呪いを帯びた銃弾を探せ! 北米死闘篇(14) ~追いすがる悪魔~
ヘリが地面に激突し、マイミは赤茶けた土埃の中に頭から突っ込んだ。
墜落の衝撃で、ヘリの中からはマイミだけでなく、グレイもヴィンセントもホーリーもモーリーも飛び出してくる。
そしてジャージーデビルの首も。
切断された胴体の方が、首の行方を捜してウロウロとしていた。両者が合体すれば、またこちらを襲ってくるだろう。
「くそ、万事休すだな」
グレイの言葉に、マイミは静かに頷く。
「こっちのクリーチャーは何てしぶといの。それにとても残虐。あたしたちの手に負える相手じゃないのかも」
背後から、別の人物の声がした。
「あきらめるんじゃないぞ、お嬢ちゃん」
ヴィンセントだった。
「あんたらにはこれが見えるんだろ?」
その手に握られていたのは、青白く輝く銃弾。
「あのサイズなら、これで倒せるはずだ。やってみろ」
銃弾を、投げて寄越す。
運動神経がゼロのマイミは、無様にキャッチし損ねて、地面に取り落した。
「俺たちは幸運だな、霧崎さん」
銃弾を拾い上げたのはグレイだった。
「この弾は38スペシャルだ。広く普及しているタイプの拳銃弾であり、この弾を装填できる銃が俺たちにはある」
マイミは、トゥーソンのレストランでグレイが入手していた紙袋を思い出していた。あれはやはり、銃だったのだ。
「弾丸は残念ながらそれだけでは無力だ。それを装填できる銃とセットになってはじめて威力を発揮する」
言うが早いか、グレイは自分たちが乗って来た車の方角に向かって駆け出した。
マスタングは屋敷から離れた場所に駐車した。距離にして、200メートル。
果たしてジャージーデビルに追いつかれずに、到達することができるだろうか。
そう考えているマイミの耳の後ろで、カタカタという音が聞こえた。
それが何かは振り返るまでもない。ジャージーデビルの首と胴が再び合体したということだ。
マイミはグレイと同じ方角に全力疾走を始めた。
小学生の頃から、足は絶望的に遅かった。クラスで一番足の速かったスタージョンに、どうやれば速く走れるのか聞いたところ、赤いほっぺでいつも鼻水を垂らしている男の子は、ハツラツとした笑顔で答えた。
「持ち上げた右足が着地すると同時に、左足を持ち上げる。それの動きをできるだけ早くやる。すっごく、早くやるんだ」
それを忠実に再現したところ、高速で腿上げ運動をすることができたが、早く走ることはできなかった。
それ以来マイミは、アホに何かを説明させるのは時間の無駄だと心に刻んでいる。
いきなり耳元で、ガチンという音が響いた。
音に驚いたマイミは、つんのめって前のめりに倒れ込む。
「危ない!」
ホーリーの叫び声が聞こえた。マイミは身体を捻って後ろを見る。ジャージーデビルが虚ろな目でこちらを見下ろしていた。
万事休す。
マイミは運動神経の欠片もない自分の肉体を恨んだ。グレイはすでにマスタングの所に到達しているというのに。
クリーチャーはカタカタと動きながらゆっくりと狙いを定めているようだった。
マイミは自分が助かる可能性について考えた。見ると、グレイはまだ車内を探っている。拳銃を見つけ、弾丸を装填した後で、射程距離に近づくため、こちらへ走って戻るのに数分はかかるだろう。
墜落したヘリのそばにいるホーリーが、カービン銃を持ち上げるのが見えた。だが射線上にジャージーデビルとマイミが重なるため、撃つのを躊躇っている。
他人を頼ることはできない。
この場で何かができるとすれば、自分だけだ。
だが、マイミにできることは相手の心を読み、鋭い舌鋒で相手をズタズタに切り刻むことぐらいだ。ジャージーデビルの歯は人を齧り取るためにあるわけで、論戦に応じてくれるわけではない。
それでも……。
「やってみるか」
そもそもクリーチャーと対話することなど、考えてみたことが無かった。
「ジャージーデビル」
マイミは呼びかけた。だが相手が反応した様子はない。カタカタと歯を鳴らしている。
昨夜のうちに調べた、ジャージーデビルに関する様々な情報を思い出す。マイミの灰色の頭脳が、蓄えたデータを分析して、相手の矛盾点を突こうとサーチを始める。
矛盾点?
ひとつ、思い当たることがあった。
「あなたは、ニュージャージー州のクリプティッドのはず」
その言葉に、わずかだがジャージーデビルが反応した気がした。
「一部、ペンシルベニアやカリフォルニアで目撃されたという話もあるけど、基本的にはニュージャージー州が本拠地のはず。なぜ、アリゾナに現れたの?」
その言葉にジャージーデビルが答えることは無かったが、クリーチャーはわずかに後じさった。
「そうか……」
マイミは首を巡らせて、墜落したヘリのそばにいるガンスミスの姿を見た。
「彼を追って来たのね。ヴィンセント・ファーニアの出身地はニュージャージー州……」
その瞬間、ジャージーデビルの虚ろだった目がはっきりと意思を持ってマイミを見た。カタカタと歯を鳴らすだけだった口元が、柔らかく動いて人語を発した。
「気付いたのか、霧崎マイミ」
マイミは息を呑んだ。
だが次の瞬間、血に染まったジャージーデビルの歯が、マイミの頸動脈を食いちぎろうと襲って来た。
つづく




