呪いを帯びた銃弾を探せ! 北米死闘篇(9) ~クリーチャーの出現~
「本当ですって!クリーチャーを見たんです」
マイミは顔を真っ赤にして主張した。
「まぁ、落ち着けよ霧崎さん。チョコレートサンデーでも食べるといい」
言うとグレイは高さ四十センチはあろうかという巨大なチョコサンデーの器を押して寄越した。
「たぶん二千キロカロリーはあるとおもうんだ、これ」
「落ち着いてデザート食ってる場合じゃないんですよ」
二人のやり取りを、ホーリーとモーリーがサンデーをパクつきながら眺めていた。双子たちの前に、それぞれチョコサンデーが置かれており、二人はまったく同じペースで食べ進めていた。
「ちょっとテパチェが効き過ぎたみたいだな。まだ酔ってるんだろう」
「何でアメリカ編になった途端、クリーチャーの存在を信じないキャラになってるんですか。日本だとあんなに嬉々として妖怪の解説をしてたくせに」
「まあ、アメリカの妖怪・怪異に詳しくないのは認めるが、それにしてもだ……」
グレイは長いスプーンを使ってサンデーを一口すくった。
「馬みたいな顔、四肢にはひづめ、背中にコウモリの翼、細長い尾っぽを生やした直立歩行のクリーチャーと言われてもだなww」
「セリフ内に草を生やさないでください!本当に見たんです」
「小学生が考えた新しいポケモンでも、もう少しマシな恰好をしてると思うが」
その時、モーリーが口を開いた。
「それって、ジャージー・デビルじゃないかしら」
「何だって?スターウォーズエピソードワンに出てきて、黒人を揶揄してると問題になったあの宇宙人のことか?」
「それはジャージャー・ビンクスですよグレイさん!どうしたんですか、そんなボケができる人じゃなかったはずですよ」
ホーリーが、モーリーの方をちらりと見た。
「ジャージー・デビルは、ニュージャージー州のクリプティッドじゃなかったかしら」
「そうよ。でもね……」
モーリーが何か言いたげな表情で姉を見ると、双子の片割れは無言のままその真意をくみ取ったようだった。そっと頷く。
「ねぇ、姉妹でテレパシーをかわすのはいいんだけど、ジャージー・デビルについて教えてもらえないかしら」
マイミの問いに、双子は頷いた。
口を開いたのはモーリーだ。
「ジャージー・デビルは十八世紀頃から目撃されている伝説の悪魔。とある家族の十三番目に生まれた子供が悪魔だったとか、森で拾った奇妙な卵から孵化したとか、伝説の形状は色々あるけど、目撃情報は後を絶たない。見た目は霧崎さんが見たクリーチャーに近くて、子供をさらったり家畜を襲ったりすると言われているわ」
「ふむ、子供や家畜を襲うか……」
言いながら、グレイはサンデーを口に運んだ。
「何を考えてるんですか、グレイさん」
「相手の戦闘力だ」
その時マイミは、店の奥から映画の“チャイルドプレイ”に出てくるチャッキーそっくりの、まん丸い目をした男がこちらに近づいてくるのに気付いた。
男はコックコートを着ていて、この店の料理人だということが分かったが、マイミたちのテーブルに来ると、グレイに紙袋を手渡した。
テイクアウトの品だよ。
男はそう言った。
グレイは紙袋の中身を改めると、満足げに笑って話を続けた。
「霧崎さんが見たそいつは、人の背丈くらいだったんだろ?そして伝承の中でも家畜や子供を襲うという程度なら、それほどの脅威じゃないと考えてる」
「戦うんですか?」
「無理に事を構える必要はないだろう、弾の無駄だからな。もし襲われたら、撃退すればいい」
そう言うと、グレイはテーブルにチップを置いて立ち上がる。
「毎度、チップをどれだけ置けばいいか迷うな。最初から計算して書いといてくれればいいのに」
「あ、グレイさん。この店はサービス料が最初から含まれてるから、チップいらないみたいですよ」
「なるほど」
一行は満たされたお腹を抱えて、ニコニコと店を出た。
マスタングに乗り込もうとドアに手をかけた瞬間、マイミははっと気づいた。
「グレイさん、さっきおかしな事を口走りましたね?」
「どうした、霧崎さん」
「無理に事を構える必要はない、弾の無駄だと」
「その通り」
「弾って、どういうことです」
マイミの視点は、グレイが抱える紙袋に注がれた。
グレイもまた、同じものを見る。そして……。
ニヤリと笑った
つづく




