第43話 それぞれの報い
王城、大審問法廷。
重厚なステンドグラスから差し込む朝の光の下、国王陛下が裁判長席に着き、左右を重臣と各派閥の貴族たちが埋め尽くしていた。
中央の被告人席には、かつて王国の頂点で傲慢に振る舞っていた二人の男女が並んで立たされていた。
アルヴィス王子と、リーゼロッテ・シュタール。
「――判決を言い渡す」
国王の低く威厳に満ちた声が、静まり返る法廷に響き渡った。
「元第二王子、アルヴィス・アルディア。厄災討伐戦における独断による近衛騎士団の殺傷および戦線崩壊惹起、王立学園卒業試験における公文書偽造および職権濫用。……よって、王位継承権ならびに王族の身分を永久に剥奪する。平民に落とした上、最果ての孤島修道院へ一生涯の幽閉に処す」
法廷全体に、息を呑むようなどよめきと重苦しい沈痛が広がった。
王族籍の永久剥奪という王国の歴史上類を見ない断罪に、重臣たちは青ざめ、王族席の親族たちは言葉を失って目を伏せている。
「ち、父上……! お待ちください、父上ぇぇっ!」
アルヴィスはなりふり構わず法廷の床に縋り付き、涙と鼻水を流しながら叫んだ。
「余は……いや、私は騙されていたのです! すべてはオズワルドとリーゼロッテに惑わされただけなのです! エルセリア、頼む、お前から父上に口添えをしてくれ! お前を捨てたのは悪かった、何でもする、お前の奴隷にでもなるからぁぁっ!」
かつて夜会の壇上で私を見下し、「撃破数ゼロの役立たず」と嘲笑った男の、救いようのない無様な姿。
私は黒い扇を胸の前で静かに広げ、一瞥もくれることなく冷然と言い放った。
「あなたと踊る曲は、もうございませんと申し上げましたはずですわ」
「ひぃぃっ……! エルセリアぁぁぁっ!」
衛兵たちに両腕を掴まれ、床を引きずられながら退廷させられていくアルヴィス。
傍聴席に座る貴族たちからも、かつての王太子へ向けられたのは、憐れみすら混ざらぬ冷酷な軽蔑の視線だけだった。
続いて、国王の視線がリーゼロッテへと向けられた。
「リーゼロッテ・シュタール。禁忌たる厄災の核片の摂取による王都破壊未遂、ならびに長年にわたる功績の横取りと虚偽の聖女劇。……全魔力の完全枯渇と《罪量刻印》の因果により、すでに聖光の力は失われておる。よって貴族位を剥奪の上、神殿の隔離修道院にて、己の積み上げた罪を数え続ける贖罪の労役を命ずる」
「…………」
リーゼロッテは、もはや叫ぶことも、取り乱すこともしなかった。
反論する気力すら枯れ果て、かつてあれほど渇望した民の歓声もスポットライトも、もう二度と自分には戻らないという絶対の空虚。
全身の魔力を削ぎ落とされ、誇りも名声も失った抜け殻のような彼女は、ただ自らの小さく震える手を見つめ、力なく頭を垂れた。
「……承知……いたしました……」
かつて民の歓声と虚飾の光に溺れていた偽聖女の、静かな幕引きだった。
◇
法廷の出口へ向かう私の隣で、ガルドが肩をすくめながら吐き捨てるように言った。
「あっけないもんだな。王族だ聖女だって偉そうに権威の鎧を着込んでた連中も、罪を暴かれて中身を引きずり出されりゃ、ただの空っぽの泣き虫だ」
「エルセリア様……復讐を果たされて、少しは胸が晴れましたか?」
ミリアが気遣うように尋ねてきた。
私は胸元から銀の懐中時計を取り出し、パチンと蓋を開いた。
チ、チ、チ。
静かに刻まれる三拍子の調べ。
「いいえ。復讐などではありませんわ、ミリア」
私は穏やかに微笑み、首を横に振った。
「ノクティスの術は、誰かを憎んで罰を与えるためのものではありません。……乱れた拍を正し、積み上がった負債を元の天秤へと戻しただけ。彼らが積み上げてきた報いが、ただ表に出ただけのことですわ」
私情の快楽ではなく、世界の調律者としての静謐な誇り。
ミリアは感銘を受けたように微笑み、ガルドも頼もしげに頷いた。
その時だった。
「エルセリア公爵」
法廷の奥から、国王陛下が護衛を下がらせ、自ら私の前へと歩み寄ってきた。
その瞳には、一国の王としての深い敬意が宿っていた。
「そなたに頼みがある。……八百年前に歪められた偽りの支配を終わらせ、王家とノクティスとの間に――真に対等なる『新しい契約』を結び直してはくれまいか」
チ、チ、チ。
秒針は、新時代の幕開けを告げるように、高らかに時を刻んでいた。
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