呪いを帯びた銃弾を探せ! 北米死闘篇(11) ~双子の正体~
「じっちゃんの名にかけて!」
マイミはその場の視線が自分に集中したことに陶酔しながら、そう言い放った。
だが、グレイは怪訝な表情で首を傾げただけだった。
「霧崎さん、どういう意味だ。ホーリーとモーリーが名乗った通りの素性じゃないってのは」
「彼女たちはヴィンセント・ファーニアの娘ではありません」
マイミは二人の美少女を見やった。
「記録によれば、ヴィンセント・ファーニアは六十年代にベトナムに従軍している。どう見積もっても六十歳は越えていて、下手をすれば七十歳になっているはず。なのに、十五、六歳の娘がいると思いますか?」
「それは……そうだな。絶対にありえないとは言えないが」
「そして、言葉です」
「言葉?」
「彼女たちは初登場の時から一貫して、日本語で喋っています」
「言われてみれば……そうだな」
「何だったら初登場の回を見直してもらいたいんですが、彼女たちが英語で喋っているという記述はありません。それ以外の登場人物のセリフを英語で書くため、作者がいちいち辞書を引きエミネムの曲を聴いてスラングを調べているというのに、二人はすらすらとあたしたちと会話している。それは彼女たちが日本語で話していたからです。アメリカ人で、こんな流暢に日本語が喋れる人間はそう多くはありません」
「となると……彼らの正体は」
「おそらく、情報機関の人間です」
マイミは双子の表情を観察した。謎解きが行われているにも関わらず、二人は無表情のままだ。ホーリーはアイスティーを啜り、モーリーは相変わらずスマホをいじくっていた。
部屋の中は静かで、マイミの声が響くだけだった。部屋の外でかすかに車の音と、空気を切る風切音が聞こえるのみだ。
「あっ、そう言えば……」
マイミは思い出した。
「私もグレイさんも英語は喋れるので、今後、明らかに日本語が喋れない人とすらすら喋っていたら、特に断りがなくても英語で会話しているものと思ってください。ちなみに今も英語で会話しています」
「霧崎さん、いきなり何を言ってるんだ」
「業務連絡です」
マイミは再び双子たちに向き直って、話を続けた。
「さて最後に、南極に現れたクリーチャーについて、彼女は聞きました。“南極に現れたクリーチャーを、誰が、どうやって退治したの?”と。私はクリーチャーが現れたと言っただけで、誰かが退治したとは伝えていませんでした。つまり、彼女は最初から知っていたのです」
「南極のクリーチャーと、霧崎アラタのことをか」
「そうです。私の父と、私のことを」
「バレたなら仕方ないわね」
「バレたなら仕方ないわね」
双子はユニゾンでそう言った。低く、冷たく、大人びた声だった。
十五歳の少女の声とは思えない。
そのセリフに、クアーナが目を細めた。それが合図だった。部屋にいた数名のインディアンの青年が、腰のホルスターにおさめた拳銃を引き抜く。
「狙いはヴィンセントか」
クアーナの言葉に、双子たちは微笑んだ。
「そうよ」
「そうよ」
その時マイミは、部屋の外から聞こえてきた風切音がどんどん近づいているのに気付いた。
「正体を明かしてもらおう。……ATFか」
「違うわ」
「違うわ」
「州警察やFBIに、ガンスミスを追い掛け回す理由があるとは思えない。いったい、どこの組織の差し金なんだ」
どんどんと近づいてくる風切音。マイミはちらりとグレイを見た。
グレイが小さくうなずく。
「あれは、シコルスキーの音だ」
「……シルコ・スキー?汁粉がどうしたですって?」
「ちがう、兵員輸送ヘリの愛称だよ。別名ブラックホーク。中に歩兵を満載して飛んでくる」
「それって、つまり……」
「ああ……」
二人はクアーナがゆったりと座る椅子の後ろの窓に着目した。
飛び込んでくるとしたら、あそこだからだ。
間髪入れず、ガラスが砕け散る音が鳴り響いた。
「くそ、伏せろ霧崎さん。閃光手榴弾が来るぞ」
グレイは床に伏せて目と耳を覆った。マイミは咄嗟に同じような姿勢を取る。
強烈な爆音。
さらに、複数のガラスの破砕音が響き渡る。
地球がグラグラと揺れているような感覚があった。
ややあって聴力が回復し、靴が床を蹴る音が聞こえた。
目的の場所へ最短時間で到達しようとする、力強い足音だ。
マイミがそっと目を開けると、デザート・カモフラージュの戦闘服に身を包んだ完全武装の歩兵が、次々と窓から飛び込んでくるところだった。
どこからか、太い男の声が聞こえる。
「行け!行け!行け!」
その声に励まされるように、歩兵たちは室内を駆け、次々と銃を持った男たちを制圧していく。
その動きは効率が良く、無駄が無い。
まるで最初から、どこに武装した人員がいるか把握していたかのようだ。
やがて部屋の中の形勢は一変した。インディアンたちは銃を奪われて跪かされ、クアーナの手首には樹脂でできた拘束具がはめられる。
部屋を制圧した部隊の指揮官と思しき人物が、自分たちの突入を誘導した人物に目配せした。
ホーリーとモーリーだ。
今や悠然と部屋の中を支配しているのは、この双子だった。
「モーリー、さっきからスマホをいじってると思ったら……」
「そうよ、突入のための情報を送ってたの」
「こんな軍事作戦を展開できるなんて、あなたたちは……CIAかしら」
「あら、日本の情報機関の一員の割には認識が甘いのね。今のCIAに、国内でこんな派手な活動をできる余力なんてないわ」
「だとすると、ペンタゴン……NSA(National Security Agency=国家安全保障局)ね」
双子は薄く笑った。
否定とも肯定ともつかない態度だった。
「何が目的なの」
マイミのその問いに答えたのは、双子のどちらかではなかった。
「私の作る銃弾が狙いなのだよ」
そう言って、部屋の奥から現れたのは、ヴィンセント・ファーニア。
地上に現れた悪魔だった。
つづく




