……エアフォース・ワン!」
つづく




