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婚約破棄されたデバフ令嬢は、無敵の厄災をじわじわ裁く ~一撃の火力はゼロですが、私の状態異常は罪深い方ほどよく効くようです~  作者: ランダムアクセス
第4章 裁きの終曲

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第44話 ノクティス家、再興

 王城、最上層――白金の間。


 八百年前に初代国王とノクティス始祖が盟約を結んだのと同じその広間で、厳粛な「新・裁定者契約」の調印式が執り行われていた。

 中央の長机を挟んで向かい合っていたのは、アルディア国王陛下と、ノクティス公爵家新当主たる私だった。


「エルセリア公爵。……八百年前の先祖の罪のみならず、余自身の不明によってそなたを不当に追放の憂き目に遭わせた過ちを、王として心より詫びる。この歪んだ契約を今ここで正すことこそが、余の治世における最大の責務である」


 国王は自らの署名と玉璽を押した羊皮紙を、私の前へと差し出した。


 そこに記されていたのは、主従の契約ではない。

 王家が光の統治を正しく行い、ノクティスがその因果の澱みを秒単位で調律・清算し、互いに不正を監視し合う――「真に対等なる盟約」。

 王国の全貴族を統括する貴族院における最高拒否権、ならびに国家魔導の因果を直接監査・裁定する絶対権限――四大公爵家の頂点たる「筆頭公爵」の実権が、正式にノクティスへと付与された証だった。


「謹んでお受けいたしますわ、陛下」


 私は羽ペンを取り、流麗な筆跡で『エルセリア・ヴァン・ノクティス』と署名した。

 そして、契約書の末尾に、ノクティスに伝わるあの言葉を刻み込んだ。


『――拍を乱すな。罪は必ず、利子をつけて戻る』


 かつて不吉な呪いと蔑まれた家訓は、いまやこの国の平和と公正を永遠に律するための、至高の戒律として王国の最高公文書に刻印されたのだ。


 パチン。


 私が銀時計の蓋を閉じると同時に、白金の間を取り囲む近衛騎士団、宮廷魔導士団、そして全貴族たちが一斉に膝をつき、ノクティス新当主たる私へと最敬礼を捧げた。


「ノクティス公爵万歳!」

「王国の真の守護者、エルセリア公爵に栄光あれ!」


 その光景を横で見ていたミリアは、胸の前で手を固く組み、まるで自分のことのように瞳に熱い涙を浮かべて微笑んでいた。

 窓の外の王都全土からも、鐘の音とともに万雷の歓声が地鳴りのように響き渡っていた。

 かつて夜会の壇上で「撃破数ゼロの無能」と嘲笑され、家訓の時計一つを持たされて追放された令嬢は、いまや王国の頂点に立つ筆頭公爵として、揺るぎない名誉と正統性を取り戻したのだ。


 ◇


 式典が終わり、王宮の車寄せ。


 正装を脱ぎ、動きやすい令嬢旅装へと着替えた私の元へ、ガルドとミリアが歩み寄ってきた。


「やれやれ、お偉方の歓声には鳥肌が立つぜ。……で、公爵様。これからどうなさるんで? 王都の豪邸で優雅にお茶会三昧かい?」


 ガルドがからかうように笑う。


「まさか。……王都の机の上で退屈な書類仕事を眺めるのは、私の性分には合いませんもの」


 私が扇を優雅に広げて微笑むと、王宮の正門を潜って、見覚えのある一台の頑丈な馬車が車寄せへと滑り込んできた。

 馬車の扉に刻まれているのは、東部辺境の覇者――ヴァルテン女辺境伯家の紋章。


 御者台から飛び降りてきた屈強な辺境騎士が、私に向かって深々と敬礼した。


「エルセリア公爵閣下! ヴァルテン閣下より迎えの言付けを預かっております! 『王都のケリがついたなら、さっさと帰ってこい。辺境の魔導炉の調律仕事が山積みだ』とのことです!」


「ふふっ……ヴァルテン様らしいお言葉ですわね」


 ミリアが楽しそうに吹き出し、ガルドも嬉しそうに大剣を担ぎ直した。


 チ、チ、チ。

 胸元の銀の懐中時計が、心地よい三拍子を刻んでいる。


「参りましょう、ガルド様、ミリア。――私たちの、本当の居場所へ」


 こうして、八百年にわたる王国の罪の清算劇は幕を閉じ――物語は、新たな調律の調べが待つ終章へと、静かに歩みを進めていった。


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