表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/77

呪いを帯びた銃弾を探せ! 北米死闘篇(5) ~ヴィンセントの闇~

「悪魔って……」

マイミはザ・ピーナッツのごときユニゾンで喋る双子のことを、若干うざいと感じながらたずねた。

「どういう意味?」


「そうね」

「そうね」


双子がまたユニゾンで喋り始めたので、マイミは手を挙げて制した。

「ちょっと待って、喋るのはホーリーだけにしてくれない?どっちみち、あなたたち同じことしか言わないみたいだし、字数を稼いでるみたいに思われるのは作者的にも心外のようだし」


グレイがちらりと怪訝な表情を浮かべたが、マイミは無視した。

双子たちは頷き、ホーリーが話しはじめた。


「彼はかつてベトナム戦争に従軍していた。そこで地獄を見たの」


マイミは頷いた。自分が下調べしていたヴィンセント・ファーニアの情報と合致していたからだ。

「資料によれば、ヴィンセント・ファーニアは海兵隊に所属していて、1968年のテト攻勢の際に負傷して帰国してる。ケサンの米軍重砲基地で左足と右腕を失っているわ」


その言葉に、今度は双子たちが頷く番だった。

「夜陰に乗じて南ベトナム解放民族戦線が襲って来たの。榴弾が宿舎を屋根ごと吹き飛ばし、ヴィンセントは生き残ったけど、死んだ方がマシだと思える苦痛に3か月耐えなくてはいけなくなった」


マイミは陰惨な話を平然と語る、少女の形のよい唇を眺めていた。

まるで作り物のようだった。


「……大けがを負って帰国したことが、彼を悪魔に変えたと?」

「違う。彼はベトナムで既に悪魔になっていた」

「その言葉の意味を教えて」

「あなたなら、調べたんじゃないかしら。ベトナムであった事件について」

「それはもしかして、クアンタイ・カナット村虐殺事件のことを言っているのかしら」

「何だって?霧崎さん」

グレイが眉をひそめた。

「それは何の話だ」


マイミはグレイの方を向いた。

「南ベトナムで80人を超える非戦闘員が虐殺された事件よ。発見したのはアメリカ海兵隊の斥候部隊。その直前に韓国の歩兵大隊がその村を通過しており、韓国軍の仕業ではないかと目されていた。その後にも韓国軍はハミ村という場所で民間人を殺戮したと疑われているから」


「そうよ。でも韓国軍は否定した。ベトコンの陰謀だろうと米軍に釈明している」

ホーリーが低い声で囁くように言った。

「あの混乱の地で、結局誰が犯人かはわかっていない。クアンタイ・カナット村の村民は全員残らず殺されたんだから。老人も、子供も、妊婦も」


話を聞いていたグレイが、マイミに向かって肩をすくめる。

「なぁ霧崎さん、その事件とヴィンセント・ファーニアがどうやって結びつくんだ?」

「事件を本部に報告した斥候部隊を率いていたのが、ヴィンセント・ファーニア曹長だったのよ」

「何てこった」

グレイは双子たちに顔を向ける。

「もしかしてお嬢ちゃんたちは、自分の父親が犯人だったと言いたいのか?」

双子たちは答えなかった。ただうっすらと笑った。


「薄気味悪い話だな」

グレイの言葉がきっかけだったようで、双子たちは互いに顔を見合わせると、口を開いた。

「あたしたち、そろそろ寝るわ」


マイミは無言でうなずき、少女たちが部屋を出るのを見守った。



「ねえ、グレイさん。あの娘たちだけど……」

言いながら振り返ったマイミは、グレイがベッドに横たわっているのに気付いた。


「ちょっと、寝るの早くないですか。あたしの話も聞いてくださいよ」

「悪いな、薬の時間なんだ」


そう言うと、グレイはピルケースから黄色い小型のカプセルを取り出した。


そのカプセルには見覚えがあった。以前に、N村の佐倉さん家の風呂場で、グレイが持っていたものだ。どこかで見た記憶があり、気になったから写真に撮って正体について調べた。


「グレイさん、そのカプセル……」

「ん?どうかしたか」


言うなり、グレイはそのカプセルを口に放り込んだ。


「あ゛あ゛あ゛ーーーーー!!」


マイミは絶叫すると、ベッドの上のグレイに跳びかかる。


「何だ、どうした霧崎さん。ルパン三世ばりのベッドイン・ダイブじゃないか」

「ダメです、吐きだして!」

「なぜだ」

「そ、それ、クラーレです!」


マイミは文献で調べた情報が、お中元時期の佐川急便の荷捌き所のベルトコンベアのごとく、次から次へと脳裏に押し寄せてくるのを感じていた。


クラーレはアフリカの原住民が狩猟に用いた毒物で、ツボクラリンというアルカロイドが筋弛緩作用を起こす神経毒である。通常、消化器から吸収されることはないので経口摂取しても害はないとされている。原住民たちが狩猟に用いたのもそのためだ。だが、クラーレ毒カプセルには伝達物質が添加されており、経口摂取しても末梢神経に作用し、筋弛緩を引き起こすという。


そう、カプセルを飲めばフグの毒に当たったかのごとく、全身に毒が回る。


「グ、グレイさん!」

マイミは叫んだ。


だが返事は無い。




ただのしかばねのようだ。





つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ