呪いを帯びた銃弾を探せ! 北米死闘篇(7) ~銃弾とマイミの過去~
「凄く……大きいですね」
マスタングの助手席から見上げながら、マイミは感嘆の声を漏らした。
ミルフィーユのように地層が積み重なった、むき出しの岩石層。木や草の一本も生えない無機質な赤い岸壁。消化器官のひだを思わせる流線型のそれが、まっすぐ続く道路に沿って延々と続いている。
「巨石だ」
ハンドルを握ったグレイは、左右に聳え立つ岸壁には目もくれずに言った。
「アメリカの国土の大半は森林と荒野だ。都会なのは沿岸部だで、内陸の住民たちはこうした桁外れにスケールの大きい田舎で暮らしている」
マスタングはロサンゼルスの東にあるアリゾナを走っていた。大都会だったロサンゼルスを外れた瞬間、瞬く間に文化は姿を消し、どこまでも続く道路と岩と空だけが広がる風景になった。
信号や交差点、コンビニやスーパーなど、文化の存在を感じさせるものは何も見当たらない。
わずかにアスファルトで固められた道路と、標識があるだけだ。
「アメリカ国民の六十パーセントはニューヨークの位置を知らないって話がありましたけど、こんなド田舎で暮らしてたら、そうなりますよね」
「そうだな、隣人と出会うより、岩トカゲと遭遇する確率の方が高そうだからな」
マイミは延々と続く荒野に目をやった。最後に人と会ったのは三時間前に給油したガソリンスタンド。
「そう言えば、さっきのガソリンスタンドにでっかく“LAST GAS”って看板があったけど、ここから先にはガソリンスタンドは無いぞって意味だったんですね」
マイミがしみじみと言う。グレイが頷いた。
「そうだな。荒野のスケールが大きすぎて、感覚がおかしくなりそうだな。さっきから時速百マイルで飛ばしてるんだが、まるで進んでる気がしない」
「百マイルって……百キロくらいですか?」
「一マイルは一・六キロだ」
マイミは目を白黒させた。
「それでも目的地に着くにはまだ五時間以上かかる」
「ねぇ」
「ねぇ」
後部座席からユニゾン・ボイスが聞こえた。ホーリー&モーリーだ。
「どこへ向かっているの?」
「どこへ向かっているの?」
「ネイティブアメリカンの居留区よ」
マイミはステーキハウスで自分たちを襲撃してきた男たちの地図を取り出した。
「ヴィンセントの潜伏先は複数候補がある。それらを巡る順番については私なりに考えがあったんだけど、この地図によればアリゾナのトゥーソン近くにあるヤパパイ居留地が最重要とされているわ」
「つまり、あのファッキンブラザーどもが最初に目指すのがそのヤパパイ居留地だというわけか」
グレイが言った。
「そうよ。いきなり銃をぶっ放すような、あんな危険な奴らに先を越されるとマズい。だからこの場所を
目指すの」
「だけど、居留区ってのはネイティブアメリカンの土地だろ?ヴィンセントは白人じゃなかったのか」
グレイはバックミラーでちらりとホーリーとモーリーを見た。まるで白磁器で作られた人形のような、金髪碧眼の美少女たち。
「その部族にツテがあって匿ってもらってるんだと思うの。何にせよ、この男には謎が多いわ」
「ねぇ、教えて欲しいの」
背後から再び声がした。
「どうしたの?ホーリー」
「いいえ、あたしはモーリーよ」
「もう、どっちが喋るか固定してよ。めんどくせーな。(あらそう、ごめんなさい)」
「……ごめんなさい」
「あばばば」
また心の声が漏れてしまったマイミは、自分の口を押さえた。
「どうした、何が聞きたいモーリー」
グレイが話を引き取る。
「ヴィンセントにいったい何ができると考えているの?呪いを帯びた銃弾が、本当に存在するとは思ってないわよね」
その問いに、グレイは肩をすくめただけだった。だがマイミは居住まいを正すと、口を開いた。
「あたしは、呪いの銃弾は存在すると考えている」
ホーリーとモーリーが、身構えたのが分かった。
「それは、なぜ?」
「それは、なぜ?」
「かつてこれと同じケースがあったからよ」
双子も、グレイも目を見張った。
「二十年前、南極大陸に巨大なクリーチャーが現れ、観測基地を襲ったことがあるの」
「そんな話は初耳だぞ。……もっとも、俺には2011年以前の記憶はないわけだが」
「もちろん、この件は公式な記録には残されていない。アポロ十一号が実は月に行ってなかったという事実と同じレベルで、隠匿されているから」
「なんだと?」
グレイはアポロ十一号の話の方が気になったようだが、双子の一人が会話を本筋に戻した。
「それで、霧崎さん。その南極に現れたクリーチャーを、誰が、どうやって退治したの?」
マイミはちらりと美少女を見た。金色のピアスをしたその娘はホーリーのはずだった。
だが、こいつは本当にホーリー・ファーニアなのか?
マイミは口を開いた。
幸い、心の声は漏れなかった。
「南極に現れたクリーチャーは、体長が数十メートルもあり、観測隊が持っていた銃器では歯が立たなかった。さらに数ヶ月に及ぶ調査の結果、そのクリーチャーが恐るべき自己再生能力を持っていることが分かったの。撃っても切っても突いても、しばらくすれば傷口はふさがってしまう……」
「それって……不死の生物?」
「生物と呼んでいいかどうか分からない。だけど、通常の多細胞生物とは原理が異なるのは明らか。圧倒的な熱量で一気に粉砕すれば活動を停止するけど、一定以上の原型が残っていれば、無限に再生する」
「霧崎さん、もしかして我々が相手にしているクリーチャーもそれと同じだと考えているのか」
グレイが問うた。
「最初は違うと思っていた。だけど今は同じだと考えているわ」
そう考えることによって、マイミの心の奥底にある、思い出したくない記憶が呼び覚まされていたのだけれど。
「ねぇ、霧崎さん」
ホーリーが口を開いた。
「私の質問に答えてもらっていないわ。南極に現れたクリーチャーを、誰が、どうやって退治したの?」
マイミはギリっと奥歯を噛み締める。
「どうやって退治したのかは正確な記録は残っていない。だけど、誰がそれを成し遂げたのかは、はっきりしている」
その名を口にした瞬間、マイミの胸がうずいた。
「……霧崎アラタ。私の父親よ」
つづき




