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婚約破棄されたデバフ令嬢は、無敵の厄災をじわじわ裁く ~一撃の火力はゼロですが、私の状態異常は罪深い方ほどよく効くようです~  作者: ランダムアクセス
第4章 裁きの終曲

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第33話 聖女見習いの告発

 薔薇庭園の静寂を破り、松明の明かりが次々と庭園を取り囲んだ。

 駆けつけてきたのは、第一近衛騎士団長と、重臣たちを引き連れた国王陛下その人だった。

 すでにエルの手配により、王子の呼び出しの時刻と場所は国王側近へと伝えられていたのだ。


「な……父上……!?」


 腰を抜かしたアルヴィス王子が、青ざめて国王を見上げる。


「何事だ、アルヴィス。夜半に救国の英雄を呼び出し、何の見苦しい密談をしておるのだ」


 国王の冷徹な叱責に、王子は喉を鳴らして言葉を詰まらせた。

 その重苦しい沈黙の中、ミリアが一歩前に進み出て、優雅に、だが毅然として片膝をついた。


「国王陛下。……聖女見習いミリア・フォン・シュタール、神殿および我が実家シュタール家が犯し続けてまいりました大罪を、ここに告発いたします」


「ミリア……!? 貴様、神殿の裏切り者となる気かぁっ!」


 後方から、取り巻きの神官たちを引き連れて現れたリーゼロッテが、金切り声を上げて叫んだ。

 純白の修道服を着飾りながらも、その顔は恐怖と怒りで醜く歪んでいる。


「裏切りではありません、リーゼロッテ様」


 ミリアは聖杖を強く握りしめ、かつて自分が仕えた義姉を真っ直ぐに見据えた。


「真実の光を取り戻すための、清算です。――陛下、これをご覧くだされば、すべてが明白となります」


 ミリアが差し出した羊皮紙を、第一騎士団長が受け取り、国王の前で広げた。

 そこには、シュタール家の裏帳簿と、神殿記録保管庫から持ち出された本物の試験記録が克明に記されていた。


「……これは、王立学園の卒業実技試験の原本か」


 国王の眉が険しく寄る。


「はい。あの日、演習場で暴走したキメラは、突発的な事故などではありませんでした。リーゼロッテ様を『救国の聖女』として華々しく社交界へ売り出すため、神殿の術士があらかじめ魔導制御環に細工を施し、故意に暴走させたマッチポンプだったのです」


「な……何だと!?」


 周囲を取り囲む騎士たちから、どよめきが走る。


「暴走したキメラを無傷で制圧し、生徒たちを救ったのは――エルセリア様でした。エルセリア様が十八重の弱体術式を編み込み、すでに指一本動かせぬ状態にまで追い詰めた後、リーゼロッテ様がその上から派手な聖光を放ち、手柄を完全に横取りしたのです」


「嘘よ! 嘘ですわ!」


 リーゼロッテが激高して叫ぶ。


「この小娘は、ただの卑しい庶子です! 私への嫉妬で出鱈目を並べ立てているのですわ!」


「出鱈目ではありません。……試験官であった宮廷魔導士たちへの買収の領収書、そして何より――」


 ミリアは冷徹にアルヴィスを指差した。


「アルヴィス殿下が、リーゼロッテ様との婚姻によって神殿の支持を取り付けるため、自ら王太子の権限で記録の改竄を命じた直筆の署名が、ここに残されております」


「ひ、ヒィッ……!?」


 アルヴィスが頭を抱えてその場に崩れ落ちた。

 言い逃れの一切できない、動かぬ物証。

 かつて「撃破数ゼロの無能」としてエルを追放した夜会の根拠そのものが、王太子と偽聖女による醜悪な狂言劇であったことが、白日の下に晒されたのだ。


「おのれ……アルヴィス! 王家の名をここまで貶めるとは……!」


 国王の怒号が庭園を震わせる。

 重臣たちは顔面蒼白となって震え上がり、リーゼロッテを取り巻いていた神官たちは蜘蛛の子を散らすように後ずさった。

 リーゼロッテは「私は聖女ですわ! 民を救う聖女ですのよ!」と半狂乱になって喚き散らしていたが、周囲の近衛兵たちはもはや彼女を汚物を見るような目で見下ろすのみだった。


 その時だった。


「――陛下。暴かれた罪は、それだけに留まりませぬぞ」


 薔薇の小道の奥から、静かな足音とともに姿を現したのは――老宮廷魔導士バルツァーだった。

 その両手には、厳重に封印されていたはずの王立禁書庫から持ち出された、古びた一冊の魔導書が抱えられていた。


「バルツァー卿……。それは何だ」


「儂が長年、保身のために見て見ぬ振りをし、墓場まで持っていこうとしていた……恥ずべき沈黙の記録にございます」


 バルツァーは私に向かって深々と頭を垂れた。


「エルセリア様が三日三晩、一秒の狂いもなく命を削って王都を救われる姿を拝見し……老い先短いこの命を惜しんで真実を隠し続ける己の卑怯さに、耐えられなくなりました。……命を賭して、禁書庫の封印を破ってまいった次第にございます」


 老魔導士は古文書の最初の頁を開き、震える指でその一節を指し示した。


「八百年前、神殿が創設された当時の『真実の記録』。……この地に眠っていた厄災《ヴォルグレイド》は、自然発生した魔獣などではございませぬ。八百年前、初代国王と初代大司教が、自らの権力を盤石にするために生み出した――人為的な因果のゴミ捨て場だったのです」


 静まり返る庭園に、王国の根幹を揺るがす真実が、いま静かに開示されようとしていた。


読んでくださりありがとうございます!


全50話のうち、いよいよ第30話突破!完結まで残り20話です。最後まで毎日12時/18時に駆け抜けます


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