呪いを帯びた銃弾を探せ! 北米死闘篇(10) ~ヤパパイ居留区~
ヤパパイ居留区を訪れたマイミたちを出迎えたのは、アルマーニのTシャツとディーゼルのジーンズを履いたインディアンの若者だった。
もちろん、半裸で頭に羽根飾りを付けた酋長が出てくるとは思っていなかったが、よく磨かれたブーツの汚れを気にしている伊達男を見ていると、ここがインディアンの居留区だとは思えない。
男の案内に付き従って歩きながら、マイミたちは居留区の様子をうかがっていた。
その土地は赤茶けた荒野で、マルボロの広告に出てくるような風景だったが、建てられた数十棟の建物はどれも高い塀に囲まれた立派な建物で、周囲にはビーチリゾートを思わせる木々が植樹されている。
「何か……印象と違いますね」
マイミは呟いた。グレイは黙って頷く。
その言葉を引き取って、ホーリーが口を開いた。
モーリーはつまらなさそうにスマホをいじくっている。
「インディアン居留区とは、もともと北米大陸の原住民であった彼らの土地を白人が奪ったことに対しての措置。アメリカ合衆国内にインディアンたちが自治権を持った土地を認めるということ。でもその施策は様々な弊害を生んでいる。そもそも産業がない居留区は貧困にあえぎ、現金収入を得るために自分たちが自治権を得ていることを利用した」
「それが、あのカジノってわけね……」
マイミは集落の真ん中に立つ、ネオンでギラギラに輝く建物を見た。ゴールデン・ナゲットと大書きされた野卑な看板が回転している。
「そう。合衆国内では多くの州でカジノの営業が禁止されているけど、居留区の中であればその埒外となる。それを利用して、各地にインディアン・カジノと呼ばれる賭博場が設立されているのだけど、ここもその一種よ」
「えらく儲かっているみたいだな」
グレイは眉をひそめた。
「カジノの成功でヤパパイ族はこの付近における最大勢力となったわ。東部にあるイロコイ連邦に匹敵すると言われてる」
「どんなツテがあったのか知らんが、ヴィンセント・ファーニアにとって身を寄せるには格好の場所というわけだ」
マイミは頷いた。
「合衆国から独立した自治権を持つ土地で、自立するための大きな財力を持っているため、外部からの干渉を排除することができるってことね」
一行は男の案内に従って、ひときわ大きな屋敷へと向かった。
それこそがヤパパイの部族長である、クアーナ・ムーンウォーターレイクの邸宅だった。
豊かな黒髪を後ろで束ねたクアーナは、四十歳くらいに見えた。
歯切れの良い英語で、教養のあるアメリカ人らしい喋り方をする人物だった。
マイミが事前に日本インディアン文化交流会の理事を通じてアポを取っていた甲斐があって、クアーナは非常に友好的に接してくれた。
マイミの外交手腕に、グレイは驚いて小声で尋ねた。
「どんな手を使ったんだ、霧崎さん」
「外務省の同期に、貸しがあるんです。日本インディアン文化交流会の理事を紹介してもらいました」
「非合法な手口を使ったのか?」
「まさか。彼らの抱えていたちょっとした英訳を手伝っただけですよ。高学歴でも、語学が苦手な人間って以外に多いんです」
広い応接間に通された一行は、氷がたっぷりと入った香り高いアイスティーを飲みながら、ヴィセント・ファーニアの行方について尋ねた。
部族長は言った。
残念ながら、君たちに協力したいが、それは難しいと。
君たちは嘘をついている。名乗ったとおりの素性、見た目通りの正体ではないはずだと。
「そうか、やっぱりそうなのね」
その言葉に、マイミは頷いた。
「どういうことだ、霧崎さん」
「この中に、嘘をついている奴がいるんです」
マイミは腕を組んで、じっくりと考えているポーズを取り、そしてやおら、人差し指を立てて犯人を指さした。
「ホーリー、モーリー、犯人はあなたたちよ」
ばばーん!
つづく




