呪いを帯びた銃弾を探せ! 北米死闘篇(12) ~ヴィンセントの弾丸~
その人物は、左脚を引きずりながら現れた。
長い黒髪を肩まで垂らし、油染みの浮いたジーンズと、わき腹の辺りが破れたTシャツを着ている。深い皺の刻まれた、日に焼けた肌。落ちくぼんだ目に、鷲鼻が印象的な顔だった。
だが、六十歳や七十歳には見えない。せいぜい、五十歳過ぎのように見える。
「あなたが……」
「ヴィンセント・ファーニアだ」
言うと、空いていた椅子に腰かける。
「銃を下ろせ、ヤパパイの兄弟たちに罪は無い。俺の母方の祖母がヤパパイの出身で、その縁でかくまってもらっただけだ」
ヴィンセントの顔は疲れ切っていた。
「ペンタゴンのご一行が、俺に何をさせたいのかはわかっている。だが、それは俺には無理な話なんだ」
「あなた一人で結論付ける話ではありません」
「あなた一人で結論付ける話ではありません」
「ちょっ、ちょっと」
マイミは会話を遮った。
「話が見えないわ。読者も混乱しちゃうから、整理して説明してもらっていいですか?」
「弾だよ」
言うと、ヴィンセントはポケットの中をごそごそと探った。
「弾だ。俺に弾を作らせたいんだ」
「その通り」
「その通り」
ホーリーが冷徹な笑みを浮かべた。
「そのために、霧崎さん。チンピラを用意して駐車場であなたたちを襲撃させたのよ」
ヴィンセントは双子たちと目を合わせずに言った。
「こいつらはな、俺の作る弾なら、あれを倒せると考えてる」
マイミは首を傾げた。
“あれ”とは何だ?
ヴィンセントは震える右の手で一発の弾丸を摘むと、テーブルの上に置いた。
マイミはその様子に微かな違和感を感じたが、ガンスミスの話は続いていた。
「これは単なる拳銃弾じゃない」
じっくりと目を凝らすと、その弾丸が、ほんのり青く輝いているように見えた。
「……そうですね。何か、不思議な輝きを帯びている」
「塗料でも塗ってあるのか?」
マイミとグレイがそう言うと、ヴィンセントは目を見張った。
「驚いたな、君たちにはこれが見えるのか」
その言葉に、マイミとグレイが驚く番だった。
互いに顔を見合わせる。
「俺が作る特殊な製法のこの弾丸は、クリプティッドを殺せるんだ。この技術を独占しようと、あらゆる国家、機関が蠢いている」
その言葉を聞いた双子は、再びうっすらと笑った。
「世界に蔓延するクリプティッドは、戦争とテロに続く新たな脅威よ。コントロールする術を、誰もが欲しがってる」
「馬鹿な……」
ヴィンセントは苦々しい表情を浮かべた。
「それが人間の愚かさだ。あらゆる災厄を、いつでも自分たちの支配下に置けると勘違いしている」
マイミは眉をひそめた。
「ファーニアさん、あなたは何かをご存じなんですか。世界中にクリーチャーが現れた理由について」
「俺はね、お嬢ちゃん」
しゃがれた声でヴィンセントは言った。
「地獄を見てきたんだ。その結果、人間じゃなくなった」
文字通り、死神が喋っているような声だった。
「だが、あんたたちも……」
ヴィンセントが重要な何かを口にしようとした瞬間、それは起きた。
窓の外にひょいと馬が顔を出したのだ。
全員の目がそちらに注がれた。奇妙な光景だった。その馬の目は虚ろで、見る者をやたらと不安にさせる不思議な雰囲気を備えていた。
馬はカクカクとした動きで首を振ると、ひょいと窓枠にひづめをかけた。そして破られた窓から、部屋の中へと入ってくる。
全員、あっけにとられていた。
はじめ、馬だと思われたその生き物が、人の背丈ほどの別の生物だと分かった。ひづめの付いた細長い四肢を持ち、背中にはコウモリのような翼が生えている。
その生き物はストップモーションアニメのようなカクカクとした動きで窓枠を越え、部屋の中に侵入すると、周囲を見渡して歯をカタカタと鳴らした。
「ジ、ジャージーデビル……」
マイミが声を漏らす。
そのあまりに奇態な姿に、部屋を制圧していた歩兵部隊もどう対処していいか分からないようだった。呆気にとられて突っ立っている指揮官のもとへ、ジャージーデビルがカクカクとした動きで近づいていく。
間の抜けた馬面をヒクつかせ、やがて歯をカチカチと噛み鳴らした。
その動きがあまりに滑稽だったために、油断が生じた。
ジャージーデビルは、いきなり指揮官の顔面に食らいついた。
ガチン。
と、音がして、鮮血が舞った。その鋭い歯によって、指揮官が倒された。
つづく




