呪いを帯びた銃弾を探せ! 北米死闘篇(13) ~ジャージーデビル無双~
阿鼻叫喚、地獄絵図。
四字熟語がマイミの脳裏に舞った。
ジャージーデビルは見るからに弱そうな外見をしていて、人間と大して変わらないサイズだったため、全員が油断していた。
指揮官の顔面を齧りとったジャージーデビルは、次々に人間を襲い始めた。
歩兵部隊がカービン銃で撃ちまくる。銃弾はジャージーデビルに命中し、翼に穴を穿ち、四肢を引きちぎったが、数秒後には何事もなかったかのように再生してしまう。
そして標的に勢いよく近づくと、目にもとまらぬ速さで頸動脈や咽喉仏など、急所となる部分を齧り取るのだ。
飛び散る鮮血が、室内を朱に染めていく。
「何よこれ、マジなの……」
マイミは絶望的な思いで戦闘を見守った。
傍らにいたグレイもまた、驚愕の表情を浮かべていた。日本で戦ったクリーチャーたちと違い、見た目や大きさが弱々しい割に、ひどく危険な相手だった。
マイミの手首を、誰かがつかむ。
「霧崎マイミ、私たちと一緒に撤退しなさい」
ホーリーだった。
「この程度の戦力では話にならないわ。すぐに逃げないと」
「えっ、でも……」
「二週間前、カリフォルニアで州軍がヨセミテ公園付近に現れたクリプティッドと交戦したの。ナイト・クローラーと呼ばれる二足歩行の人型で、さして危険には見えなかった。でも制圧のために投入されたライフル小隊は全滅したわ。最終的に空軍に援助を要請し、F-15ストライクイーグルが出動して、マーベリック空対地ミサイルで周辺の数エーカーを焼き払う必要があった」
モーリーが姉の言葉に頷いた。
「数分でこちらは壊滅するでしょうね」
ホーリーが冷徹な声で言葉をつなぐ。
「あなたたちが日本で対峙したクリプティッドと、合衆国に現れたそれとではケタが違う」
「さすがは肉を食ってる国民性というわけか」
グレイはそう言うと、マイミを促した。
「逃げよう、ヴィンセントを連れて」
※※
屋敷を出た一行は、外で待機するブラックホーク兵員輸送ヘリへと急いだ。パイロットはエンジンを止めておらず、いつでも離陸できるよう、接地した状態で指示を待っていた。
「幾らクリプティッドでも、高速で飛行するヘリに追いつくことはできない」
ホーリーはそう言うと、マイミ、グレイ、ヴィンセントに搭乗するよう促した。
「君らが連れてきた突入部隊はどうするんだ」
グレイの言葉を双子たちは無視した。その姿を見たマイミは、やはりこの二人は見た目通りの年齢ではないのだろうと思った。
くぐってきた修羅の数が、桁違いだという印象があったからだ。
脚を引きずるヴィンセントを手伝い、一緒にヘリのステップを昇ったマイミは振り返ってクアーナの屋敷を見た。銃撃音が止み、戦闘が終結したことが見て取れた。
「ジャージーデビルは、どこに行ったの……?」
マイミの言葉に、グレイが唸り声を上げる。
「……あそこだよ。くそ、しつこい野郎だ」
指差すその先に、カクカクとした動きで屋敷を出てくるジャージーデビルの姿があった。
「武器は無いのか?」
グレイが言うのと、ホーリーがヘリに積んであったカービン銃を発射したのは同時だった。
バースト射撃で小刻みに打ちながら、弾道を確認している。
ライフル弾はジャージーデビルに直撃したが、クリーチャーは動きを止めない。
グレイが舌打ちをした。
「くそ、この距離じゃだめだ。銃身の短いカービン銃は弾の初速が遅いから、もっと引きつけて撃たないと十分な殺傷能力を与えられないぞ」
「でも、あまり近づけてしまうと喉笛を食いちぎられるわ」
ホーリーは冷静に言い返した。
ヘリのローターが加速し、揚力が発生する。
ジャージーデビルは五十メートルほどの距離まで接近していた。
「このままじゃ追いつかれる」
グレイが短く叫んだ。ジャージーデビルはカクカクとした動き歩いているが、この程度の距離であれば一瞬で詰め寄れるスピードがあることを、先ほど嫌と言うほど見せられたのだ。
「中尉!」
モーリーがヘリのパイロットに向かって叫ぶ。続いて、コクピットへ駆け寄って何やら指示を下し始めた。だがローターの音がうるさいため、何を言ってるのかはマイミには聞こえない。
ヘリはふわりと浮いた。
ジャージーデビルが、追いすがってくる。ホーリーはさらに何発か銃弾を叩きこんだが、クリーチャーは止まらなかった。ひづめの生えた前足を伸ばして、ヘリの飛び移ろうとする。
次の瞬間、ヘリが傾いた。
マイミは転げ落ちそうになり、近くにあったシートにしがみつく。
パイロットが、ヘリをわざと傾けたのだ。
その目的は、ジャージーデビルを殺すことにあった。
高速で回転するヘリのブレードが、機体の傾きとともにジャージーデビルへと襲い掛かる。
馬の顔の虚ろな目に、巨大な刃が映り込んだ次の瞬間─。
ジャージーデビルの首がすっぱりと切断され、宙を舞った。
「ぎゃああ!」
マイミは悲鳴を上げる。目の前で切断されたジャージーデビルの首がクルクルと舞って地面に落ちた後、ポーンと跳ねてヘリの中に飛び込んで来たからだ。
馬の虚ろな目がぎょろぎょろと動く。
「こ、こいつ、死んでない!」
ホーリーが払い落とそうとカービン銃を振り上げたが遅かった。ジャージーデビルの首はカタカタと痙攣すると、再びポンと跳ねてコクピットへと飛び込む。
このヘリがどうやって飛んでいるのか、その原理をしっかりと理解しているようだった。
「まずい!」
グレイが叫ぶのと同時に、コクピットから盛大に血が噴き出してきた。
パイロットが噛み殺されたのだ。
ヘリはコントロールを失い、意図的にではなく必然的に傾いた。
「落ちるぞ」
グレイに言われるまでもなかった。
赤茶けた大地が、すぐそこまで迫っていた。
つづく




