呪いを帯びた銃弾を探せ! 北米死闘篇(4) ~ガンスミスを辿る道~
ワゴン車の中に居たのは、金髪碧眼の美少女だった。
年齢は、十五歳くらいだろうか。
柔らかな上質のブラウスに、ベルベット地の濃紺のスカート。十字架のを象った、手の込んだ装飾のピアス。上品な服装で、見ただけで金持ちの娘だと言うことが分かった。
奇異な点が幾つかある。
娘は、二人いた。
金のピアスをした方が、マイミを見つめている。銀のピアスをした方は、窓の外を眺めていた。
まったく同じ容貌。すなわ、双子だ。
そして娘たちは二人とも、飛び散った血を浴びている。
だというのに、まったく動揺した様子が無かった。
「どうしたって言うんだ、霧崎さ……」
そう言いかけたグレイも、驚きの表情を浮かべてワゴン車の中を呆然と見つめた。
「何だ、これは……。何があったんだ」
マイミは深呼吸した。
こんな展開になるとは思ってもいなかったが、何とか落ち着いて対処しようとした。
口を開き、少女たちに話しかける。
「ちっ……。こういう美少女が出てくると、ヒロインのあたしの立場が無いじゃない(Are You OK?)」
「どうした、霧崎さん。また心の声が漏れてるんじゃないか」
「しまった」
「そもそも君はヒロイン枠なのか?」
「えっ?」
「……あたしたちなら、大丈夫よ」
いきなり美少女が口を開いたので、マイミとグレイは口を閉ざしてそちらを見やった。金色のピアスの方が、マイミを見上げて言う。
「この血はあたしたちの血じゃないから。あたしは、ホーリー。妹は、モーリー」
「ヤン坊とマー坊みたい(教えてくれてありがとう、いい名前ね)」
グレイが二人の血を指さした。
「君たちの血じゃないとすると、これは何だ。そして、さっきの男たちとの関わりは?」
「あたしたちは人質だったの」
「人質だと?」
「彼らは、あなたたちも同じものを探してると考えていた」
マイミは口をつぐみ、しばらくホーリーの言葉の意味を考えた。
そして、あらためて口を開く。
「……それってつまり、呪いの銃弾?」
「そう。もっと言えば、それを作った人物」
「つまり、ガンスミス?」
ホーリーはこくりと頷いた。
「あなたたちが探してるのは、ヴィンセント・ファーニア」
その名を聞いてマイミは驚いた。ATFのレポートの中で目にし、行方を追っていた伝説のガンスミスの名だったからだ。
「あなたたちは何かを知っているの?」
「知ってるわ。私たちは彼の娘だから」
マイミとグレイは、言葉を失った。
※ ※
国道沿いのモーテルは、建物こそ古びているが室内は清潔で広かった。一泊七十ドルと安い割に、庭にはプールがあって朝食も無料だと言う。ただ一つの欠点を除けば完璧だな、とマイミは思った。
「霧崎さん、壁際のベッドで寝てくれないか」
そう言うとグレイは入口に近い方のベッドに荷物を置いた。
「何でグレイさんと相部屋にならなきゃいけないんですかね」
「仕方ないだろう、ほぼ満室だってんだから。双子ちゃんと我々で二部屋取るのが限界だったんだ」
「他にモーテル無いんですか」
「ロスの方に戻ればもっと選択肢はあるだろうが、あんな銃撃戦をやらかした後じゃ、あっち側に近寄りたいとは思わないな」
マイミはプリプリしながら荷物を置くと、荷解きを始めた。
「双子ちゃんを警察に引き渡すって選択肢もあったんだがな」
グレイが言った。
「いえ、それはありえません。彼女たちがヴィンセント・ファーニアの娘だと言うのなら、標的に近づくために徹底利用すべきです」
「だが、あの双子ちゃんからは危険な匂いしかしない」
「ええ。でもこの銃弾にまつわる話は全て、危険の匂いでむせ返りそうな状況にあるんです」
「どういう意味だ?」
グレイはブーツを脱ぐと、ベッドの上に腰かけた。
「ATFのレポートによれば、昨年の暮れから、連邦銃火器免許(FFL)を所有する事業所が次々に廃業に追い込まれています。アメリカ西部のガン・コミュニティの中で、何やら陰惨な抗争が発生しているようなのです」
「抗争だと?」
「銃器製造のライセンスを所有するのは、何も大手のメーカーだけではありません。家内制手工業の規模で拳銃のカスタマイズをしている事業者や、競技者向けの特別な弾薬を製造している者もいます。彼等はごく狭い市場を相手にしており、非常にニッチなニーズに向けて、それぞれが得意とする領域のサービスを提供しているのです。そこに国際世論の圧力を受け、アメリカに銃規制の波が押し寄せたことで、パイの奪い合いが起きているのです」
「また俺の苦手な領域の話になってきたな。分かりやすく何かに例えてもらえないか」
「要するに、縄張り争いです。お得意先の奪い合い」
「ふむ。それで、霧崎さんはそのATFのレポートと呪いの銃弾をどうやって結び付けたんだ?」
「昨年から今年度の初めにかけて、銃製造業者の抗争が原因と思われる殺人事件が十八件起きています」
「それは、多いというのか?」
「非常に。基本的に狭い業界の中にあって、どちらかと言えば彼らはこれまで仲良くやってきた」
「それがここに来て、殺し合いも辞さない抗争を繰り広げていると?」
「その中心にいるのが……」
「ヴィンセント・ファーニアという男か」
マイミは頷いた。
「グレイさん、件の預言を覚えていますか?」
その言葉に、グレイは片眉を持ち上げた。
「世界を覆った悪意が、炎と鉄と病原菌となって人々を苦しめる、って話か」
「炎と鉄と病原菌とは、人間の進化に伴う文化の発展と、それによってもたらされた災厄のことです。つまり、世界中に現れたクリーチャーたちは象徴に過ぎない。災厄の中心にあるのは……」
「人間の悪意」
「そうです」
「では、銃弾にかけられた呪いとは何だ」
「わかりません。でも、この事件の中心には常に人間の悪意がある」
マイミはN村で微笑みをたたえながら自分を殺そうとした佐倉さんを思った。本質的にはとても善良な人間である佐倉さんが、追い詰められることによって悪に変貌したのだ。人間とは何と脆く移ろいやすい生き物なのだろう。
「ヴィンセント・ファーニアが正確にどんな役目を果たしているか、今は謎です。ですが、このガン・コミュニティの陰惨な抗争劇の中心にいるガンスミス。彼こそが呪いを帯びた銃弾に関与している可能性が高い」
「しかし、ただの銃職人なんだろう」
「いいえ、違うわ」
「いいえ、違うわ」
ユニゾンで聞こえるその声は、部屋の入口から聞こえてきた。
シャワーを浴び、血の付いた衣服を脱ぎ捨てたホーリーとモーリー。マイミがアバクロで買ったジーンズとぴっちりとしたキャラクターTシャツを着ている。
「ヴィンセントは……」
「ヴィンセントは……」
ホーリーとモーリーは同時に言った。
「悪魔よ」
「悪魔よ」
マイミとグレイは、顔を見合わせた。
つづく




