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婚約破棄されたデバフ令嬢は、無敵の厄災をじわじわ裁く ~一撃の火力はゼロですが、私の状態異常は罪深い方ほどよく効くようです~  作者: ランダムアクセス
第4章 裁きの終曲

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第38話 白い厄災

 大聖堂の天蓋を吹き飛ばし、夜空へと立ち昇る白黒の魔力柱。


 王都全土に非常を告げる警鐘がけたたましく鳴り響き、大聖堂前の石畳広場には、抜刀した第一近衛騎士団と宮廷魔導士団、そして勇者パーティが雪崩を打つように集結していた。


「な、何だあの化け物は……!?」

「大聖堂から……聖光と瘴気が同時に吹き荒れているぞ!」


 瓦礫の山となった祭壇の中央から姿を現したのは、全高十メートルに達する白銀の巨獣だった。

 白骨の翼を広げ、全身を覆うのはまばゆい聖光の結晶装甲。だがその内側には、ドス黒く脈動するヴォルグレイドの心核が埋め込まれていた。


 ――聖光×罪業の完全複合体。


「アァァァァァ……ッ!!」


 怪物の頭部から、リーゼロッテの声が重なり合ったような狂気の叫びが響き渡る。


「総員、構え! 一斉射撃で撃ち落とせぇっ!」


 第一騎士団長の号令とともに、数百名の魔導士と弓兵が一斉に火炎と雷撃の集中砲火を浴びせた。

 さらに勇者が聖剣を抜き、まばゆい光の斬撃を巨獣の眉間へと叩き込む。


 ドガガガガガァァァンッ!!


 爆音と閃光が広場を埋め尽くした。

 だが――煙が晴れた瞬間、騎士たちから絶望の悲鳴が上がった。


「な……効いて……いない……!?」


 物理斬撃と聖光の刃は、体表を覆う聖光の絶対障壁によってことごとく弾かれ、火炎や雷撃の属性魔法は、黒紫の瘴気によって瞬く間に吸収され、怪物の魔力へと変換されていた。

 傷一つ負っていない。それどころか――ドクン、と巨獣の胸郭が脈動するたび、全身の結晶装甲が一回り肥大化し、夜空を衝く白黒の光柱がさらに禍々しく膨れ上がっていく。

 踏み締める石畳がメキメキと音を立てて軋み、無数の亀裂が広場全体へと走った。


「攻撃すればするほど……怪物が力を増していくというのか……!?」

「ば、馬鹿な……王国最高戦力たる勇者も魔導士団も、ただの餌にしかならぬというのか!」


 駆けつけた国王陛下が青ざめて呻き、騎士団長は震える手から剣を取り落とした。

 勇者が恐怖に顔を歪めて後ずさり、広場を埋め尽くす数百の兵士たちが、完全な無力感に呑まれて腰を抜かしていた。


「……あんな姿に成り果てるなんて」


 私の隣で、ミリアが胸元の聖印を強く握りしめ、痛ましげに唇を噛み締めていた。

 かつて同じ神殿で祈りを捧げ、誰よりも眩い聖女として敬っていたリーゼロッテ様が、自らの傲慢と罪の果てに怪物へと堕ちた現実。

 悲痛さに瞳を揺らしながらも、ミリアは聖杖を両手でしっかりと握り直し、そのおぞましい姿から決して目を逸らさなかった。


 王都の誰も触れることのできない、完全無欠の「白い厄災」。


 その混乱と悲鳴の中、私は大聖堂の回廊からゆっくりと広場の中央へと歩み出た。


「お嬢さん」


 大盾を構えて私の前に立ったガルドが、巨獣を見上げながら低く呟いた。


「厄災の時と同じだ。物理も魔法もまるで通らねえ。……どうする? 観察時間はどのくらい必要だ? また何十時間でも敵意を固定して引きつけ回してやるが」


「ガルド様」


 私は黒い扇を胸の前でパチンと閉じ、冷ややかに唇を吊り上げた。


「お心遣いは嬉しゅうございますが――今回は、観察は不要ですわ」


「……あん?」


 ガルドが目を丸くする。

 私は胸元から銀の懐中時計を取り出し、静かにその蓋を開いた。


 チ、チ、チ。

 絶望に染まる広場の静寂を切り裂くように、冷徹な三拍子が刻まれる。


「あの方の罪量なら――学園で出会ったあの日から、とっくに計測済みですもの」


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