第48話 新しい聖女のかたち
澄み渡る朝の陽光が、辺境領の城門を白く照らしていた。
大聖堂からの迎えの馬車の前で、旅装を整えたミリアが、胸元の聖印を握りしめて私とガルドに向き合っていた。
かつて大聖堂から追いやられるように辺境へやってきた、自信なさげな聖女見習いの姿はそこにはない。
その瞳には、一国の信仰と治癒の制度を一新する『筆頭聖女』としての、凛とした覚悟が宿っていた。
「エルセリア様、ガルド様」
ミリアは深々と頭を下げた。
「思えば、私が辺境に派遣された当初は……エルセリア様の弱体魔術を『不吉な呪い』と恐れ、『処刑人のような戦い方は間違っています!』なんて、思い上がりも甚だしい口を叩いておりました」
「ふふっ……懐かしいですわね」
私が扇を口元に当てて微笑むと、ガルドも豪快に笑った。
「あの頃のミリアは、俺が死ぬたびに『人権侵害です!』って叫んでたからな」
「も、もう! ガルド様は一言多いです!」
頬を膨らませて怒るミリアに、城門前の空気が和らぐ。
だが、すぐにミリアは表情を引き締め、真っ直ぐに私の瞳を見つめた。
「ですが、お二人と共に戦い抜く中で……私は知りました。感情や見せかけの奇跡で人を酔わせるのではなく、冷徹な計算と秒刻みの調律によって、確実に『一番多くの命を救うやり方』があるのだと」
ミリアは聖杖を胸に抱き、誓うように言葉を紡いだ。
「私は大聖堂へ戻り、神殿の欺瞞と不正をすべて一掃いたします。そして……エルセリア様の隣で学んだ『真の救済のあり方』を、今度は聖光の側から証明してみせますわ」
「ええ。頼もしいことですわ、ミリア」
私は歩み寄り、彼女の小さな手をそっと包み込んだ。
「光と影は、互いを照らし合ってこそ世界を正しく律するもの。……大聖堂の調律は、貴方にしかできません。自信を持ってお行きなさい」
「おう、あんまり一人で背負い込んで無茶すんじゃねえぞ」
ガルドが大剣の柄をポンと叩き、ニッと笑って見せた。
「まあ、あの地獄の七十二時間を生き抜いたお前だ。大聖堂の頭の固いジジイどもくらい、楽勝で叩き直してこれるぜ」
「ふふっ……はい! 私の最高の治癒と結界で、大聖堂の根性を調律してまいりますわ!」
「はいっ……! エルセリア様、ガルド様、また必ずお会いしましょう!」
晴れやかな笑顔を浮かべたミリアは、馬車へと乗り込み、窓から大きく手を振りながら王都へと旅立っていった。
かつての仲間が、自らの信じる道を切り拓くために巣立っていく――心地よい旅立ちの朝だった。
◇
ミリアの馬車が見えなくなり、私とガルドが領主館へ戻ろうとした、その時だった。
「報告! 隣国ガルシア帝国より、至急の特級親書にございます!」
早馬に乗った使者が、砂煙を巻き上げながら城門前へと駆け込んできた。
手渡された親書を開いたヴァルテン女辺境伯の眉が、険しく跳ね上がった。
「……何だと?」
「ヴァルテン様、いかがなさいましたの?」
私が尋ねると、ヴァルテンは親書を握り締め、驚愕と戦慄の混ざった視線を私へと向けた。
「隣国ガルシア帝国の北部山脈に……『どれほど火力を注ぎ込んでも傷一つ負わぬ、超再生の巨大厄災』が出現したそうだ。帝国の最強魔導軍団と勇者部隊が全滅し、帝国皇帝から我が王国へ……いや、エルセリア公爵への直々の救援要請だ」
チ、チ、チ。
胸元の銀の懐中時計が、世界の広がりを告げるように、再び静かに秒針を刻み始めていた。
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前世過労死した社畜オタク、TS美少女神絵師になってVTuberの娘に狂わされる〜本業が行方不明ですが、今度こそ幸せに生きてみせます〜
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